毎年神保町の『揚子江飯店』のものは特別として、冷やし中華を食べるのは年に1回だけと決めてしまっている。すなわち年に一度の冷やし中華なのだ。ところが、今年は異変ありの可能性が高くなってしまった。
朝方帰宅して、それでも市場で魚を見てから、寝不足と風邪の熱のせいで少々疲れてしまって、おいしいお茶を飲みに八王子総合卸売センター『さくら』に立ち寄った。あくまで目的はうまいお茶なのだけど、まささんから「冷やし中華はじめました」と声がかかる。
なんだか吹いてくる風の生温い日で、その中にツツジの甘い蜜の香りが感じられる。決して冷たいものがイヤだという気候ではない。
ここでいろいろ思案。疲労困憊しているとき、何よりも暖かな中華そばはいいにしても、刺激的酸味を感じる冷やし中華を食べて大丈夫か?
その上、ボクの平均的な冷やし中華食べ時期は6月下旬。それが5月1日となるのはいかがなものだろう。
まささんの「冷やし中華を作るのが大変なのよ」というのに惹かれて、お願いしてみる。大変だ、大変だ、という割に、そんなに大変であることなんてあったためしがない。
実際にお願いすると『さくら』夫婦がおたおたと、厨房の中で右往左往する。オマケにまささんなど外に飛び出す始末。あれれと思うこと4、5分、戻ってきた手に持っているのがトマトなのだ。
なぜに厨房の中が慌ただしいのか? というのは冷やし中華が出てきてはじめてわかった。これは凄いでしょう。本当にこれ750円なの?
「まささん、これボクのために特別かな?」
「いえ、違いますよ」
そのとき知り合いの飲食店主が入ってきたので、「冷やし中華をすすめる」。
出てきたものは確かに同じものだけど、
「あれ、まささん、ボクには胡麻がかかってないよ」
「しまった」
この騒ぎは毎年のことなのだ。
この豪華絢爛の冷やし中華がややすっぱい。でもうまいし、またまたすっぱい。なんだか止められないままに一気にすすりこむ。不思議な味だな。まささんが作り出した、まったく独自の『さくら特製』というやつ。
実をいうと麺と具を食べ尽くしたときには、そんなにたいした冷やし中華ではないだろう、なんて思っていたのだ。確かに具はカニカマあり、メンマあり、ネギにトマトに錦糸卵に干しシイタケにと多彩につきる。しかし、それだけかな、やっぱり今年も年に一度の冷やし中華であるな、なんて思ったのである。
ところが、皿にたっぷり残った汁をレンゲですくっている内に、この甘酸っぱい液体の虜になった。
どんどん疲れがとれていくし、塩辛すぎないし、すっぱすぎない。
まったく、まささんという中華料理人は不思議な人であるな。最初は取っつきづらい料理なのに、最後には夢中になっている。
汁一滴も残さなかったのは高血圧のボクの失敗かもしれない。
八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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せっかく松江まで来たのだから『ふなつ』で割子そば