『まんてん』をどう表現したらいいのだろう。神保町の交差点から春日通を水道橋に歩き幾本か目の路地を右に曲がるとあるのだ。この路地の先には最たる目的となるところもなく、まったく取り残されてしまったような場所である。昔はここに恐いお婆のいるお好み焼き屋や小さな洋食屋もあった。それで、当時はいっぱしの食いもの屋街とも思えたのだ。それが現在はと言うと間口両手を広げたほどに足りぬ古本屋が一軒あるものの、なんだかそれなりに飲食店街を思わせた雰囲気はなくなってしまっている。そこまで寂れてもこの路地で活気を保っているのが『まんてん』なのである。
この店、左右振り分けで2店舗あるかのごとくであるがまったく同じ店。右はカツやコロッケの定食。左はカレー屋なのである。そして問題なのは左のカレー屋である。ここのカレーがうまいのかうまくないのか、それは非常に難解な問題である。初めてここに入ったのはいつのことだろう。たぶんもう30年近く前のことだろう。値段の安さから普通盛りのカツカレーを注文して、そのあまりのまずさに二度と来るかと思って、その数日後にもう一度、それでいつの間にか常連となっていたのである。
この店の特筆すべきはジャンボカレー(500円)である。これは学生時代はともかく、今となってはとても太刀打ちできない超大盛りカレーである。また上にのせるものは、カツ(乗せた普通盛りのカレーは550円)やコロッケ(同550円)、またこの店ならではの赤いウインナー(同550円)がある。ジャンボにも総てにこれを追加していくことも出来る。またジャンボにこの総ての「のっけもの」を、乗せてまるでエベレストのように盛り上げるのもアリなのだ。
言って置くがこの店、普通のカレーでも盛りがいいのである。春先に神保町『まんてん』を知らない新入生が、ジャンボを前に「がんばれよ!」なんて言われているのを見かけるが、今のところ完食の瞬間は見ていない。また、短い余生を大切に思うなら、ある年齢を超えたら決してジャンボには手を出してはいけないのだ。またこの店の客はほとんどが若い学生やサラリーマンであるが、ときどきオジサンを見かける。その顔に遠い昔の青春の陰が見える。きっと若き日に神保町で学生時代を送ったのだろうね。
さて、神保町で長年、人気を誇っている『まんてん』の秘密はなんなのだろう。どろどろのカレーの表面には白いぶつぶつが浮いている。これは小麦粉のだまなのだろうか? これを口に入れるとすぐには気づかないが鋭角的な辛さを感じる。この辛さが意外なことに心地よいものなのだ。カレーを考えるときに、この辛さをどう作り出すかが決め手となるのだと思うのだが、『まんてん』のカレーの辛さは絶妙な角度(舌にさす強さ)かも知れない。またここのルーはソースをかけると味わいが増すのだ。
まあ、これを神保町名物というのもなんだが、ここを落とすとこの街は語れないのだ。
長すぎる神保町暮らしだけど、ときどき『まんてん』の路地が見つからないときがある。どうしてだろうね? ミステリーだ。
ウインナーカレー550円は、揚げた赤いウインナーが見秩序に3本。これにミニカップのコーヒー、そしてスプーンは水の入ってコップに入っている
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こんにちは。
始めまして。
沼津出身なので、沼津ブログで検索後、
『洋食』のカレーでひっかかりました。
ここのカレー屋さん、本当においしそうです。
今は沖縄に住んでいるので、
本土へはあまり戻りませんが、
戻った時には是非、ご紹介のカレーやさんに行ってみたいと思います。
小野さん、初めまして。『洋食』は日本の食文化において欠かせぬものですね。『まんてん』、沼津の『航』ともにおいしいと思います。ぜひ本州に帰りましたときには立ち寄り、感想を寄せてください。