定食・食堂・料理屋: 2007年4月アーカイブ

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 この春に、なんどか芝、新橋に行く機会があった。当然、あたりを散々無駄歩き。そんな昼時に見つけたのがこの店。この外観を見て通り過ぎることが出来るのははっきり言ってオヤジではない。まさに昭和の香り、なかから森繁久弥が出てきそうだ。

 思わず店に入って「しまった」と思う。なぜならヒレカツ、ロースカツも総て2千円以上する。これは貧乏なお父さんには辛いな。でもよく見ると「ランチ」というのがあり、これならなんとかなる。
 注文を受けるとすぐに天ぷら用の低い銅製らしい鍋に、トンカツを泳がせる。揚げている音はパチパチと8分音符である。そしてしばし待ち、出てきたものにはちょいとがっかりした、荒く刻んだキャベツが皿からはみ出している。ご飯は茶碗ではなく皿にのる。しかもみそ汁が豚汁なのである。豚汁は好きだがトンカツに豚汁は合わないと思う。この点では神保町界隈の「いもや」のシジミのみそ汁の方が上だ。

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 この失望はトンカツを一口食べるやすぐに解消する。なぜならサクリとあがった衣の中の豚肉が柔らかく、そして味がある。「ええ、え!」と外見の平凡さとの違いに驚くのである。しかしこのトンカツはうまい。これでもしも定食のロースをお願いしたらいかなることになるのだろう。この「カツランチ」、豚汁がシジミ汁だったらまさにパーフェクトだ。

 店内が1時をとうに過ぎて満席である。どうもこの店はかなりの有名店らしい。ガイドブックのたぐいを持たない、読まない主義であるし、あえて言うと今風に言うところのグルメではないので、いい店に出合うのは一入うれしい。

燕楽   住所:東京都港区新橋6-22-7

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 貧乏学生であったので、その昔、この店とは無縁であった。初めて入ったのは仕事を始めてから。当時は夜も昼も朝もなく、という状態だったので、少しでもまともな飯が食いたいと『魚玉』『亀半』『末広』『近江屋』なんかで定食を食っていたのだ。ほかには『キッチン山田(ヤマダ? 忘れてしまった)』というのもあったが、とにかく今に残るのは『近江屋』とこの『魚玉』だけとなっている。ともにめったに足を運ばない。なぜなら生活がやや普通になってしまったからだ。とすると昼飯にこのような「焼き魚」を中心とする店に入る気がしないのである。あえて言うと中途半端な夜に利用するだけ。

 さて、『魚玉』の引き戸をあけるとカウンターが奥に続く。いちばん奥には1個だけテーブルがある。その左手が厨房なのだが、そこで目立つのが発泡の白い箱。席に着くと、オヤジさんが来て「サンマにサバ、ニシンの塩焼き、サワラの粕漬け、ブリの照り焼き。お刺身もあります」なんて唄う。それに圧倒されてゆっくり選べないのが、この店の嫌なところ。でもこれも珍しいし、懐かしい、好ましいと思う人も多いだろう。

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 この店のいちばんのお勧めは鉄火丼であった。でも久しぶりに来店して、なぜだかニシンが食べたくなったのだ。そのニシンは白い発泡にすでに焼いて入っている。それを出すだけだから、来るまでに数十秒、ときに1,2,の3で来たりする。この早さがうれしいのだ。
 でも言っておきたいのは、けっしてこの素早くくる焼き魚がうまいもんじゃない、ということ。ここはあくまで「投げるタイミングのいい好投手」のようではあっても、「打ち安くはない」という代物で、「店としては至って優秀」だが「満足度は低い」のである。この日のニシンもやや焼いてから時間が経ち、ぱさついている。そこにうまい白飯があってはじめて許される程度のもの。こんなところがこの店のあらましなのだ。

 このような店がある意味、神保町らしいものの代表だと思う。例えば築地の食い物屋の多くが期待はずれなのが、それはあくまで質実であるのを尊ぶからであるのと同じ。この店を利用する常連というと、授業を前にした助教授あたり、はたまた胃袋にたまにはまともな食事を入れたい本屋の店員、編集者などだろう。当然、時間に余裕があるはずもない。そこに「ニシンね」、「あと冷や奴に、お浸しも」ときて「そら!」とくる手早さが捨てがたい魅力となる。その最後の店が『魚玉』である。

魚玉 千代田区神田神保町1の32

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