今年の夏は辛い日々の連続であった。初夏にはガン検診に引っかかり、本業にも嫌気がさし、かといって「市場魚貝類図鑑」の改訂も進んでいない。その最悪の日々の最たる時間が中央線に乗り込むときなのだ。これに乗り込むと「素」を捨てて仮面を付けることになる。単調な小一時間、お茶の水に向かうときが変身の苦しみを感じるときである。そんなホームに見慣れぬ車両が滑り込んできた。
中央線も味気ない造りだが、この電車もまことに特徴のない面突きをしている。なんだこれはと車掌さんに聞くと「南武線なんです」とさもつまらなさそうに言うのだ。南武線は総てが各駅停車という不思議な線。各駅停車しか走っていない線というと「八高線」「茅ヶ崎線」「横浜線」なんかがあるが、どれも多摩地区から都心を円周上に回るものばかり、放射線上のものは賑やかなのに、こちらはローカル線なのである。
これをぼんやり見ていると、ふらふらっと南武線にでも乗って、どこでもいいから知らない街に降り立ち、あたりを無駄歩きしたくなる。でもそこに時間通りに中央特快が来て、乗ってしまうんだから夢から覚めるのは早いのだ。
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南千住仲通を無駄歩き