立ち食いそば・うどんの最近のブログ記事

 北九州では小さな小さな市場を探す旅をした。
 北九州市役所「にぎわいづくり推進本部」の情報によって目差すのが折尾駅。
 小倉から西に行くのに、とにかく来た電車にのった。
 各駅停車で、折尾駅についたらやけに寂しい。
 わからないまま電車を降り、歩くともなく歩くと、そこにまた木造の美しい駅がある。
 後々わかったのが、ここには鹿児島本線と福北ゆたか線の二つの駅があり、本来の折尾駅というのは鹿児島本線の駅のことだということ。
 でも福北ゆたか線折尾駅に降りるなんて、なかなかできないことかも知れない。

 人の流れに続いて、駅を出ると、目の前にビルがあって、その目隠しされた場所を抜けると木造の折尾駅が正面に見える。
 線路を超え市場などを見て、めぼしい収穫がなく、こんどは鹿児島本線折尾駅のホームに立つ。
 まだ小倉方面門司港行きの電車には間がある。
 なにげなくホームから反対側を見ていると立ち食いうどん、そばの店がある。
 暖簾がさがっているのだけど、どうにも言い表しようのない色合いだ。
 関東でも関西でも見かけない「青い」暖簾に「かしわうどん」とある。
 電車までは間があるはずで、大急ぎでホームの階段を下り、煉瓦作りのアーチを走り、博多方面のホームに登る。

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 煉瓦の見事なアーチにくだらない絵が描かれている。
 どうして古さびた美しさを汚すのだろうなんて思っていると、突然昭和30年代にタイムスリップしたかのような幻想にとらわれる。
 九州の豊かさは昭和40年代まで続いたのではないだろうか?
 折尾は筑豊炭坑に南下する駅にあたる。
 五木寛之の『青春の門』とか土門拳の『筑豊の子供たち』を思わせる。
 北九州市にもの申したいのは、このような絵で時間が作った美しさを汚すなよ、ということ。

 時間がない。
 暖簾をくぐるとオバチャン二人が世間話の真っ最中。
 品書きにあったいちばん気になる「かしわうどん」300円をお願いしても、まだゆるゆると動かない。
 駅の立ち食いうどん屋だろう、いい加減にしてくれと思うものの、これはこちらの言い分で、北九州ではのんびりとゆるやかな時間が流れているようだ。

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 やっとできたうどんは透明感のあるつゆ、赤い蒲鉾に青いねぎ、煮たかしわ(鶏肉)が浮かんでいる。
 大急ぎで汁をすするととても甘い。
 いきなりくる甘さで面食らっていると、そこにはだし(カツオ節)などの旨味が浮き上がってくる。
 そしてうどんがいやになるくらい柔らかくぬるぬるしている。
 まさかと思うけど冷凍なのだろうか。
 まさかね。
 このぬるぬる柔らかいうどんはともかく、甘いだしのうまさ、かしわの甘い味わいがなかなかいいのである。
 つゆは大阪よりもはるかに甘いが、意外にあっさりしている。
 時間がないのでいっきに食べたのだが、なかなか後を引くうまさで、なんと無常にもあと3分の一を残して小倉行きの電車が到着してしまったのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
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 意外に今まで新幹線名古屋駅を利用した回数は多くない。
 途中下車しない旅は最低だと思っているので、新幹線の駅もほとんど乗り降りの経験がある。
 さて名古屋は何回くらい利用したことだろうと思い返すと、3回は実際に覚えている。
 名古屋駅で乗り替えて奈良方面に、また名古屋周辺を無駄歩きしたこともある。

 そのたびに果たせないことがあって、それが新幹線ホームのきしめんを食べていないことだ。
 例えば6月、上りホームでのぞみを待つ間。
 なぜか立ち食いきしめんの店は満員。
 待つ間もなく、無念にも、のぞみはホームに滑り込んできた。

 となると、ぜひとも食ってみたい、と思うのは人情というものだ。
 それでやっと今月になって下りホームでいっぱいの、きつねきしめん410円を食べることが出来た。
 きしめんの謂われはいろいろあるだろう。
 まあそれはここでは語らない。
 外見的には“ひもかわうどん”以外のなにものでもない。
 さて、ここで問題なのが、名古屋市内でなんどか、きしめんを食べているのだけど、いちどもうまいと思ったことがない。
 みそ煮込みうどんは、彼の有名すぎる老舗で食べても、うまいものだなと感心したのだが、きしめんは全滅に近い。

