仕事場からお茶の水に帰るためには駿河台の坂道を上っていかなければいけない。この坂道が嫌いなのだ、だいたい並ぶ商店にろくな物がない。確かに楽器店、レコード店、楽譜屋などお茶の水らしさを感じるのであるが、ほんの一握りの商店が痕跡的に残っているほかは総てチェーン店ばかりである。だいたいチェーン店や無駄に大きなビルを開発するヤカラは文学的知性の欠乏をきたしているに違いない。そうでなければこんなに冷血的な街を作れるわけがない。
ということで用もないのにしばしば地下鉄神保町駅に下りる。そしてしばしば寄り道・無駄歩きをする。そんな寄り道ルートでもっとも時間的な余裕のないときに選ぶのが丸の内線ルートである。丸の内線で新宿を越えて荻窪で古本を探す。新高円寺、南阿佐ヶ谷でおりて、小さな古本屋を冷やかしながら北を目差して中央線に乗り換える。ともども古い店、また今時の店ながら不思議な店が多くて楽しいルートなのだ。
今回は新高円寺で下車、「高円寺ルック」を抜けて中央線に乗り換える。ここは歩行者専用の道、ゆっくりぶらぶらと北を目差す。古本屋があるたびに時間を費やして、北に向かう道すがら、『ベルゲン』というパン屋さんを発見した。我が家からクルマで10分ほどのところに同じ名前のパン屋さんがあって、我が家では食パンはいつもここで買っている。そして行くたびに店名の由来を聞こう聞こうとしてもう10年以上たってしまっている。たしかベルゲンというのはドイツの町の名前であるはずだ。
そして右手にぼろぼろのさびたトタンをむき出しにした元店舗らしい建物。引き戸4枚は硬く仕舞っている。そしてその隣に古着屋と古本屋が同居した店があって風呂のすのこに「アニマル洋子」と書かれている。ここ通るたびに入ってみたいと思うのだが果たせない。
ほどなくアーケードがついてなんだか薄暗くなる。この左手に『愛川屋』という練り物屋。この店で過去になんどか薩摩揚げを買っているのだが、年に2、3度このルートで帰るわけで、当然、いつも「初めて買います」という芝居をする。
また北上すると大きなT字路がある。この北に向かって右側に肉屋がある。この肉屋さんではコロッケなどを売っているのだが、この時期はいつも近所の子供に阿波踊りを教えている。この光景、確か3年くらい前にも見ている。これを股上の超短いデニムパンツをはいたお姉さんたちが笑って通り過ぎていく。このお姉さんたちも小学生のころ習ったという感じ。
そこからまた北に入って左手に曲がると長い長い飲食店街が続く。この入り口にある食堂で昼抜きの夕食ともいえそうにない定食を食べる。確かここは6年振り、安くてうまいので、またまた感激。
そのまま路地を進んで曲がると仁王像が左右に建つお寺の山門。ここを曲がると小さな魚屋がある。この魚屋の刺身の鮮度、また品揃えただもんじゃない。こんど涼しい時期だったら買ってみたい。
もう駅が近いのが人の数から感じられる。この右手に大阪寿司の店があるのを知らなかった。どうして気づかなかったんだろう?
時間がないので後半は駆け足となった。高円寺駅、スイカで入って階段を駆け上がると、ちょうど高尾行きがするすると入ってきた。車内はかなりの混み具合。えいや! と身体を割り込ませて無駄歩きが終わる。
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静岡県沼津市『航』