長旅もそろそろ終わりに近づきつつある。
日本海から瀬戸内に来て、魚貝類に埋め尽くされた日々に、また瀬戸内の魚貝類を見て、疲労感は最高潮となっている。
水産棟から関連棟までとぼとぼ歩きながら、この疲れの原因のひとつが我が身の体重にありと改めて感じるのだ。
見上げると、すんだ青空が広がっている。
朝から気温が上がり気味で、頭が一層ぼんやりする。
連日の酒で胃が重く、少々痛む。
ふと、浜田(島根県浜田市)の連中と酒を酌み交わしたのは楽しかったな、なんて思い出す。
関連棟に入り、いちばん端っこから、とぼとぼ正門近くの方に長い長い通路を歩く。
以前、おでんを飽食した備前食堂、いちど入ってみたいと思っている「シモショク」、そして結局、端まで歩いて、「笑福亭」、もう一度、通路を戻る。
入る店は既に決めてしまっている。
でも一度は通り越して、「本当にここでいいのか?」、自分に問い直して店を選ぶのが私流(わたくしりゅう)なのだ。
店の名は「まあちゃん食堂」。
「まあちゃんに会えるのだろうか?」
暖簾をくぐるといきなり目の前に、まあちゃん(だろうと思われる)がいたのだ。
小さな小さな、まあちゃんで、「いらっしゃいませ」なんて愛想がいい。
店内にはおかずが並んだケースが大小二つ、そして岡山の市場の定番食ではないかと思い始めた、おでんが煮えている。
「あの、ここからとっていいんですよね」
「いいんですよ(ニコニコ)」
菜っぱ(葉物野菜)と豆腐の炒りつけたもの、酢の物、トンカツ、コロッケなどがあり、そこに小いわし(マイワシ)の煮つけ、アゲマキの煮つけがある。
アゲマキの皿を持って、
「この貝なんって言うんですか」
「ああ、“ちんたいかい”ってここらではいうのう」
「いやあ、初めて見ました」
「そうですかいの。ここらへんではよく食べますけん。そんでも最近はあんまり食べんようになったな」
“ちんたいかい”をとってカウンターに腰掛ける。
「おでんください」
「なにがええですかいね。卵はいります(箸でかき回して)、あるかいな。あったあった。豆腐ね、ああ、これは長てんです」
ゆで卵に、豆腐、長てん(長方形の薩摩揚げ)を選んだ。
「ご飯、みそ汁いりますね。ご飯は大と中と小があります」
「小でいいかな」
「そうですね。足りなかったら、足してあげますけん」
その小が東京都内での大盛りに近い。
出てきたみそ汁が具だくさんで濃いのだけど、一口すすると身体に染みこんでいくようだ。
うまいし、おかしなことに疲れが引いていく。
疲れたときには濃いみそ汁が効くのだな。
長てんにかぶりつき、まあちゃんの料理の腕がただ者ではないことがわかる。
おでんつゆは適度に甘く、適度にしょうゆ辛い。
ごはんに合う、味付けとなっている。
これは、“ちんたいかい”にもいえることで、思ったよりも軟らかく、そしてアゲマキの味を殺していない。
ごはんのうまさに、先ほどまでの胃のジクジク感が消えてしまう。
これなら体調悪くても大でよかったのかも知れない。
最初にいたお客が帰り、またお客が来て帰る。
早食いのボクがゆっくり朝ご飯をとる。
これは久しくなかったことだ。
最後に番茶(ほうじ茶。中国地方の番茶は焙じるタイプが多い)を飲み、たくわんをポリポリ、そして残った“ちんたいかい”を食べる。
「まあちゃんまた来るからね」と心の中で言いながら店を出た。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
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姫路城を見ながら無駄歩き
こころも体も暖まる、ごはんに恵まれてますね。
岡山には夏から友人が旦那さんの都合で転勤になり、いつか遊びに行きたいところです。
おいしそうなまあちゃんみたいな食堂、板橋区にもあるといいな(*^^*)
きいさん、板橋にはこのような心温まる食堂がいっぱいあると思います。
ボク板橋嫌いじゃないな!