築地場内『中榮』の合いがけ

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 初めて築地に来てから30年以上になるんだな。この前、築地を歩いていて、感慨深くなる。まあ最初は暮れの買い出しだったり、また物見遊山であったり。ようするにとりとめもなく築地に行くだけだったのだ。ここ20年ほど、魚貝類そのものを見るというのと、値段の感覚を身につけるための築地行きとなって、なんだか慌ただしく、築地ではよそ者でありながら、まるで仕事をしにいくかのような雰囲気なのである。
 そうすると場内でミックスフライや煮魚定食を食べていたのが、面倒くさくなってとにかく腹が減ったら立ち食いそばかカレーというのが多くなってきた。だいたい昔から築地で食べる朝ご飯が特別うまいものだとは一度も思ったことがないので、これは自然な成り行きというもの。

 近年のテレビにおける番組を見ていると、「築地グルメ」とか「築地に究極の味を求めに行く」なんてのがあるが、寿司屋にしても、定食屋、天ぷら屋にしてもそんなに出色の店なんてあるわけがない。もしもうまい店があるとしても、平凡な、日常的な在り来たりなものだと思った方がいい。「普通であって、しかもいい店が多い」のが築地の特徴なのだ。
 そんな築地での朝食で『中榮』は、注文して目の前にカレーが出てくるのがいたって早い、とても便利極まりない早朝飯どころだ。だいたいこの店は昔から全然変わっていないのもボクにはうれしい。最初に入ったのがいつ頃なのか思い出せないのだが、店名を知ったのは最近である。すなわち長いこと「築地場内入って右手奥のカレー屋」だとしか思っていなかった。
 ここでいつも食べるのは「キャベツ無しの印度カレー、そしてときどき大盛り、みそ汁をつける」というもの、でも今回は20年以上にわたって、いちども注文したことのない「合いがけ600円」である。なにしろ間違って「カレー」なんて言わないように気をつけながら「合いがけ」と言ったために「キャベツぬき」にするのを忘れてしまった。みそ汁も忘れたのでダブルのミスである。ボクはどうしても、このカレーのご飯にキャベツというのが苦手。苦手と言っても学生時代からの習慣で神保町の『キッチン南海』では“キャベツのせのまま”で我慢しているのだが、ボクにはそんないい加減さがつきまとうのだ。

 さて、とりあえず、ソースをキャベツにかけて集中的に攻撃する。そしてきれいに掃除ができたところで、いつもの印度カレー。やっぱりここのカレーは辛さ、味ともに良くできているのだ。なにしろ適度に辛さが鋭角的、そしてカレー自体の味のバランスがいい。そして初めてのハヤシライスにも挑戦。たしかに「合いがけ」という、この方式は楽しい。ハヤシは思ったよりも甘くなく、酸っぱくもなく、なんとボクが出合った中ではもっとも好みのものだ。これならハヤシのみでもうまそうである。

 ハヤシライスと言えば上野の国立博物館にいきつく。ときどき国立博物館や近代美術館に行かないと、心が殺伐としてくる。でも国立博物館に長くいて困るのが食事である。まさかコンビニお握りとはいかず、中に入っているレストランのいちばん安いメニューがその昔はハヤシライスだった。それ以来、苦手な食べ物になっていたのだ。

 そんななまくら、甘甘ハヤシではなく、『中榮』のは肉汁というか基本的な味わいが優れている。甘味よりも肉などからくる旨味を感じる。これは印度カレーの辛みと、ハヤシの甘味を対比させながら、安くてうまいみそ汁もつけ加えるなら最上級の朝飯になる。

 さて、蛇足となるが少しだけ。築地で朝飯の根底にあるものは、本来は「早い、安い」である。でもこの「安い」感というのはかなり昔になくなっている。また築地で行列を作るような人たちには、この原則は当てはまらないだろう。だから本来の築地の朝飯は午前8時より前に済ますのがベストだと思えてくる。そうしないと、気軽にタンメンを食べたいと思っても、その店先にトロンとして、不得要領に並ぶ不気味な異星人に囲まれかねない。


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このページは、管理人が2007年2月21日 07:11に書いたブログ記事です。

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