この立ち食いそば屋ができたとき、大変な冒険を犯していると危惧を感じた。それは神保町古本街においても特種な場所に店を開いたからだ。それは神保町古本屋街でもっとも目立つ場所になる。裏手には三省堂、左右には老舗古本屋、正面には駿河台、猿楽町へ抜ける道が交差する。そんなところに立ち食いの店を作っていいのか? それは未知数だろう。じっさい薄汚いお父さんでも人通りの多い歩道で食券を買うのは気が引ける。我が友で立ち食い大好き人間と話しても同じ思いであったようだ。それが証拠に知名度は上がったかも知らないがあまり客が多いとは思えない。
でも、この立ち食いそばフリークの友がある日、入ってみて、かなり感激して、「お前も行ってみるべきだよ」と来店をすすめてくれた。彼の舌は値段や雰囲気に惑わされないという意味でも、ボクとは違って素直であるという意味でも本物である。
さて、そんな目立ち過ぎの食券販売機で暖かい天ぷらそばを選んで店内に入った。厨房には、まだ若い男性が一人。店内狭しとメニューがあり、なかなかどれも魅力的だ。外であわてて天ぷらそばを購入してしまって、これでは救われない気持ちとなる。そして「そばとつゆに自信」という大貼り紙。この貼り紙は無用だな。
出てきた天ぷらそばは、かなりそば自体の香りが生きた細麺、汁は関東としては薄い色合い。かき揚げの姿もうまそうに思える。そして見た目通り、汁の味わいはよくできている。通奏低音のような旨味はソウダの厚削り、そしてさば節かな、非常にバランスがとれていて汁を飲み干したいほどにうまい。そして主役のそばもこれに負けぬほどにいい。これでかき揚げがうまいとパーフェクトなはず。で食べると、かりっと軽く上がっていてゴボウやニンジンの入った味も優れたものなのだ。
この神保町界隈には「小諸そば」があり「梅もと」があり、なかなか立ち食い激戦区だと思う。でもその中にあって味は群を抜いている。しかし靖国通りを背にしての食券買いはやっぱり目立つな。
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川崎市宮前区川崎北部市場「珍来軒」のラーメン400円