2008年1月アーカイブ

 八王子総合卸売センターでもっとも新しい店が『さくら』である。
 やっと本格的なラーメンの店が出来たんだと、ありきたりに喜んでいたら、それは甘い考えであったことがわかってきた。『さくら』はそんじょそこいらの中華の店ではなかったのだ。
 その作り出すものが日夜進化している。

 その驚き一は、麻婆豆腐である。普通街の中華料理屋で食べるのはせいぜい豆板醤を使う程度のモノだが、ここのはちゃんと山椒と、豆板醤のバランスがとれており、その割に本格的な豆板醤よりも油がべとつかない。

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 そして弁当の登場である。ここに何気なく惣菜風の厚揚げの炒め物があるのだが、これが素晴らしい味わいである。

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何気ない惣菜なのだけど、香辛料の使い方が絶妙だ!

 いつの間にか『さくら』にとりつかれてしまって、初めて食べる「油麺」も一つ間違うと虜になりそうだし、裏メニューの焼きそばなど毎日でもいい。

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裏メニューの焼きそば

 その上に、最初は「?」を感じていた中華そばの中毒になり、一週間にいちどは食べないとダメだなとなってしまった。ちなみにボク以外にも横川町の鮨忠さんなどファンが多いし、友人のSなど腹が空いていなくても、つけ麺を頼む始末だ。

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 来るたびに発見がある。『さくら』に毎日顔を出してしまっているんだけど、メタボリックシンドロームから抜け出せるんだろうか、ボクは?

八王子の市場のことは
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
ラーメンのことはさやぴぃさんの「らーめんデータベース」へ
http://www.geocities.jp/sayapie3838/database.htm

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 値段を見てわかることはギンダラ(冷凍でも高級魚)だけが冷凍物で、他は総て鮮魚、たぶん養殖魚も使っていないようである。
 本来魚河岸でうまい魚を食べるなら、できるだけ冷凍物(在庫化できる)や養殖物(常にある)を避けるべきだと思っているので、前回の『たけの』(魚の品揃え多彩さでは断然頂点にいる)とともに築地での食を見直してしまった。
 ただし、これだけ多彩な魚貝類を扱う築地にあっては品書きの魚はいたって平凡だ。これでは都内の優れた食堂になんら変わることはないだろう。そのなかで唯一救いなのが東京都の地魚とも言えるアオダイがあること。魚河岸の店なら、これくらいは当たり前だろうけど、改めてアオダイに感激するほど河岸の魚は決まり切ったものだらけだ。

 今回の案内人、つきじろうさんにある程度主導権を委譲して、『かとう』にてお願いしましたもの。
 あんこう煮、銀ダラ西京焼、アオダイの刺身、なめたがれいの煮つけ(ババガレイ)、そしてご飯とみそ汁、お新香に、イカの塩辛。

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 このなかで本来一人前の定食はボクの場合、銀だらを中心にして、ご飯、お新香、みそ汁、イカの塩辛であるらしい。
 狭いカウンターが店の振り分けにあるだけの店だから、これだけの料理が並ぶと2メートルほどにもなる。

 ここで奥右手に陣取る恐い顔つきのオババが一言。
「宴会のようだね」
 まあ、これが下町風のドスの利いた声であり、これも築地が世界遺産に登録されれば必ず加えたい無形文化財であろう。

 並んだ皿の上のものを、つきじろうさんがテキパキと二等分していく。その手つきが鮮やかで無駄がない。さすがだ。 
「半分以上あります」といってくれた、あんこう煮に関しては鮮魚であろうけど、まあ国産でも一段落ちるもの。本来熱を通すと新鮮ならばプルンとした食感になる。それからすると皮のあたりがだらりとして柔らかすぎる。そこに別売の肝を加えてしまっているように感じるが、これで1800円は合格点かも。だいたい味つけが“飯を食う”のに丁度いいほどに醤油辛い。
 なめたがれい(ババガレイ)もやはり仕入れ値でキロ当たり1500円前後はするものだろう。ちなみにババガレイは古くから関東に入荷して来ていた魚。煮魚で高級魚といったら「なめた」という概念がいまだに都内魚屋では健在である。

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「なめたがれい」は都内下町の魚屋などでは未だに定番的な煮魚である。標準和名はババガレイ。愛想のないオババにお願いするのは“はまりすぎ”の感がある

 銀だらは味つけがいい。上品というか軽い。ついつい、つきじろうさんに分けてあげるのを、忘れてしまった。ごめんなさい。
 アオダイはくどくなるが東京都の地魚なのである。主に入荷してくるのは伊豆七島。「都漁連」というのはこの都内諸島部を言うのだ。これも仕入れが上手だな、と感心する。キロ2000円前後のアオダイで、しかも歩留まりのいい1キロ上のものだろう。このアオダイの旨味充分の刺身は特筆すべきだろう。

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アオダイの刺身はそんなに珍しいものではない。都内では平凡なものだと思うのだけどね

 そこに加えるに飯がうまいのと、お新香がたっぷりなのと、みそ汁がやや辛いのがいいね。

 うまいものがくると早食いになるボクなのだが、つきじろうさんも早い早い。知らぬ間に飯のお代わりまでして、刺身もあんこう煮も、なめたの煮つけもあっという間に食べ尽くす。この時点でボクのお腹はパンパンに膨れあがる。本当にこれで狭苦しい場内を駆け巡れるだろうか?