 それで目の前にきたきしめんだけど、見た目はまことにうまそうだ。
 薄味の油揚げに血合いありの花がつお、わけぎに赤い蒲鉾もいい。
 そしてよかったのはここまでだった。
 きしめんには腰がなく、まあ、「きしめんには腰がない」のが当然なのかも知れない。
 そう思ってすすったつゆがまずい。
 出しがうまくとれていないのか、ぜんぜん旨味に欠けるものだった。
 全体のバランスからしても、この新幹線ホームのきしめんはかなり程度の低いものに思える。
 それなのにいつもお客がいるというのは、どうしてだろう?
 不思議だ。

 名古屋に行けるのは、さて次回は何時の日か?
 そこでうまいきしめんに出合うことが出来るのだろうか?

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 3月14日、隠岐から高速船で七類に。このとき七類港で見たのが米子行きのバス。まさかこれに乗るべきであるとも知らず、地元島根のトーボさんに境港へ送ってもらった。境港からは境線を使って米子に出る。これがとんでもない間違いであるのがわかるのは、電車が動き始めてすぐだった。この単線は恐ろしくのろまで、しかも駅の数が多い。急ぐ旅には向いていないのだ。
 米子から大阪まではバス利用に決めて、出発時刻が11時45分。ノロノロディーゼルカーは米子市内に入ってからもいくつかの駅にとまり、なんと米子着が11時43分となっている。駅を出てもバス乗り場が見つからない。仕方なくバス会社に電話して、やっと切符を受け取って、バスに乗り込んだときには出発時刻をとうに過ぎていたのだ。

 さて、飛び乗ったために米子では立ち食いそばはおろか、弁当を買う暇もなかった。
 朝ご飯を食べてから、昼飯抜きで大阪に着いたのが4時前。到着した難波OCTS(どういう意味なんだこれは? 日本語を使えよ、大阪人)。ここは難波ではあるが繁華街からすると西にあり、千日前、高島屋などまでが遠い。そこから地下街、千日前などを歩きに歩き、やっとホテルにたどり着き荷物を下ろしたら、どっと疲労感と強い睡魔に襲われる。
 いい旅の秘訣は絶対に変な時間に仮眠をとらないことだ。我慢に我慢をして、ショルダーバックをかけて外に出る。

 ホテルから歩くこと、5分ほどのところに黒門市場がある。テレビなどによく取り上げられる有名な場所であるが、ボクとしては過去に一度も魅力を感じたことがない。これは勉強不足かも知れないが、他の大阪市内の市場からすると多彩性に欠け、割高に感じる。黒門市場まで来たのは、魚を見るためではなく、何か食べるためだ。
 空腹感が頂点にあり、気分が悪いほどになっている。市場内を歩いて、最初に見つけたのが「うどん みなと」である。とにかくむかつく胃に優しそうな「うどん」の文字に惹かれて引き戸をあけてしまった。

 中にはいかにも大阪人というご夫婦がおり、ここでお願いしたのが「きざみ」である。
 大阪に来たらいつも「きざみうどん」を食べることにしているのだが、ここでは初めて食べるかの如く、「きざみうどんてどんなものでしょう?」なんて聞くと、カウンターの中からご主人が「油揚げの刻んだものが乗ってるんですー」なんて説明してくれる。すんまへんな、芝居してもうて。またうどんを食べているとき女将さんが、「歌舞伎座で藤山直美はんが芝居やってはるは」なんて話しているのが大阪ならではでいいのだ。
 この店は左手に真四角カウンターに囲まれた厨房があり、そこがどこかしら穴蔵を思わせる。どこか懐かしい雰囲気があって居心地がいい。

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 さて、きざみうどんはいかほどでだったか、忘れてしまった。500円前後であったはずだ。
 大阪らしい澄んだだしに、うどん、刻んだ油揚げ、ネギにとろろこんぶ。「きざみ」というのは油揚げを刻んだから。とろろこんぶは大阪のうどんでは定番の具である。
 まずはだしの味わいはさすがに「ええこんぶ使ってますね」という素晴らしいもの。上にのった油揚げもふっくらとしており、揚げた油が新鮮であるのか、香ばしく、味わい深い。そこにくるのが、いつもいつも大阪に来るたびにがっかりする、腰のない柔らかなうどん。だしの味わいがまったりしているので、うどんの柔らかさが加わると、「もうちょっとしゃきっとできんかいな」と言いたくなる。
 でも、これこそが大阪うどんの典型でもある。まさに大阪に来て、大阪うどんを食べているんだと思えるから不思議だ。なにも世の中、讃岐うどん一点張りになる必要はない。
 空腹過ぎて、疲れも頂点にあるときに、このまったり穏やかなうどん、これが大、大正解であった。

