2006年9月10日アーカイブ

 夕暮れ迫る南千住というのは歴史を知る人なら鬼気迫る思いになるのではないか? なぜなら江戸城にとってここは鬼門。かの小塚原の刑場のあったところ。三ノ輪から南千住へ向かうということはすなわち刑場に向かうということなのだ。ちなみに「小塚原」というのは「骨が原」のことなのである。この仲通を抜けると、その小塚原にちなむ「コツ通」そして回向院に出る。

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 さて荒川線三ノ輪橋、すなわち終点で降りて、日光街道を超える。ここにいかにも繁盛していそうな焼きトン屋があって後ろ髪を引かれながら仲通を歩く。少々、時間がおそくて大方の商店は閉まっている。そんなときに右手に「酒処 居酒屋」と書かれた暖簾が下がり、引き戸を千鳥足のオヤジさんがガラッと開けて、「おっ」と声をかけると「遅かったな」と中から声がかかる。ついついつられて一緒に入ってしまいたくなる。

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 もんじゃ焼き、スナック、針灸マッサージ、その上に群青の夜空。ふと路地をのぞくと古めかしい酒屋がある。ここで見つけたのが蜂ブドー酒、デンキブラン、亀甲宮焼酎、ユニオンソースもあるのだ。この「ひこ屋酒店」、その昔は大きな倉庫をもって繁盛していたそうである。それを語るオバサンの懐かしそうな顔つき。

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 また仲通にもどると魚屋、和菓子店があるが閉店間際。結局、「ひこ屋」で亀甲宮、ユニオンソースを買っただけ、いつの間にか「コツ通」まで来てしまった。

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 通りを超えると常磐線南千住。そのまま無駄歩きをお仕舞いにするつもりがガード下で遭難。クルクルと景色が回るのをぐっと堪えて帰路につくのだ。後は記憶がない。

 今年の夏は辛い日々の連続であった。初夏にはガン検診に引っかかり、本業にも嫌気がさし、かといって「市場魚貝類図鑑」の改訂も進んでいない。その最悪の日々の最たる時間が中央線に乗り込むときなのだ。これに乗り込むと「素」を捨てて仮面を付けることになる。単調な小一時間、お茶の水に向かうときが変身の苦しみを感じるときである。そんなホームに見慣れぬ車両が滑り込んできた。
 中央線も味気ない造りだが、この電車もまことに特徴のない面突きをしている。なんだこれはと車掌さんに聞くと「南武線なんです」とさもつまらなさそうに言うのだ。南武線は総てが各駅停車という不思議な線。各駅停車しか走っていない線というと「八高線」「茅ヶ崎線」「横浜線」なんかがあるが、どれも多摩地区から都心を円周上に回るものばかり、放射線上のものは賑やかなのに、こちらはローカル線なのである。
 これをぼんやり見ていると、ふらふらっと南武線にでも乗って、どこでもいいから知らない街に降り立ち、あたりを無駄歩きしたくなる。でもそこに時間通りに中央特快が来て、乗ってしまうんだから夢から覚めるのは早いのだ。

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