卵焼きについて考える「東京風卵焼きには驚いた」後編

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砂糖醤油で味つけした卵焼きの基本はけっして混ぜすぎないこと、白身の層がくっきり出るくらいがうまい

 1974年、東京に出てきて一人暮らしを始める。
 江戸川区小岩というところに住み、たまに定食屋に入っていたのだけど、そこで食べた卵焼きに強い衝撃を覚える。
 おかずは皿にのったのを自分でとるという形式。
 陳列ケースに黄色くない、むしろ黒っぽい卵焼きを発見する。
 卵焼きなのは一目瞭然、脇に大根おろしというのも目新しかったのである。
 これが面と向かって東京風(下町風?)醤油砂糖味の卵焼きを食べた初めだった。
 うまいのか、まずいのかという以前に驚くべき味だった。
 卵焼きは醤油で塩辛く、それ以上に砂糖で甘すぎる。
 いけないものを食べているような後ろめたさを感じながら、その濃厚な卵焼きに、東京の持つ大胆さ、もしくは野暮ったさを感じてしまう。
 東京というのは料理に関しては野暮ったくて、粗野なのだと確信したのは、この卵焼きと、真っ黒な汁の立ち食いそばのせいである。

 醤油砂糖味の濃厚な卵焼きは、現在にも生きる東京の「むかしの味」なのだ。
 池波正太郎と殿山泰司の本に、東京風の卵焼きの作り方が詳しく載っているが基本的には同じ。
 卵に醤油と砂糖をたっぷり放り込んで、くるくる巻き巻き香ばしく焼く。
 殿山泰司が子供の頃に自ら作る卵焼きなど、「これでもか」というほどに砂糖を「ぶっこんで」いたのだ。

 この醤油砂糖味の卵焼きを久しぶりに作ってみる。
 醤油には大量のアミノ酸が醸し出されている。
 そして卵にも必須アミノ酸をはじめ甘み、旨味が備わっている。
 これだけでも濃厚なところに砂糖が来るわけだから、フォアグラの上にアンキモをのせて、その上からフグの白子をのせてしまったような、屋上屋をなすような味になる。
 ちなみに小岩の食堂で食べたような黒い卵焼きは、どうしてもボクには作れない。

 結局どんなに大胆に作っても、醤油甘いだけの卵焼きで、醤油と砂糖で甘辛い重い重い獣めいた味にはならない。
 救いは醤油と卵の焼かれた香ばしさであって、そこには微塵の爽やかさもない。
 これを作るたびに東京の料理の基本形は、野暮ったくて粗野なのだという考えに改めて到達する。

 話はそれるかも知れないが、東京生まれの人に多くみられることに「権威主義の傾向」がある。
 食でも、音楽でも、学校学歴でも、「●●だから上等」とか、「●●でなければ」なんて本気で思っているらしく、田舎ものであるボクにも、ときにそれを押しつけてくる。
 野球の世界にナベツネという老人がいて「野球は巨人」との信念を世間にも強要するがごとき振る舞いをしている。
 この老人は明らかに東京的権威主義の典型だと重う。
 例えば「セリーグ」、「パリーグ」とあって、パリーグ出身の名監督(落合、野村)がいて、たぶん監督としての能力は今現在頂点だろうのに、MBCの監督にはしないといったことをやる。
 権威主義的に赦せないから、あえて無能な監督を選出するごときこともやる。
 考えてみると現代のスポーツ界に爽やかさは微塵もなく、あえて言えば汚らしく感じることの方が多い。
 もしも巨人軍が優勝したら銭金で買ったものだし、オリンピックの選手を製造するのもお金のなせるわざとなりはてている。
 これら総てが明らかに権威主義のもたらすマイナス面である。

 その野暮ったい、思い込みの激しい江戸文化(東京文化)が作り出したのが江戸前ずしであり、すし玉(すし用の卵焼き)なのだ。
 この、すし屋ならではの卵焼きを築地場内・場外、そして日本橋人形町に探すというのが、ボクの今年の課題だ。

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このページは、管理人が2009年1月12日 12:46に書いたブログ記事です。

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