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 ボクが普段から感じていることなのだが、交通機関の大きな団体(JRを中心として)が食に参入する。また系列に食に関するものを持つというのは「やめるべき」だと思っている。それは明らかに商業行為としては正しいが、食文化の深みを阻害する。その際たるものが関東JRの駅構内にある「あじさい」とか「小竹林」である。ちょっとは交通機関が食文化に対して敬意を持っているなら、これらのチェーン店は不要であることくらいわかるだろう。出来れば駅の立ち食いそばは周辺にある、そば屋や食品関連の企業に個性のある「立ち食いそば」の店をやらせればいい。もしくは若い起業家に任せてもいい。
 とにかく「あじさい」とか「小竹林」は無味乾燥、硬質で味気ないのだ。いつからこの国の人たちは、ある程度のレベルさえクリアしていれば、下町だろうが山の手だろうが、はたまた多摩地区だろうが同じ味でいいと思い始めたのだろう。情けないな。
 ちなみにマクドナルドだって、下町なら「コッペパンバーガー」、例えば愛知県なら「みそ味ぷんぷん味噌カツバーガー」の店を作って欲しい。各地でこの大型チェーン店を見るとこの国は食文化の衰退期にあるのだなと嘆かざるを得ない。そろそろ人々よチェーン店に嫌悪感を持つべきだ。

 そして「小竹林」の立ち食いうどんだが、これが気持ち悪る過ぎる。たぶん有名大学を優等生として卒業した優秀なヤカラが、ここまでのレベルを達成したいと作り上げた「鋳型にはめられたような味」そのものだ。こんなもの食っていて団塊の世代の大人は大丈夫か? 僕たち昭和30年代生まれだって大丈夫なのだろうか? 若いヤツも子供も大丈夫か? まるで死の世界そのもののディズニー(ここには人間以外の生き物がまったく存在しない)に夢のようなものを見ている、ふざけた人間になってはいないだろうか?
 ボクは心配でならない。こんな無機質さが次の世界大戦を平気で始めてしまうのだ。

 とにかく食は「揺れ」がなくちゃいけない。例えば本来関東の立ち食いそばの正しいあり方、醤油辛くて底が見えない奈落のような汁、そしてふやけたそば、うどん。はたまた今はない宇高連絡船の、立ち食いうどん。みんな誰かの個性や地方性で味が成り立っている。

 その上、この「小竹林」のそばうどんというのはゆるーくまずいのだ。何がいけないかというと上にある天ぷらと麺である。この天ぷらに香ばしさに欠ける。また衣が分厚く、どてっとしている。麺は表面がぬらぬらして噛むと粘液質に粘り着く。これを「モチモチ感」「こし」などと思ってはだめなのだ。麺の表面は清潔でさっぱりしていなくてはいけない。そして噛むと「シコっとして噛み切りやすい」、それが最上の立ち食い用うどんである。
 また汁の味わいはやや深く、やや醤油辛い。これをしてよく考えた、程良い味なんて思っていないだろうか? これが大間違いなのである。すなわち、ここに「揺れ」がない。まるでマクドナルドのハンバーガーを食べているように、「小竹林」のうどん、そばを食べているような。
 ボクとしては、この食の画一化だけは「赦せない」のである。

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 浜松町駅を利用するのはデジカメが故障したときだけ。そのたびに立ち寄るのがこの立ち食いそばの店。『満留賀』というそば屋は都内に何軒もあり、どうやら歴史のある店名のようだ。その『満留賀』と言う名で立ち食いそばというのも珍しいように思われる。

 店の表構えはいかにもチェーン店というもの。そしてよくよく見ると、個人営業の店というのがわかる。このようなへたくそな造り自体が、そば屋さんが一転立ち食いを始めてしまったという顛末を感じる。とにかく中に入るととても気持ちのいい清潔感あふれる、そしてサービスの行き届いた店なのだ。

