子供の頃から素麺と言えば半田であった。それは徳島県美馬郡貞光町であったときの隣町半田町からくるもの。これにときたま愛媛の基本的に白、ときどき緑や赤が混ざる素麺も食卓に出ていたものだが、やっぱり素麺は半田に限ると思っていたものだ。
半田素麺の特徴はやや太目で塩分が高いところ。この塩分のせいか腰が強い。これを、じゃこの出汁で夏にはつるつるとすすり込むのが、うまかったな。そして上京して揖保の糸や南関素麺、島原、奈良の三輪素麺なども食べてみて、ボクには半田素麺がいちばんうまいのだと改めて思った次第だ。
なによりもいいのは、この太さだ。素麺は細いほど値段が高いのだが、本当は細すぎるのは味気ない。小麦粉の持つ旨味にも欠けるし、腰の強さもなく、喉越しの楽しみも皆無ではないだろうか。だから素麺は太い方がいい。
それでは素麺じゃなくJIS規格からすると冷や麦だろうと思われかねないが、徳島には「冷や麦」という言葉はない。このようなわけのわからん言語を最低限徳島県には持ち込まないで欲しいものだ。
その半田素麺でいちばんうまいのが、この『杉本手延製麺』のもの。とにかく適度な塩気があり、腰が強い。麦の粉の旨味がこれ以上ないほどに感じられるし、じゃこの汁にこれほど馴染む麺も他にはない。
勝手な思い込みかも知れないが『杉本手延製麺』の素麺は、世界一うまい。うまいのは当たり前で田舎の農家の庭先のようなところで寒の時期に天日干しで作られている。この干してある素麺の白い簾を吉野川の川風が通り過ぎる。この乾いた川風なくしてうまい素麺は出来ない。しかもこれら総ての工程が家族だけの手作りというのも今時希であろう。とにかくボクには素麺と言えば「半田素麺」がいちばんである。
杉本手延製麺 徳島県美馬郡つるぎ町半田字小野182
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