卸売り市場というのは鮮魚、精肉、青果などの生鮮品と、惣菜という加工食品のふたつの分野が同居しているところ。多摩地区などでは個人商店が店に並べる総てがここに揃っている。この惣菜の仲卸には昔ながらの定番的な存在が数々あって、「イシイのチキンハンバーグ」もそのひとつ。
「マルシン(ハンバーグ)とおんなし棚に並べるんじゃない。スーパーやってる人は必ず一箱持ってくよ。注文も多いし、ミートボールもあるよ。どっちも古いね」
仲卸のユキちゃんの解説。そう言えば、どこの惣菜屋(仲卸)にも置いてある。1か月保つというので一箱買ってみる。
千葉県船橋市にある石井食品は戦後に生まれた会社。仲卸に聞くと、チキンハンバーグで有名だと言うから肉関連なのかと思ったらもともとは佃煮屋さんなのである。それが1973年にチルドの「チキンハンバーグ」を「作ってから大きくなったんだろう」と仲卸では思われているようだ。とにかく「イシイのチキンハンバーグ」は惣菜関連の仲卸にはなくてはならない存在であるという。
持ち帰ったら家人がいきなり、
「イシイのおべんとうクン、ハンバーグ」
歌い出した。これはよく耳にするコマーシャルソングではないか? 考えてみたらテレビかラジオから常に流れてきている。そして家人が昼食用に太郎に残りご飯をチンと温める。かたわらには沸騰したお湯にチキンハンバーグ。カレー皿にご飯、そこにいきなりハンバーグをソースごとのせるのだ。ついでだからボクにも用意してもらったらこれがなかなかいける。
トマトが入っているようで酸味のあるソースには甘味があって濃厚だが優しい味わいだ。その上、ハンバーグにちゃんと鶏肉の旨味とジューシーさがある。これは子供が大好きな典型的なもの。
この定番的な商品、市場仲間に食べたことがあるのか聞いてみる。すると60歳を筆頭に全員「なつかしいな」という。
山梨の高校(太陽学園って言ってるけど、それ本当にあったんだろうか?)に通っていたという寿司屋のオヤジ(45歳)は
「お弁当にはよく入っていたよ。半分ね。おんなし会社のミートボールもあったな。それと魚肉ソーセージを焼いたヤツ。昔の弁当箱はおかずとご飯が別々だっただろ。そのおかずの方じゃなくてご飯の方に(ハンバーグが)入っていたんだ。それをストーブで温めるの。ウチは代々店(実家がスーパー)やってるだろ。お袋なんか料理作らないで、こういうのをドカっと入れてくれる。(学校では)むしろうらやましがられたな」
八百屋のオヤジ(コイツ40歳前後?)は、
「この家業やってると、朝忙しいだろ。おやじは“やっちゃば”だし、だから子供の頃は朝自分で作ったよ。母ちゃんがご飯と、みそ汁を作ってくだろ。そこにこれがあると妹もオレも贅沢って感じでさ。マルシンハンバーグよりも高かったんじゃない。やっぱ贅沢って思ってたね。そいで八百屋だから漬物があるだろ。懐かしいね。朝にご飯っていうことがさ。今はパンだもん」
魚屋(仲卸)の若い衆は今でも手が空いたときにこれを「食ってる」という。
「あの、サトウのご飯っていうのあるでしょ。それにレトルトのカレーとハンバーグをかけるの。これはうまいっすよ。オレは朝はカップ(ヌードル)よりは飯だから」
市場の片隅でカップヌードルで朝飯というのはよく見かける光景だ。確かにそれよりも何倍か健康的に思える。
一箱買ってきたら、それ以後我が家でも定番的なものとなっている。1個100円前後だろうから、決して安いものではない。でも慌ただしい朝ご飯のときや、子供が腹減りのときには便利極まりない。
これなどスーパーの片隅の優れものといった存在だろう。
石井食品
http://www.ishiifood.co.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
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