 さて、真四角ななかに入れ子状に真四角な厨房があり、その中は明らかに街のそば屋そのものに思える。そこからは揚げ物の音はするし、「ざるあがったかい」なんて声も聞こえる。食券を買い、厨房の前に置く。席で待つこと「立ち食いそばの店としては長め」。明らかに店の人(アルバイトではない)という女性がかき揚げそばを持ってきてくれる。

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 かき揚げは揚げて間もないもの。野菜の甘味もあっていい味わいだ。そばも細めながら風味がある。汁はいたってありきたりなそば屋のつゆだが飲んでもイケル。ワカメが入っているのは意味不明だし、汁の味わいを落とす。これは出来れば濃いそばつゆで味付けして一カ所に集めて欲しいな。そして、かき揚げの上にある刻んだネギがキレイだ。これは今時のよくできた立ち食いそば屋に勝るとも劣らず。しかも店員さんの好感度からすると「また来たい気」が湧いてくる。

 さて街のそば屋さんでかけはいくら位なのだろう。最近めったに入らないのでわからないのだけど、優れた立ち食いそば屋が増えているときに500円だったら席についても嫌だし、400円を超えてもいやだ。高いなら並木やぶくらいの味わいはせひとも欲しい。そうするとほとんどのそば屋が現在の都会人からすると不合格ではないか。そんなときに街のそば屋、しかもかなりレベルが高い店が立ち食いに転身するというのも時代を感じるし、少しだけ歓迎もする。

満留賀 東京都港区海岸1-4-12

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 ボクの無駄歩きの最短コースがお茶の水、湯島である。通常の帰宅時間に30分ほどの上乗せ。がんもどきのうまい川原豆腐店があるし、このまま上野広小路に抜ける、不忍池に抜けると、気分と時間次第で迷いに迷えるのが湯島三丁目の交差点なのである。
 川原豆腐店でがんもどきを買って地下鉄で東京駅に出ようかと思っていたら交差点角に立ち食いそば(?)があった。早い帰宅なので夕飯を作ろうという算段なのだが、空腹感が強く、気がつくと自動販売機の前にいたのである。しかし、この自動販売機は交差点の真角にある。いい年をしたオヤジとしてはちょっと恥ずかしいな。自動ドアを入り、ボクの体形ではやっとこさ席に着く。店の作り三角形、カウンターは扇形に狭く、厨房はこれまた三角形だ。店の基調は黒っぽく、では今時のものかというと「水にこだわっています」「定食がある」とか、貼り紙が多く雑然としている。今時の「よくデザイン」「よく考えて」作りましたという「作りすぎ」の店ではないので安心する。
 なかなか「げそかき揚げそば」は出てこない。そのうちフライヤーで天ぷらを揚げ始めて、これは面倒なことになったぞと後悔する。この揚げたての天ぷらで「うまいもの」に出合ったことがないのだ。
 ただ、救いがあるとすれば揚げる音である。温度は間違っていないようだし、油の臭いもしない。そして揚げる音が変わったら、そばを茹で始めた。このクマさんのような店長さん(ひとりしかいないが)、やるな!
 そして大きなかき揚げがのった、しかも澄んだ汁の、「うまそう」な丼がきた。
 このかき揚げがいい、香ばしいし、具のバランスもいい。これは一般のそば屋さんの驚異となるだろうな。なにしろそば自体がうまいし、つゆも優れているのだから。立ち食いの350円のそばで久方ぶりに汁まで飲み干してしまった。


