神保町すずらん通りの『キッチン南海』カツカレー

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 東京神田の神保町は本屋ばかりの我がパラダイス。その昔には勧工場、東洋キネマや吉本興業などもあり、また武田百合子さんの努めていた「リオ」などもある。それが高度成長期からめっきり本屋と学生の街になったようだ。その真ん中を通るのが、すずらん通り。このやや西寄りに『キッチン南海』がある。
 初めて入ったのは大学一年のとき。お茶の水の学生となると必ずここでカツカレーを食うことに決まっているのだ。ああ、なんとあれから30年も通っている。若い頃はお金のことから月に一度だけだったけど、近頃は肥満と高血圧のために四季ごとに食べる程度になってしまった。
 すずらん通りは今を去ること30年以上前には、総て二階屋、それも独特のモルタル建築が軒を並べていた。それが近年、ビルが目立つようになってじょじょに神保町らしさが消え去ろうとしている。それなのにまるで変わらないのが『キッチン南海』なのだ。ここには未だに1970年代が残っている。

 さて、店内に入ろう。右手が厨房である。ここにコックが3人(?)、フライパンを動かしている音、カツを揚げる音、キャベツを切る音。そこにもやーっと立ち上るのは大量の油脂を含んだ煙である。この油脂が壁と言わず、床と言わず長い年月に染みこんでしまっている。そう言えば昔、ここで危うく転びそうになった。また学生の頃、ここで定食を食べてゼミにいったら、我が大学では貴重な女子が近づいてきて「『キッチン南海』に行ったでしょう?」とずばり当てられたのには驚きを禁じ得なかった。その厨房を取り囲むようにカウンターがあり、壁際と奥にテーブルがある。このテーブル席は一人で座っても、3人で座っても、どんどん合い席となるので、恥ずかしがり屋のボクは出来るだけ座らないようにしている。いちばん落ち着くのは奥の4人ほど座れるカウンターである。
 メニューは揚げ物を合わせた定食風(700円前後)のもの。これにカツやエビフライがある。まったくの単品はカレーのみである。注文されるのは揚げ物とショウガ焼きなどの盛り合わせ定食類、それにカツカレーが勢力を二分する。学生の頃はときどき定食を食べていた。さくっと揚がったカツにややもったり重いショウガ焼き、つけ合わせのスパゲッティがナポリタンに見えてそうではない。表面にべっとりついているのはいったいなんなんだろう。これが近年、やや持てあますものとなった。

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 そしてオヤジになってもやめられないのがカツカレーなのである。初めて食べたときはカツ抜きであった。その真っ黒なルーには驚いた。香ばしさ、また適度な辛さはあるものの、うまいのかまずいのか判然としないものであった。ただし翌週も食べに行っているのだから、中毒性があるに違いない。アルバイトでもして余裕があるときにはカツカレーとなる。この店に限ってはカツをのせるかいなかで味わいが驚天動地するほど違ってくる。揚げたてのカツは白いご飯を覆い隠すようである。そしてどう考えても不必要だとしか思えないキャベツのせん切りがある。一度キャベツ抜きでお願いしたいと思っているのだが面倒くさがり屋のボクはいちども言えないでいる。そこにかの漆黒のカレールーがドバーっと、ドバーっとかかるのだ。食おうとして顔を近づけるとメガネがこれまたドバーっと曇る。チルチル揚げたてのカツを真っ黒で香ばしいルーに浸して食う、そして食う。やっとここで白いご飯が登場して、これをルーの方にかき寄せて混ぜ合わせる。ここでやっと一息。できれば冷たい水を飲んで欲しい。濃厚な味わいのカツとカレールーの組み合わせに、ご飯とカレールーは不思議なことに安らぎと待てしばしの余裕をもたらし、じっくり味わっていこうじゃないか、という決意をさせてもくれるのだ。
 さてカツもご飯もあらかたなくなって最後に残ったのが継子のようなキャベツである。ボクはこれをルーで汚れないように気をつけて最後にレモンとソースをかけて単独で味わうことにしている。まあ口直しかな。
 さて『キッチン南海』には30年以上も通っていることになる。後何年通えるのかオヤジの心にはしみじみ悲しみが湧いてくるのだ。


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コメント(1)

「キッチン南海」大好きです。
まさに原点回帰と言うか
体に染み込んだ味のようにも感じます。
いくつになっても
食べたい味ですね。
B級グルメの真骨頂ですしょう。
今は東京を離れ
青森に暮らしているので
この味にも遠くなってしまいました。
(懐かしく想い出しております。)

青い森の
マサでした。

このブログ記事について

このページは、管理人が2006年7月10日 08:37に書いたブログ記事です。

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