いや、なんとも驚いたのは店の位地と造り、そしてこの店主親子である。真横にあるスーパー「高田屋」で「おいしい豆腐屋ありませんか?」と聞き、教えてもらって店の前に来たら、ちょうど出てきたのがしかめっ面のオヤジさんである。
「あの、豆腐を買いにきたんですが」
外観のいかにも仕舞た屋風なのに気後れしておずおずお願いしたのだ。
「うちの豆腐はうまくないよ。やめた方がいい」
いきなりこんなことを言われたのは初めてである。では強面なのかというと別に真顔に見える。
「どこまで持って帰るの。東京、うまくないからやめといた方がいいな」
そこに娘さんまで登場して
「そうそう」
オヤジさんが脇の部屋にいなくなったかと思っていたら、
「うちじゃね、これがちょっとはいいかな」
皿に厚揚げをのせて持ってきてくれる。
この一枚を食べて驚いた。表面の香ばしさはもとより地の豆腐がいいのだ。
「あの厚揚げと豆腐を下さい」
お願いすると、娘さん。
「厚揚げはだめだよ」
なにがダメなんだろう。
「厚揚げはね。持って帰っている間に水が出るの。だからうまくない」
それではと豆腐だけ1丁買って帰る。この豆腐が渡された途端に持ち重りがする。
「ありがとうございました」
と支払ったものの幾らだったのだか忘れてしまった。でも非常に安かったのだ。
帰り着いて酒の肴はこのドデカイ木綿豆腐である。確かに今時の甘味のある豆腐よりも、豆腐屋さんが昔から造ってきている淡麗な味わいの豆腐だが、水がいいのだろうかこの大きな豆腐を平らげても飽きが来ない。残念なことに当日は富士も隠れていたことだし、また河口湖町へ、そしてまたまたあのオヤジさんに会いに行こうかな?
中村豆腐店 山梨県南都留郡富士河口湖町船津3850-4
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