墨田区押上「押上食堂」

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 早く用事を済ませてしまって、今日も無駄歩き、これがいちばん楽しみなのだけど、この時間をあけるのが至難。今回の押上散歩もほんの1時間だけと限っての決行。押上といっても東京ローカルな地、山手線から西に住んでいると知らない人の方が多いだろう。そんな押上に新東京タワーが出来るんだというのを新聞で読んでから一度行ってみたいと思っていた。
 それで半蔵門線に乗り込み、深々と暗い隅田川を越えて押上に至る。ここには東武、京成電車の本社があり下町の起点と言ったところ。長いエスカレータを地下から地上に出るとがらんとした空き地。ここに東京タワーが出来るんだろうか?
 駅前にはパン屋のサンエトワール、am-pmがあり、今時のやたらに短いスカートの女子高生がたむろしている。そして駅から押上通り商店街に出て散策。
 押上は裏通りを歩いていると面白そうな店や小さな作業場があってそれなりに情緒があるのだがメインの四ツ目通りの方が寂しい。その四ツ目通りにあるのが「押上通り商店街」である。なぜかここには時間が何十年も前から止まってしまったような店が多い。四ツ目通りに出て角にあるのが「伊勢元百貨店」。百貨店とあるが、いたって普通の荒物屋であるし、「斉藤洋品店」の「洋品店」というのも今時、古い商店街でしか見かけない。押上通り商店街のこの寂れ方もなんだか懐かしい光景で、ふと我を忘れてしまう。

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 さて、この商店街を歩いていて見つけたのが「押上食堂」である。大振りの紺のれん、その左に縦組みで「大衆」とあるのがなんとも惹かれるところ。見つけたのは道の反対側なのだけど大急ぎで信号を渡って店の前まできた。この歩道のアーケード下にカンバンがあって、ここに「東京都指定食堂 押上食堂」とある。この「東京都指定食堂」というのは、また後日、詳しく書いていくつもりだが、戦後の混乱期の「外食券食堂」が起源となっているようだ。当然、「押上食堂」の創業も古いと言うこと。

 さて、紺の暖簾をくぐると思ったよりも狭い店内。左右にカウンター、中央にテーブル、置くにずらりとおかずが並ぶ。定食はないようだ。
「好きなものを取ってください」
 いきなりそう言われたが、トレイもないし、ととまどっていると、
「どうぞ取ってください」
 また繰り返されて、とりあえず冷や奴をテーブルに置くと、これで正解のようだ。この冷や奴がなんと1丁まるごと。
「ご飯は大中小、ありますが」
 品書きを見て
「中でお願いします。このサンマの煮つけ、ありますか」
「今日はなくて、カレイでいいですか」
 カレイの皿を電子レンジで温めて、温かいみそ汁と、大盛りかと見まごうご飯。もうひとつ、なんか欲しいなと考えていたら常連さんが、あれこれおかずをカウンターに運んでいる。女将さんとの呼吸も見事である。きっとこの方など毎日のように来ているんだろう。

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 機を逸して仕方なく、みそ汁をすする。ちょっと濃すぎるのだが、味はいい。そしてカレイの煮つけが甘辛くてこれもうまいではないか。この煮つけの甘さは東京下町風とでも言おうか、煮汁の色合いこそ醤油っぽいが甘味の方が勝っている。これを、ご飯にのせてワシッとかき込む。このご飯もほっかほかで香り高い。合いの手の冷や奴とともに一気に食い終わって、まだ少し骨にこびりついたカレイの身をこそこそほじくる。そうだ、日本酒でも頼めばよかったんだ。そしておかずをもう一品。見回すと周りでのテーブルには瓶ビールが見える。仕舞った、と後悔しても今更どうしようもない。
 代金650円を支払って店を出ようとすると奥から
「ありがとうございました」
 気持ちのいい声がかかった。

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 ふと思うのだけど、押上に新東京タワーなんていらないんじゃないだろうか? まさかと思うが、ここに新東京タワーが建ったとして地元になんかいいことあるんだろうか? むしろ住みづらい、硬質で陰険な土地と化して住む人を不幸にする。そんな気がするがいかがだろう?

押上食堂 東京都墨田区押上1-12-7


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このページは、管理人が2006年7月18日 12:49に書いたブログ記事です。

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