2006年7月 5日アーカイブ

 ある日思い立って、入間に来た。これは埼玉を知るための旅であり、時間があくと突発的に敢行する。そして第一の目的、『繁田醤油』を見学。いろいろ醤油蔵などみて、「この辺にお昼を食べられそうな店ありませんか?」とたずねて、『繁田醤油』の方が息を切らせて、わざわざ連れていってくれたのが『つきじ』である。
 たどり着いたらそこはまったくの住宅地。新築の店に使い込んだ紺色の暖簾。白抜きで「手打 うどん つきじ」とある。この古い暖簾は新築前の店で使っていたものだろう。ここで使われている器類も古い使い込んだもので思った以上に老舗なのだろう。
 店内に入ると左手に4人がけのテーブル2つ、奥に座敷があり、右手に厨房。厨房との境にカウンターがあって、ここに天ぷらの入ったバット。そこに箸が添えられて「天ぷら一つ50円」とあり、春菊、かき揚げ、ごぼう天、ナスなどがある。
 メニューは「きつね」、「たぬき」もあり、もりもある。どれも魅力的だが埼玉ということでやはり「肉汁うどん」にする。この「肉汁うどん」は埼玉ならではの茹であげた温かい、また冷たいうどんの食べ方である。
 出てきたものは地粉を使った薄墨色のうどんがどんぶりにこんもりとあり、右手の椀に汁、これに薬味でワカメとネギ、すりゴマがつく。面白いのは前回飯能で食べた「古久や」でもそうだが、うどんがどんぶりに入っている。きっと、このどんぶりは温かいタヌキでもかけでも使われるものだろう。
 この汁に豚肉(牛肉の場合もあるのかな?)、ネギがたっぷり入っている。汁はたぶん、さば節、昆布の出汁にしょうゆ味、みりん、それに肉の旨味が加わって濃厚である。
 これが「中」であり650円、ごぼう天と竹輪天を加えて750円也。
 うどんはボク好みのもっちりしたもの。汁をつけないで食べても塩っ気を感じてうまい。これならどんなに大盛りでも最後まで「飽き」がこないで食べられそうだ。これにコクのある肉汁がよく合う。盛りのいい
「中」がほんの数分でなくなって、まだもの足りない。これはまさにうどんの美味のなせる思い。しかし「つきじ」のうどんはうまい。
 また、残念ながら天ぷらはおいしいとは言えないが1個50円は安いな。
 目立たない住宅地にこのような「うまいうどん屋」があるとは入間の味わい恐るべし、かも知れぬ?

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周りはまったくの住宅地である。よそ者にはこんなところにうまい「手打ちうどん」の店があるなんてわかりっこないだろう

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うどんは地粉を使い薄黒い

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汁は豚肉の旨味が濃厚に出て、醤油辛くうまい

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つきじ 埼玉県入間市宮前町7の12
●2006年6月14日記す

 埼玉への旅、最初に行ったのが飯能市である。なぜ飯能市かというと第一に我が家から1時間ほどで行ける。酒蔵がある。それとたまたま読んでいた林芙美子の短編に「遠足に飯能に行った」というのが出ていて、「飯能は東京にあってそんな土地柄なんだ」と思ったためである。まあ、動機はとりとめもないものである。

 さて飯能でどうしても見つけたかったのが典型的な「埼玉うどん」。
 その「埼玉うどん」なるものいかなるものか? というのを埼玉生まれ、埼玉在住の知人の弁を借りて説明する。
「まず汁を作るの。出汁をとるだろ、醤油で味つけして、そこに豚肉を入れる、玉ねぎやニンジン、夏はナスも入れたかな。とにかく野菜を入れる。この温かい汁に茹でたうどんをつけて食べるんだ」
 この人、説明をしながら盛んに目を宙に浮かしている。きっとお母さんなんかが作っていたのを思い出しているのだろう。

