金沢市寺喜屋での昼ご飯 01

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 1980年代のなかばに福井県から日本海を北上する旅に出た。
 二泊三日で出来るだけたくさんの港と魚を見たい、というあてのないクルマ旅だ。
 当然、金沢では近江町市場を見て、もうひとつの目的であった『寺喜屋』を目差した。
 クルマで犀川大橋までたどり着いたとき『寺喜屋』は探すまでもなく、店の前にお客が並んでいたために、否応がなくそれと知れたのだ。
 現在もその当時も同じように、“並ぶ”のが嫌いなので、そのままクルマを能登半島に向ける。
 当時『寺喜屋』は表は魚屋で、奥が食堂になっていたはず。
 ラジオ番組で永六輔(著名人なので敬称略とする)がうまいと言ったのを聞いて、“行きたい”と思ったわけで非常に短絡的な話ではある。
 ちなみにボクは、当時どころか小学生のときから永六輔ファンをやっている。
 そのときの諦めが、今でもしこりのように残っていて、同行のヤマトシジミさんを誘っての『寺喜屋』だ。

 市内近江町市場を見て、武蔵が辻バス停から野町を目差す。
 店に近い停留所をひとつ行き過ぎてしまった。
 雲一つない蒼い蒼い空、日差しが強くて風がない。
 そこを明らかに太りすぎの旅人二人が腹をすかせて、のっしのっしと歩く光景はいかなるものだろう。
 古い三階建ての木造建築、神社らしい土塀、小さな和菓子屋、バスを降りて家に向かっているらしき母子。
 この短い時間が唯一旅心を感じられたのだ。
 ふと目的のない旅がしてみたくなる。
 「寺喜屋という店を探しているんですけどご存じありませんか」
 人に問い。
 ヤマトシジミさんがケータイで場所を確認しながら犀川べりにたどり着く。

 『寺喜』とあるビルの割烹料理屋があって、一瞬これが『寺喜屋』のなれの果てなのかと心配になるが、すぐ先に昔と変わらぬ『寺喜屋』があった。

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 犀川大橋は工事の真っ最中、その前にある店は当時と変わらないものの、店の前に魚屋らしい様子がない。
 脇に暖簾がかかっていて、そちらから同行のヤマトシジミさんが引き戸を開けて「もうやってますか?」と尋ねたのが『寺喜屋』の営業開始時間である11時半のほんの少し前。
 前回の行列の印象が残っていたので、満を持して営業開始時間を狙ったものだ。
 店に入ると、大皿にうまそうな総菜類が並ぶ。
 ジャガイモを粉ふきに煮たもの、いわしの塩いり、青菜の煮浸し、たらの煮つけ、帆立の煮物、こっぺの煮つけ。
 端から見ていくに、全部食べたい衝動に駆られる。
 ここでとくに金沢らしいものが「いわしの塩いり」である。
 金沢から能登半島までの地域にみられる伝統的な料理で、ボクも文献でみて自家製している。
 これを地元で食べられるのがうれしいし、自家製するものとどう違っているのかを確かめられるというのにワクワクしてくる。

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 さて、引き戸の奥で「やってますよ、どうぞ」と言った女性はどうやら開店準備で忙しいようだ。
 奥の小上がりとなった座敷で、注文をとりにくるまで棒茶を飲みながら待つ。
 棒茶は茎茶を強く煎ったものでコクがあり、香ばしい。
 これも金沢らしいもので旅人にはうれしい。
 考えてみるとヤマトシジミさんともども午前6時以来、ほとんど歩きっぱなしだ。
 座敷に座り込むとふくらはぎがジンジンする。
 ほどなく、ややせわしない様子で注文を取りに来てくれた。

 注文したものを挙げていく。
「こっぺ」はたぶんガンギエイの煮つけ。
「いわしの塩いり」。
 いわしはカタクチイワシだと思われる。
 これを塩煮して最後に水分を飛ばしながら炒る。
「大根寿し」。
 金沢と言ったらブリを使った「かぶらずし」が有名だが、これはあくまでも晴れの料理。
 対するに大根ずしは、日常的なものと言えそうだ。
 大根に身欠きニシンを挟み、麹で漬けたもの。
「ぶり大根」。
 たしか当店の名物であったはずだ。
 ブリではなく大根が主役だ。
「じゃがいもの煮たもの」。
 粉ふき加減に惹かれてお願いした。
 男爵系を煮くずれさせないで、適度に粉を吹かせてたくのはとても難しいのだ。
「刺身盛り合わせ」。
 マダイ、「車だい(マトウダイ)」、「がんど(ブリの若魚)」、しめサンマ。
「めぎすの吸い物」。
 めぎすはニギスであり、これを小骨ごとすり身にして団子としている。
 そしてボクは午後から仕事がないので、燗酒。
 午後からも仕事があるヤマトシジミさんにごめんね、ごめんねといいながらいただく。

 さて「金沢市寺喜屋での昼ご飯」は02へ続く。
 
寺喜屋 石川県金沢市野町犀川大橋詰
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このページは、管理人が2008年12月 7日 10:46に書いたブログ記事です。

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