日本橋「たいめいけん」のラーメン

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 日本橋大伝馬町でアルバイトをしていたので、かれこれ室町や日本橋には30年近く馴染んでいる。今はなくなった丸善、また三越デパートの本屋のカバー、べったら市など懐かしい。
 そんななかで、「たいめいけん」のラーメンを知ったのはほんの数年前のことだ。「たいめいけん」で年に一度くらいは店内で一品を注文、そしてビールを飲む、というのは言うに言われぬ楽しい一時であ。この店の良さは店構えの立派さとは打て変わって一階の雰囲気はいたって庶民的、値段も驚くほどにはかからない。夕食には早すぎる遅い午後にゆったりビールを飲み、チキンカツを食べて、ついでにボルシチをお願いしても2000円を超えることはない。またこの時間ならパトリシア・コーンウェルに夢中になっていささか長居をしても大丈夫なのだ。そして店脇にあるラーメンのがスタンド(正確には「ラーメンコーナー」)。

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 ここで立って食べるラーメンの値段が650円なのである。老舗洋食店なのだから当然、巷のラーメンよりも割高である。スタンドでラーメンをお願いすると若いコックさんが麺を茹で始める。そこからは店の厨房が全部見える。そのスタンドよりの巨大な寸胴鍋な鍋からスープがすくわれて出来上がる。ラーメン丼の下にはステンレスのトレイというのがいかにも洋食屋風に見える。スープは醤油色に染まるが、とても澄んでいる。そこにやや鹹水の少ない麺が入っているが、これがときどき茹ですぎである。そのためだろうか、麺が粉っぽく感じるときがある。そしてよく煮含められたメンマ、のり、青ネギの薬味にチャーシュー、絹さやがのる。赤く染まったチャーシューはいかにも中華料理といった雰囲気だ。

 さて、「たいめいけん」のラーメン、歴史は遡ること明治時代に至る。「たいめいけん」の創始者である茂出木心護は昭和2年(1927)に「西支御料理処 泰明軒」で修業を始めている。その店の始まりが明治中期、そこでは中華も洋食(食の頃だから西洋料理)も作られていた。そして今現在のラーメン(支那そば)が浅草「来々軒」に誕生するのが明治43(1910)のことである。調べてみると古くは洋食も中華という区別もなく、それらが混合混ざり合って、まるで先カンブリア期のような時代が日本の料理界にはあり、それが明治から大正、昭和の初めなのであるが、そのときに誕生したのが新しい料理としてのラーメンなのだ。創業が昭和7年(1932)の「たいめいけん」では中華洋食の複合体を経験していることになる。ラーメンが「たいめいけん」に存在するのは当時の名残なのである。ちなみに近年、料理の世界は専門化、もしくは分化の時代にあるがこれが進みすぎるのと複雑さ、また物語性に欠けてつまらない。でも急速に複合体の食堂は消えつつあり、カレー、ラーメン、スパゲティと細分化している。

 日本橋といっても広くて、少し説明が必要となってくる。本石町、室町は日銀、三井・三越があり、三越でお買い物を楽しめるオバチャンやお金持ち以外には硬質で面白みにかける。中央通りを挟んで本町には魚河岸があったためかごちゃごちゃと庶民的、ボクのお散歩コースのひとつ。そして日本橋を超えて右手は八重洲、左手が「たいめいけん」のある日本橋となる。一昔前にはここに東急日本橋店があり、高島屋があっていかにも上流階級御用達といった街だったのだが、いまあるのはコレド日本橋(これって「お江戸日本橋」のしゃれだよな)。この裏手が「たいめいけん」。

 どうしてこんなことを書いているかというと「立ち食いラーメン」が650円というのは、この地域で「たいめいけん」だからやっていけるというのを説明するためだ。最近のラーメンというのは新興勢力が高い値段をつけてきている。だから「立ち食いラーメン650円」はおかしくないと思われるかも知れないが、このお隣には庶民的な日本橋本町があり、また神田駅周辺では激安の飲食店がしのぎを削っているのだ。ということで、「たいめいけん」でラーメンを立ち食いするというのはボクにとっては贅沢なのである。貧乏人には日本橋では幾らでも選択肢があり、その価格帯は500円以内である。
 それでもほんのたまにではあるが「たいめいけん」でラーメンを食べるのは、明らかにもの足りない味わい、たぶんイノシン酸の旨味に欠けるスープに深いところではまっているためなのだ。真に真面目にストレートにとったスープであり、また素材のうまみそのもの。そこに加わるものは醤油、塩くらいなのだろうが、これがいいのだ。これをラーメンにしたのも本当はいちばんスープの味わいが出ているからかも知れない。
 最後に、ボクの本音を言うならばラーメン立ち食い650円は高い、それでも「ときどき食べてしまう」のは毎回食べた後に「どうしてだろう、不思議だな」と感じているということだ。その不思議をまた感じたくなる。やっぱり不思議だ!

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たいめいけん
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このページは、管理人が2006年9月23日 08:50に書いたブログ記事です。

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