2008年5月アーカイブ

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 島根県は“そばどころ”なのである。とくに松江市内には有名なそば屋が群雄割拠しているらしい。また面白いのは兵庫県出石には皿そばというのがあり、出雲の割子そばに似た食べ方をするのだ。ひょっとしたら山陰全体が“そばどころ”かも知れず、また同じようにそばにつゆをぶっかけて食べるのかも知れない。これはこれからの課題である。
 念のために割子そばとその食べ方を記す。
 割子というのは漆塗りの丸くて浅い器で、これが上に上にと重ねられる。このひとつひとつに、ゆでたそばが入っていて、それぞれの量は少ない。
 この割子一枚ごとにそばつゆをかけながら、食べるのだけど、薬味が何種類か用意されていて、これを好みでのせていく。
 そばの色は黒く、汁は醤油辛い。そこに加わるのがドロリとしたそば湯で、これはゆで汁にそばをを加えているように思える。

 さて、ボクは大学時代以来長々と東京は神田神保町に徘徊するものである。実は神保町に『出雲そば』という老舗があり、ここでなんども割子そばを食べている。だから、かれこれ20年以上前に松江に来て、友の結婚式で「割子そば」を食べ、街に出て寺町の『松本』という、そば屋で「割子そば」を食べたときにも、そんなにどぎまぎすることもなっかったのだ。そして松江で割子そばというのは、それ以来の20年振りとなる。

 やっとやっと本題に入る。『ふなつ』は観光客には、なかなかわかり辛い場所にある。たぶん観光客よりも地元市民が行く店なのではないか?
 この店を教えてくれた地元のヤマトシジミさんに聞いたのが月照寺の側だと言うこと。月照寺は松江藩松平家の菩提寺で一様観光名所らしい。
 このときバスにゆられて市内観光をしていた。これは市内の観光名所をグルリと回るもの。平日なのにやたらに観光客が多く、驚きながら小泉八雲旧宅をなんと3分で見終わり、そのまま次の観光用のバス(20分ごとに巡行している)で月照寺を目差す。この寺に着いたまではよかったものの、目差すそば屋は遙かに通り過ぎてしまっていたのだ。
 行けどもいけどもそば屋がない。辿り着いたときのうれしさ一入であった。

 日本家屋のこぢんまりした店、そこに長暖簾がさがっている。中にはいるとそばを打つのが見えて、店は満席に近い。
 さて、品書きを開いてみると、これが意外なほどに品数が多いのだ。だいたい「ざるそば」なんてものがある。このような初めて来た店では、「とりあえずスタンダードなもの」を注文するに限る。しかも本日は昼飯を“つきじろう”していてあまり胃の腑に隙間がない。

 割子そばを注文して、やや待つ。そしてやって来たものが、なんとも豪勢なものであった。当然割子三枚のそば、つゆの入った徳利、薬味四種(板海苔、花鰹、ねぎ、大根おろし)にそば湯、それに、そばの揚げ餅にそば粉を溶きこんだなかに粒あんが入った、これは善哉とでもいうのだろうかが加わっている。これで720円とは素晴らしい。
「餅は早めに食べてください」というので、いきなり餅を食べたらいい味なのである。ほんのり穀物の香ばしさがあって、これがそばだとすぐに気づく。

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 さて、肝心のそばが変わっている。色合いは薄目で黒っぽくないが、そこにそば殻の黒が点々とあり、白い胚芽なのだろうか、ごつごつと練り込まれている。つゆをかけただけですすると、そばの味が濃厚で、そこに、そばの香りが立つ。つゆに対してそばが勝ちすぎているように思えるのだけど、そのつゆもカツオ節などのだしが利いてうまい。ここからは割子そばならでは田舎風に、薬味をたっぷり盛り込んで三枚を平らげる。

 この後の善哉もなかなかうまい。ゆっくりお茶などをいただきながら、お店の方にバスの時刻を問うと、今前を通り過ぎるところだという。でも「五分ほどあとに、あの橋の先にあるバス停に」バスが来るそうなので、大慌てで店を後にする。これから山陰本線に乗るのだけど、まことに本数が少なく、一本乗り過ごすと大変なことになる。

知られざる 出雲そば
http://www.city.matsue.shimane.jp/kankou/izumo_soba/
中国山地蕎麦工房 ふなつ
http://www.city.matsue.shimane.jp/kankou/izumo_soba/g007.htm

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 毎年神保町の『揚子江飯店』のものは特別として、冷やし中華を食べるのは年に1回だけと決めてしまっている。すなわち年に一度の冷やし中華なのだ。ところが、今年は異変ありの可能性が高くなってしまった。
 朝方帰宅して、それでも市場で魚を見てから、寝不足と風邪の熱のせいで少々疲れてしまって、おいしいお茶を飲みに八王子総合卸売センター『さくら』に立ち寄った。あくまで目的はうまいお茶なのだけど、まささんから「冷やし中華はじめました」と声がかかる。

 なんだか吹いてくる風の生温い日で、その中にツツジの甘い蜜の香りが感じられる。決して冷たいものがイヤだという気候ではない。
 ここでいろいろ思案。疲労困憊しているとき、何よりも暖かな中華そばはいいにしても、刺激的酸味を感じる冷やし中華を食べて大丈夫か?
 その上、ボクの平均的な冷やし中華食べ時期は6月下旬。それが5月1日となるのはいかがなものだろう。
 まささんの「冷やし中華を作るのが大変なのよ」というのに惹かれて、お願いしてみる。大変だ、大変だ、という割に、そんなに大変であることなんてあったためしがない。
 実際にお願いすると『さくら』夫婦がおたおたと、厨房の中で右往左往する。オマケにまささんなど外に飛び出す始末。あれれと思うこと4、5分、戻ってきた手に持っているのがトマトなのだ。

 なぜに厨房の中が慌ただしいのか? というのは冷やし中華が出てきてはじめてわかった。これは凄いでしょう。本当にこれ750円なの?
「まささん、これボクのために特別かな?」
「いえ、違いますよ」
 そのとき知り合いの飲食店主が入ってきたので、「冷やし中華をすすめる」。
 出てきたものは確かに同じものだけど、
「あれ、まささん、ボクには胡麻がかかってないよ」
「しまった」
 この騒ぎは毎年のことなのだ。

 この豪華絢爛の冷やし中華がややすっぱい。でもうまいし、またまたすっぱい。なんだか止められないままに一気にすすりこむ。不思議な味だな。まささんが作り出した、まったく独自の『さくら特製』というやつ。
 実をいうと麺と具を食べ尽くしたときには、そんなにたいした冷やし中華ではないだろう、なんて思っていたのだ。確かに具はカニカマあり、メンマあり、ネギにトマトに錦糸卵に干しシイタケにと多彩につきる。しかし、それだけかな、やっぱり今年も年に一度の冷やし中華であるな、なんて思ったのである。
 ところが、皿にたっぷり残った汁をレンゲですくっている内に、この甘酸っぱい液体の虜になった。
 どんどん疲れがとれていくし、塩辛すぎないし、すっぱすぎない。

 まったく、まささんという中華料理人は不思議な人であるな。最初は取っつきづらい料理なのに、最後には夢中になっている。
 汁一滴も残さなかったのは高血圧のボクの失敗かもしれない。

八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html

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