せんねんそば湯島駅前店  東京都文京区湯島3丁目34-9

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 日比谷線三ノ輪橋駅、明治通と昭和通から日光街道に名を変える大通りの交差点にある。これだけ大きな通りの交差するところなのにまことに薄暗く寂しいところである。この三ノ輪橋の隣が根岸。確か日暮れ里と呼ばれていて、江戸時代には日本橋など大店の療(別荘)のあったところ。とにかく夕暮れ灯ともし頃の似合う地域である。
 そこに素っ気ない建物であるのが「峠のそば」。あまりにも実用本位の経費節約型の外観ながら、夕暮れに煌々と光る灯りは魅力大。自動ドアではない引き戸をあけて入り、食券を買う。いつもなら定番のかき揚げそばを選ぶのだが、同じ紫のボタンに「ソーセージ天」というのを見つけた。ソーセージというとウインナーだろうか、それとも豚肉の長いもの? 魚肉なら日本的で面白いなと思って350円を入れる。
 四つ角の角にあり、店舗は三角形であるようだ、それで店内も三角形で厨房を仕切るのも三角形の底辺にある。そこにはさみしそうな30代らしき男性がいてさみしそうにそばを温めてる。
 食券を出すと「茹でていますので待ってください」と言われてカウンターで待っている。驚いたことには立ち食いそば屋でいちゃついているカップルがいる。そばを食べ終えているようなのになかなか出ていかない。よく見ると彼女のほうがざるに一本のうどんを残している。彼が彼女のウエストに手を回すのだが、これがなかなかゴッツイのである。ふと琴桜と鷲羽山の取り組みと見ているような思いにさせられたのだがよく見ると二人の顔が似ているのだ。だいたいこのような状況は山の手には絶対にありえないこと。あまりに珍しいのでついつい目がいってしまう。まさか貧しいので本日は立ち食いそば屋で済まそうという合理的な夫婦にも見えない。だいたい夫婦にしてはあまりに仲がいいではないか? でも「どうして立ち食いそば屋でいちゃつくの。近所には薄暗い公園がいっぱいあるのに」というのは古くさいオヤジの考えることだろうか。でも二人ともえらくダサイね。
 そしてかなり待たされて出てきたのが「ギョギョっとする」雰囲気のそば。なんだかソーセージの天ぷらが生々しく、そして不気味だ。食べてみると魚肉なんだか、豚肉のソーセージなのかわからない。何しろソーセージ天が熱をもって「アチッチ」なのである。汁はカツオ節だろうか香りがある。そして味もいい。その上、そばの風味も感じられるのだからいいんだろうね。でもソーセージの天ぷらがちっともうまくない。またワカメを入れているのは失格、その上、汁の塩分濃度とそばの味わいがバランスを得ていない。でも350円でよくこれほどの味わいを作り出すものである。偉いね!
 近年の立ち食いそばの新顔はデキ過ぎかも知れない。でも立ち食いそばで不細工なカップルがいちゃつくのは禁止だね。

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 この立ち食いそば屋ができたとき、大変な冒険を犯していると危惧を感じた。それは神保町古本街においても特種な場所に店を開いたからだ。それは神保町古本屋街でもっとも目立つ場所になる。裏手には三省堂、左右には老舗古本屋、正面には駿河台、猿楽町へ抜ける道が交差する。そんなところに立ち食いの店を作っていいのか? それは未知数だろう。じっさい薄汚いお父さんでも人通りの多い歩道で食券を買うのは気が引ける。我が友で立ち食い大好き人間と話しても同じ思いであったようだ。それが証拠に知名度は上がったかも知らないがあまり客が多いとは思えない。
 でも、この立ち食いそばフリークの友がある日、入ってみて、かなり感激して、「お前も行ってみるべきだよ」と来店をすすめてくれた。彼の舌は値段や雰囲気に惑わされないという意味でも、ボクとは違って素直であるという意味でも本物である。
 さて、そんな目立ち過ぎの食券販売機で暖かい天ぷらそばを選んで店内に入った。厨房には、まだ若い男性が一人。店内狭しとメニューがあり、なかなかどれも魅力的だ。外であわてて天ぷらそばを購入してしまって、これでは救われない気持ちとなる。そして「そばとつゆに自信」という大貼り紙。この貼り紙は無用だな。
 出てきた天ぷらそばは、かなりそば自体の香りが生きた細麺、汁は関東としては薄い色合い。かき揚げの姿もうまそうに思える。そして見た目通り、汁の味わいはよくできている。通奏低音のような旨味はソウダの厚削り、そしてさば節かな、非常にバランスがとれていて汁を飲み干したいほどにうまい。そして主役のそばもこれに負けぬほどにいい。これでかき揚げがうまいとパーフェクトなはず。で食べると、かりっと軽く上がっていてゴボウやニンジンの入った味も優れたものなのだ。
 この神保町界隈には「小諸そば」があり「梅もと」があり、なかなか立ち食い激戦区だと思う。でもその中にあって味は群を抜いている。しかし靖国通りを背にしての食券買いはやっぱり目立つな。