 場内では老舗とも言える『かとう』には少なからぬ好印象を持った。その品揃えを見る限り、仕入れも確かなのだろう。これくらいやらないと築地市場で店を出す意味がない。でもここで問題なのが、品書きに載る魚が平凡すぎることだ。
 市場の店なら、しかも世界一多彩な魚貝類を扱う築地なら、もう少し日々の魚に変化があってもいい。マグロにカレイにサケ、サバなんてお定まりの魚貝類ばかり食べていたら、本当に人類は滅ぶぞ。

 店内に入ってから、ほんの30分も経過していないだろう。これだけの品数をとったわりに、早食いに徹したせいで、まことにあっけなく『かとう』での宴会は終了した。
「宴会の代金」は5700円也。これだけ食べて一人頭2850円は安いかもしれない。ただしボクの日常からしたら大変な散財であることを明記しておきたい。

 これから場内巡りの開始なのだが、「氷屋に寄ります」と言ったら、つきじろうさんも「私も寄りたいところが、少し待っていてください」と言って消えていったのがセンリ軒の店内である。そして手に持っているのがカツサンド。
 ここで食事の途中に、つきじろうさんが言った「揚げ物がないのが気になりますね」というのが思い出される。恐るべし、つきじろう。

つきじろうの春は築地で朝ごはん
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 築地場内で“飯を食う”となると「いかに素早く」、「簡単」に“腹を満たすだけ”というのに徹してきたつもり。だから座るとあっという間に出てきて、しかもおいしい『中栄』のインドカレーとか、大物競り場横売店の焼きそばパンとかがボクの朝ご飯の定番となっている。
 要するにボクにとって築地とは魚貝類を見に行くところであって“うまいものを食べに行くところ”ではなかったのだ。
 そこに築地でうまい朝飯を食うのに人生・命をかけている、つきじろうさんとの出会いがある。
 会って直ぐに、つきじろうさんの博識・大食いに度肝を抜かれる思いをする。そしてボクの勝手な造語であるが“築地でうまい朝ご飯をたべること”を“つきじろうする”と呼ぶことにしたのだ。

 今年最初の築地行が1月8日。場内巡り、荷受けで人と会う、長崎県漁連で魚を受け取る、といろいろやることはある。そこになんと、つきじろうさんの朝飯案内も加わることになった。
 2008年となって、年初めの「“つきじろうする”・その1」が場内の『かとう』である。
 時刻は8時を過ぎている。大急ぎで場内の食堂寿司屋などが並ぶ棟までくる。このあたりは早朝から一般客で混雑しているのだが、さすがに平日(火曜)のせいか人はまばらである。細長い棟が並んでいる茶屋側から入って、『高はし』、『やじ満』ときて『かとう』の前まで来た。
 そのハモニカ型の店舗は間口が狭くて一間半ほどしかない。サッシの引き戸前に、つきじろうさんが堂々と仁王立ちしていた。

 新年の挨拶も忘れるほど素早く店内に入る。築地通いも長くなったというのに、「この店に入る」と決めて入るのは今回が初めてだ。そんなボクだから場内食堂のある棟を歩いてみても過去に食べたことがある店かどうかが判然としない。でもこの『かとう』は間違いなく初めてのような気がする。入ると、奥が厨房、左右にカウンターがある。その左手には若い女性が4、5名。
 この娘達がおバカ、もしくはしつけが行き届かないのは「飯屋の長話」をやっているらしいことでわかる。正面右手にはやや強面のオババがいて、明らかに呆れて声が出ないという表情なのに、この場所柄をわきまえぬバカ娘達は無駄話に盛りあがる。ボクには子供が11人いるのだけど、この手のしつけはしっかりやっておきたいものだ。

 店の品書きはあまり多くない。

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「丼もの」はウニ丼1900円、まぐろ丼1700円、まぐろウニ丼2000円。
「季節季節の魚の刺身」は、盛り合わせ1350円、本まぐろ(クロマグロ)1700円、めじまぐろ(クロマグロの幼魚)1400円、ブリ1800円、ヒラマサ1350円、カンパチ1300円、そしてアオダイ1200円、ヒラメ1200、トリガイ950円、もんごういか(種はわからない)950円など。
「煮つけ」はカレイ(なめた ババガレイ)1300円、クロムツ1350円、キンメ1400円、それに加えてサバの味噌煮1300円。
「焼き物」はキンメ・ギンダラの西京焼きともに1350円、ブリの照り焼き1500円、ブリの塩焼き1500円、サバの塩焼き1300円、クロムツの塩焼き1350円。
 ここに特徴的だと思える「汁物」があり。あんこう煮1800円、たらどうふ1300円、かきどうふ1300円。
 ウニは輸入ものだろう。マグロは「本」とあればクロマグロなんだろう。銀だら(ギンダラ)は冷凍もの、もんごういか(コウイカ科のイカ)は冷凍の可能性あり。ブリは値段からすると天然だろう。
 品書きを見て感じることは鮮魚、天然ものを使うことにこだわっているのではないだろうか。
 値段は決して安くない。朝ご飯としてはむしろ贅沢な部類だ。

