この店に初めて入ったときの驚きをなんと表現したらいいのだろう。まず雰囲気がベストに近い、そして当然、味に期待を持って、実際に食べてみて、そしてうまかったのだ。最初の小諸そば体験は五反田であった記憶があるがはっきりしない。いちばん通ったのは日本橋。高島屋から日本橋に寄ったところにある店舗である。ここは女性が食券(ふだ)を売っていて、それをまた店員の方が厨房に伝える。そして好きな場所で待っていると、ほどなく持ってきてくれるのだ。この手際の良さ、また混雑している店内であるにもかかわらず煩わしさが皆無であったことなど、これだけで慌ただしい生活を送っているとありがたい。
そしていちばんビックリしたのは盛りそばがあったことだ。すなわちここでは生そばを茹でて使っているのだ。
生そばを使うというのがいかに画期的であったかは類似の店が増えてしまった今では思いも寄らないだろう。そしてその盛りがまた、画期的なうまさであった。当時、うまいそばを食うなら老舗の藪や並木で食べるか、うまくはないが街なかのコストパフォーマンスの著しく低いそば屋に入るかしか選択の余地はなかった。残念なことにこの老舗とまずい街のそば屋との価格差はなく500円から700円ほど。そして違いは老舗は盛りが少なく、街のそば屋は盛りが多いということでしかなかった。当然、街で知らないそば屋に入るのはまったく無意味に思えたのだ。そんな街のそば屋よりもぐーんとうまくて、値段も半額のそば屋が出来た、たぶんこれで神田や日本橋のサラリーマンなどの昼飯にもうひとつの選択肢ができたにちがいない。
それ以来、日本橋で、八重洲でと小諸そばで、盛りそば(二枚盛り)というのは定番となった。また盛りではなければうどんになる。ここで問題なのは、かけそばである。常々、生そばを茹でてうどん兼用のつゆで食べるのには疑問を感じている。そば屋でいちばん好きなのは並木藪、まつ屋などであるが、ここでも温かいそばに満足を感じたことがない。思うにそばは温めてうまい食べ物とは言えないのではないか?(これに関しては別に書く)
さて、そばやうどん自体の味わいに話を移すと。生そばの味わいはへたな街のそば屋を凌駕して香り高くうまい。うどんもそこそこいい味なのだから、それにも感嘆するしかない。また、それを受ける、つゆがよくできているのだ。かつお節の風味も塩分濃度も過不足なく、うどんにもそばにも調和していい味わいとなっている。これで盛り210円、かき揚げ330円というのだから驚き。
ちょっと「小諸そば」をほめすぎているかも知れないので、ちょっと最近気になることも書く。それは店舗によって味わいや店員の質にバラツキが目立ち始めている。これは仕方がないのかも知れないが、これでは「小諸そば」なら安心というイメージが崩れる。
これは「小諸そば」390円。ボクとしては温かいそばに山芋というのが理解できない