香川県善通寺市内、老舗の酒屋瀬川酒店で買い求めたもの。そのとき我が老父が「仁尾の酢はなつかしいのー」と言う。「仁尾町の名物はなんといっても酢」なのだという。戦後直ぐにメガネの営業に回っていていても仁尾町の酢造りの蔵は印象的だったそうだ。仁尾町は徳島県からは一山超え、しかも平野部を瀬戸内海に抜けた響灘の東の玄関口といったところである。戦後の交通事情の悪い最中にこんなところまで商売で回っていたのだな、と思うと感慨深い。
この仁尾酢、900ミリリットルの家庭用で買い求めると、かなり値段のはるものである。これは京都の千鳥酢と同じ。当然、本来は業務用一升瓶で買うべきである。ちなみに我が家で使っているミツカンの業務用山吹など20リットルで3700円ほどなのである。日常的には小瓶での値段はとても手のでるものではない。まあ旅先なので好奇心が先行しての買い物だ。
帰宅するやすぐに味を見る。キャップを開けるや、ふわりと醸造香が浮き立つ。これは間違いなく酒を造り、その後、酢酸酵母のよって酢になり、最後に塩で発酵を止めて造ったほんまもんというのが見えてくる。
これを知り合いの寿司屋に味見してもらうや「こんなに香りがあっちゃあすし飯には使えないね」と言う。当然である。ミツカンの白菊に代表される寿司酢の正反対を行くものだ。でも酢をそのまま飲むとこくがあり、うまいのである。
だから我が家ではもっぱら酢の物、加減酢(出汁や味醂と合わせる)に使っている。これはなかなかいい味わいだ。なにしろ醸造香がゆたかで酸味が柔らかい。また魚を酢締めにしても、この醸造香が爽やかでいい。
我が家には千鳥酢、山吹、ワインビネガー、バルサミコとあるが、そこに仁尾酢がきてもその個性から用途がいっぱいありそうである。
中橋造酢 香川県三豊市仁尾町仁尾丁944
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