「お勧めなのはかきとうふです。それとアジフライは外せません。これはぜひとも食べて欲しい(つきじろうさんの口調は柔らかく洗練されている。西洋的な表現をすると“エレガント”)」
 つきじろうさんに進めていただいた「かきどうふ」であるが、これをお願いすると酒が欲しくなりそうだ。これから場内歩きと言うときに酒を飲むのはまずい。アジフライは魅力的だが品書きには見つからない。
「あのー、今日、アジフライありますか」
 すかさず、正面右奥のオババが
「アジフライはできる?」
 奥から「ないよ」と返事が返ってくる。
「ないって」
 このオババの声の低さはただものではない。しかもその立ち居振る舞い、言い草に微かに退廃的な気配がする。いまどきこれほど味わい深いオババというのも珍しい。

『かとう』で朝飯はこれからだ。

つきじろうの春は築地で朝ごはん
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 昨年秋に八王子総合卸売センターに移ってきた「さくら」。中華料理の店でラーメンなどに定評ありとわかっていても、その真価がどうにも見えてこなかった。移転した当初、スープ作りなどに厨房の環境変化が大きなマイナス点となっていたようだ。
 それが厨房にもなれてきたせいで味に膨らみがついてきた。旨味もどんどん増えてきて、たんに中華そば一杯にも、「ついついまた食べたくなる」魅力が加わってきたようだ。

 今日1月5日は初荷。実を言うと初荷の市場というのはちょっと寂しいのだ。なぜならまだまだ魚貝類は揃わない、品薄である。賑やかなのは築地の大物の競り場くらいだろう。
 八王子総合卸売センターでも行きつけの『市場寿司 たか』はネタが揃わないので休み。そこで今回の土曜会の朝ご飯は隣の『さくら』で、ということになった。

 そこで注文した味噌タンメンがまことにうまいものだった。『さくら』の味わいの特徴は玉ねぎベースの甘味だ。そこにかつお節と鶏ガラスープの旨味が加わる。当然味噌を合わせるとしたら、比較的まろやかなものがいい。『さくら』の味噌タンメンのスープ味はまさにまろやかで奥が深い。
 それではもの足りない味になってしまうだろう。そんなときにはカウンターに置かれた唐辛子味噌があるのだ。本来まろやかなところに、この熟成がきいた唐辛子がいい。ボクは思いっきりたくさん唐辛子味噌をぶち込んで汗だくになって、麺をすする。これがすこぶるつきに気持ちがいい。正月中、図鑑の改訂に机にかじりついていたうっとうしさが一気に解消される。

 初荷の日の初市場飯となった『さくら』の味噌タンメン、スープまで飲み干して、「こいつは春から縁起がいい」のではないか、と思う。

八王子の市場に関しては
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 今年一年は市場巡りをしていても感じること、考え込んでしまうことが多かった。築地移転問題(ボクの考えでは20年くらい先にすると問題は消えると思っている)。八王子魚市場の縮小。沼津魚市場が新しくなったこと。市場の仲買や店舗の撤退、店仕舞い。
 この市場に関することは、今年はもっとじっくり見ていきたいと思う。八王子魚市場の半分がパチンコ屋になってしまうという信じられない現実があって、ますます市場全般のことを調べたくなった。

 さて、2007年は“市場でご飯”を数知れず食べた。また、築地の怪人つきじろうさんに会えたのも大きな収穫だ。
 そして“市場でご飯”2007年最後は『光陽』のモツ煮定食とした。この日、30日は朝、軽く市場巡り、最後の日となる「源七」を見る。そして午後まで撮影。
 午後1時を回って八王子総合卸売センター『伸優』に注文していた炭を取りに行きがてら昼飯を食うことにしたのだ。ちなみにこの日、鹿児島県南さつま市笠沙からきた魚を撮影するに250枚。それも検索のことを鑑みながらの撮影で、結局夕方までかかってしまった。本当に疲労困憊して夜はほとんど動く気になれなかった。

『光陽』はお母さんに、オヤジさん、オバチャンの3人で切り盛るする小さな食堂だ。
 慌ただしい暮れになると、娘さん2人が手伝いに来て普段静かな店内がなんだか賑やかになる。
 腹ぺこで『光陽』の定番であるモツ煮をくらい。
 オヤジさんたちに「来年もよろしく」と言って帰ってきた。
『光陽』のモツ煮込みは味噌仕立てで、トロッとしていてうまい。何度食べてもうまいというのは昔ながらの食堂のなせる技だろう。

 さて今年はどんな“市場でご飯”が楽しめるのだろう。期待に胸膨らませているのだ。

八王子の市場に関しては
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つきじろうの「春は築地で朝ごはん」
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