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 日本橋本町に一度入ってみたかった中華食堂があり、半蔵門線で三越前へ。かつお節の大和の手前を右に曲がって食堂の前に立つが5時を過ぎているのに準備中。仕方がなく和紙でも買って帰るべし、と昭和通に出ると立ち食いそば屋が出来ていた。そう言えば昭和通方面に来るのも何年ぶりだろう。決して新装開店ではなく、このそば屋適度に汚れている。
 券売機に向かうと売り切れが多い。穴子天そば、竹輪天そば。ともに魅力的だが売り切れ。仕方なく天ぷらそば350円に決める。厨房の前に立つと穴子天ぷらは江戸前のものを使っているなどの札が下がっている。これは穴子に人気が集中するだろう。
 奥に厨房がある。店内は思ったより混んでおり、食券を出すと茹で鍋にそばを入れる。そのかたわらにガスコンロ、鍋で1杯ずつつゆを温めている。これは元のつゆの風味が熱でとばないように、低温で置き、いちいち小分けに温めているのだろうか? 立ち食いそばでは珍しい光景。
 出来てきたそばを持って席に座ると目の前の棚にかつお節の粉が置かれている。おかか飯用とあって、これはぜひ試してみたいと半ライスを追加注文する。席でじっくり店の能書きを読むと、かつお節問屋の直営店で、つゆには自信があるという。
 確かに汁の味わいはかつお節の風味が生きていて、本格的なそば屋風。これがなかなかうまい。かき揚げは平凡なものでこれが唯一残念。また半ライスは充分に茶碗一杯の量があり、ただのライスとなるとどんぶり飯になるのだ。これにかつお節を削るときに出る粉を振り、生醤油をたらす。これは腹ぺこオヤジには最高のご馳走だ。
 今を去ること30年近く前、大伝馬町でアルバイトをしていたとき、この店があったなら絶対に毎日通っていただろうな。当然、飯はどんぶり。大盛りにしても食えただろう。
 日本橋にもう一軒立ち食いそばの名店を見つけて、今度は穴子天を食いたいと思いつつ名建築、三菱トランクルーム(正式なビルの名は知らない)のビルを抜ける。

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●日本橋本町江戸橋近くにある

 神保町暮らしは長く交差点そばの「梅もと」の存在は知っているのだ。でもこれ何時出来たんだろうね。だいたいこの立ち食いそば屋、白山通りに面した目立つ場所にある。なんだか入りづらい。でも知り合いの推薦を受けて思い切って入る。どうもこの頃、ひと目がやたらに気になる。また一回入り損なうと10年、20年入らないなんてざらなのである。この店もそんなことで今回初入店である。
 この店で毎日昼飯を食っているという同年代の知り合いがいる。そやつどう見ても味オンチなのだが執拗に、
「梅もとのコロッケカレーを注文するんだ。するとね、ルーをたっぷりコロッケの上からかけてくれるの。これに暖かいそばね。これがいいいいんだね。ううううう、梅もと行ってみなよ。うううううまいんだからさ」。
 どうしてこやつの話を聞くのが嫌かというと話がやたらに長い、そして内容はスッカラカンのゼロなんである。しかも朝っぱらから2杯目だという本格芋焼酎の香りというより臭いがきついな。クラクラ来るぜ。もっと離れて話してくれよなアル中ヤロウ。お前も今年還暦だろ!
 そんなことで仕方なく白山通りに背を向けで食券を買いましたよ。迷って迷ってカレーと冷やしタヌキ(値段を忘れてしまったが500円前後)。なにはともあれこの店、安いし、メニューは多いし、それだけで凄い。しかもなんだか毎日かよっていそうなヤツが多いのは、これまた壮観だな午後3時なのに。
 それでカレーと冷やしタヌキであるがいいではないかこの味わい。値段が安いのに、ゆで卵が丸々1個、天かすもたっぷり。そして味わいは可もなく不可もなく、元学生街の腹減りヤロウにぴったりである。でも五十路のオヤジにはきついかな。よくできたメニューを目の前に、箸が動かないのは年のせいだな。カレーもうまい感心だ。
 でも味わいのどこかに「こんなもんだろう」という打算がありそうだ。そんなこと言ってもこの打算を楽しまねーと神保町貧乏暮らしは成り立ちゃーしねえんだよ。「なんだバカ野郎、ガチョーンのビヨヨ〜〜ン! だ。

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神保町「梅もと」
http://www.umemoto21.co.jp/shop/jinbocho.html

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