2006年7月12日アーカイブ

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 ほどなくどんよりとした曇り空の下、中川の川辺、本奥戸橋のたもとに出る。下流の小岩に住んでいたときに何度も総武線で渡った中川。中川、新中川の東西は有名な海抜0メートル地帯。大学に入ってすぐに住んだ小岩は決して住みやすいところではなかった。世田谷、杉並、府中と引っ越しを繰り返したが、生き物密度は最低であった。その上、排水ポンプの工事の地響き、夏の暑さと言ったら耐えるに耐え難いものだった。小岩でも総武線の北側には椎名誠さん、木村弁護士などが集団生活を送っていた。そのユーモラスで逞しい暮らしぶりと比べてひ弱だったものだ。そしてほぼ30年振りに見る中川、とてもきれいととは言えないながら豊かな流れを見るとなんだか気分が和らいでくる。本奥戸橋を中程まで渡り、ふとため息をついて、また引き返してくる。

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 立石の駅から仲見世と平行に伸びているのが「立石駅通り」。この踏切までの区間がチェーン店が多くつまらない。なかほどにぽつんと和菓子屋、またぽつんと呉服店があり、ここに昭和の商店街の破片を見るようだ。
 京成線の踏切を渡るとまた賑やかな通りに変わり、飲食店が多くなる。見ると古本屋らしいのがあるが、時間をとられるので入らない。右手に「鳥房大東店」という魅力的の外観を肉屋を見つける。間口の狭い店の右手には鶏肉が並ぶが左手では男性が大鍋でなにやら作っている。そのまま進み、この通りを抜けると斜めに道が交錯し、手焼きせんべいの店がぽつんとある。

 道の北側は住宅地であるようだ。駅方面にもどろうと曲がったのが「立石すずらん通り」。ここに古めかしい酒屋を発見、その店先にカウンターがある。覗いていると店主らしき老人が出てきた。
「古そうなお店ですね」
「そうだね、古いことは古いけど、ここいらでいちばん売上の悪い店って言われてね」
「立ち飲みやってるんですか」
「だめ、昔はやってたんだけど、今は足腰がダメでね」

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この店の奥にあった木のカンバン。これはいったいいつ頃のものだろう? またこの酒蔵はまだ健在なのだろうか? 「君が代」、土肥酒造本家の「晴菊」、一得酒造の「一徳」どれも飲んだことがない

 そこからまた「立石駅通り」に戻り「鳥房」の脇を見ると暖簾がかかっている。思わず引き戸を開けると、右手にカウンター、左手に座敷。店内は8割方埋まっていて繁盛の様子。ここでお銚子1本、冷酒1本と名物鳥の唐揚げ。かなり酔っぱらって、いい気分である。そのまま駅にもどろうと踏切で通過電車を待っていると自宅からケータイ。何か買ってきてというので仲見世に舞い戻る。
 駅を下りてから2時間も経っていない。それが店をのぞくと惣菜などはあらかた売り切れている。仕方なく行列の出来ている駅前の「愛知屋」でコロッケなどを買い、立石を後にする。

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 立石の駅に滑り込んできたのは京浜急行の電車。野球少年たちと乗り込むが車内はガラガラ、しかも少年達の大人しいこと。ふと目を上げると車窓から夕闇迫り来る荒川が見える。鉄橋、灰色から闇に変わる雲の重なり、これを背に健康そうな娘が夢中になってケータイメールを打っている。京成線を半蔵門線に下りて少し長すぎる無駄歩きは終わりとなるのだ。

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 もうかれこれ30年以上前、お茶の水に通うようになって、授業が終わったり、また時間があくと神保町には下るが、聖橋を渡るなんてことは思いも寄らなかった。そこには「湯島聖堂」があり、また道を挟んで神田明神がある。こう書くと、なんだか江戸の情緒が感じられる地域だろうと思われるかも知れないが、回りには老舗の飲食店があるわけでもなく、また通りはクルマの往来の激しいところ。どう考えても観光客にはおすすめできないスポットである。あえて言えば落語の本などを読んでいるとたびたび登場する「神田川本店」だろうか、ただし敷居が高い。

 ある日、ゼミが終わって、誰からともなく「神田明神に行こう」と声があがった。神田明神といえば大川橋蔵の「神田明神下の銭形平次」しか浮かんでこない。聖橋を渡るとあっという間に神田明神に到着。ほんの100メートル先には鳥居が見える。鳥居の方に歩こうとして、「そっちじゃないよ」と入ったのが「天野屋」の茶店。そして二十歳前なのに訳知り顔にこの茶店で甘酒を飲んだのである。その後「有名な神社なのだからお詣りして行こうよ」と言うと東京出身のクラスメートが「入るとがっかりするぞ」と言う。それでも鳥居をくぐり、そのとおりにがっかりしたのだから神田明神がどんなところかわかると思う。そう言えば江戸の三大祭りでも神田祭は最大のものであったはずだが、今では浅草の三社祭に人気を奪われてしまっている。

 さて天野屋は神田明神の社から参道(非常に短い)に出て右手。地下に大規模な室を持っているので有名である。ここの名物は麹・甘酒なのだけれど、それ以上に惹かれるのが「芝崎納豆」である。大粒の納豆で豆の風味と言い、納豆菌の生み出した旨味と言い絶品である。またここで売るモノで密かにはまってしまっているのが納豆茶漬けである。ご飯にのせてお湯をそそぐと微かに納豆の風味が立ち上がり、フリーズドライの三つ葉の香りとともにいい味わいだ。

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正面が納豆などを売っている店舗、左が茶店。ここで気をつけなければいけないのが凶暴なオバチャン軍団である。だいたい売り場は狭く混み合っているのだが、オバチャンたちはじっくり選びながら店員を独占する。また当然、こちらが注文しようとしているのに割り込んでくる。恐るべし

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納豆1パックが300円以上というのは高いが中身はたっぷり通常のものの2パック分はある

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納豆好きには答えられないもやっとした香り。納豆嫌いにも堪えられない

納豆315円 納豆茶漬け126円
天野屋
http://www.clubneco.com/amanoya/

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