月島の豊海からバスに乗って東京駅を目差す。しかし腹減ったな。築地場内を見て、大都魚類に立ち寄り、勝鬨橋を渡って「築地フレッシュ丸都」で工場を見学。確かにキンメの頭の干物や西京漬けのメロを食べたにしても糖質は早朝からまったく口にしていないのだ。腹が減って腹が減って死んでしまいそうだ。
時刻は11時過ぎ。このままお茶の水に帰ってもコンビニでお握りってところだろう。そんなときに都バスの窓から清澄通りで見かけたのが「月よし」である。二軒並んでいるので気がついた。『大衆食堂』(野沢一馬 ちくま文庫)に載っていた店である。常々行き当たりばったりに店を尋ねている。唯一例外なのは川本三郎さんのものだけというボクだがこんな幸運もあるのである。空腹に「大衆食堂」とは魅力的だ。慌ててバスの停車ボタンを押して荷物をまとめて転がり出る。広い清澄通りを渡ると、ちょうど「月よし」の前のタクシーがミニパトカーに駐車違反の取り締まりを受けているところだ。
確かこの店はタクシー運転手ごひいきの店として有名であったはず。過酷な労働を強いられている彼らにはなくてはならない店のはずである。無粋なミニパトカーであることよ。
店は左右二軒ある。どうも右手におかずなどの並ぶ厨房がありそうなので引き戸を開ける。目の前の厨房との境にたくさんのおかずの皿。初めてなので戸惑っていたら、なんにんもの人が後ろについてくる。なんだかこわいような腹減りの殺気を背中に感じる。
目の前の皿を見て、とりあえずは揚げ物を外して、なんて考えていると、またまた後ろで足踏みする気配。慌ててしまって、ご飯みそ汁にマグロのぶつ、玉子焼きにする。これが750円なり。マグロのぶつは300円なのである。でも後の人が「ニラ玉」と言い、またその後の人も「ご飯大盛り、ニラ玉とメンチ」というのを聞いてしまって後悔する。その玉子焼きが思ったほどに家庭的でも焼きたてでもなかったからだ。
でも席について、マグロぶつを一口食べて驚いた。味があるいいメバチなのだ。これはなかなか優れた目を持って仕入れているようである。しょうゆをたっぷりつけて、やや柔らかいご飯にのせる。これがその曰く言い難いほどに感動的な美味である。ご飯の甘味マグロの甘味で相乗効果となってビックリするほどにうまーいのだ。ワカメのみそ汁も、見た目は平凡な玉子焼きも、ともにいい味わいだ。いっきに食べて余計に腹が減ってきた。
無性に大盛りご飯にしなかったのが悔やまれる。店を切り盛りするお姉さんたちがなんとも優しくてきびきびしている。もう一度おかずとご飯を追加したくなった。それを断念させたのは正午近い時刻の壁である。残念で無念で身もだえる思いだ。この店は早朝6時から店を開けているという、それならまた築地に来るときに勝鬨橋を渡ればいいのだと涙をこぼしながら店を出る。悲しいな!
月よし 東京都中央区勝どき4の11の10
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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