 そして飯能市に来て、たまたま立ち寄った和菓子屋で「おいしいうどん屋を探している」と尋ねて、たどり着いたのが「古久や」である。木造の古めかしい切り妻の二階家、正面入り口がガラス戸になっていて、真ん中のガラスに磨り文字で「古くや」とある。「いい感じだな」とガラス戸に手をかけて、そこにかかっていたのが「うどん売り切れ」の紙。実を言うと、この「古久や」の場所がわかりづらい。飯能駅から飯能銀座を通り抜けて八幡町という旧市街地に行くのだけど、こんなところにうどん屋があるんだろうかと心配になる。そんなときにたまたま道を聞いて親切に案内してくれたのが「とんき食品(豆腐屋)」の若だんなである。諦めていると親切にも「うどん一玉もないの」と聞いてくれたがだめだった。「とんき食品」の若だんなありがとうございました。
 そして今回、満を持しての飯能である。午前11時に店の駐車場にクルマを止めて、まだ空いている店内に入る。ガラスの引き戸を開けて入ると昔ながらのたたきの床。畳敷きの小上がりに細長い机が並ぶ。明かりがついているのに外から入り込む光に対して、店内は薄暗い。右手に厨房があるが、その古めかしくも情緒のある造りは必見のもの。考えてみると時代劇を見ていても机に椅子の居酒屋が出てくる。まさか江戸時代、あんな店の造りがあるわけがない。本来は畳敷きにあがり平膳で食べるか、または小上がりに腰掛けて食べていたはず。そしてその江戸時代さながらの光景がここにあるのだ。
 入り口に近い場所に座り、ふと前を見ると「房州節 羽山商店」の段ボールがある。房州節というのは、さば節である。また、そのさば節のなかでも黴つけまでする高級品なのだ。考えてみると千葉県外房はさば節の大産地である。このさば節の産地があって関東の、そば文化が発展したとも言える。すなわち東京などでの、そばの「かけ汁」は原則的にはさば節の出汁に醤油、砂糖、みりんを合わせた「かえし」を使う。当然、埼玉うどんの出汁にもお隣の千葉県から、さば節が来ているわけだ。ここに江戸のそばと埼玉のうどんがまったく無関係ではないのが読みとれる。

 品書きには、もりうどん480円、かけうどん480円でそれぞれ大があって530円。たぬきうどん、きつねうどんが530円、月見が580円、玉子とじ630円。肉つゆうどん並630円、大680円、特840円、と並び、いちばん下に天ぷら、ごぼう、いか、かき揚げが1個100円とある。
 席に着き品書きを見ながら周りを見回すと、ほとんど皆同じ物を食べている。これがまさに探していた埼玉うどん、「古久や」では「肉つゆうどん」である。当然大にしてゴボウの天ぷらをつける。すると店員さんが「うどんは温かいのと冷たいのがあります」という。「初めてなのですが、どちらをおすすめですか?」と聞くと「普通は温かいんです」と言うのでそれに決める。
 出てきたものは、どんぶり一杯のうどん、大振りの酢の物を入れるような器に豚肉、ネギなどの入った汁、ごぼう天に、ネギ、七味唐辛子、たぶんうどんのゆで汁。うどんはあまり腰のある方ではないが、滑らかでうまい。これなど腰が強いばかりでうまみにかける今時の讃岐うどんよりもいいのではないか。汁はやや甘めで豚肉の旨味が出て、濃いしょうゆ味。飲むには辛すぎるが全体にまったりしている。具だくさんの汁にうどんをつけて食べるのだが、これがなかなかうまくいかない。結局、うどんと豚肉、ネギなどの具をともにかき込むようにして食べると、これがいいのである。ただし「大」にすると後半うどんを持てあます。「飽き」てしまうのだ。また天ぷらは残念ながら味はよくない。ただしうどんからくる「飽き」を少しだけ還元してくれるだろう。
 さて帰りの16号、混み具合はいかがだろう? 初手からいい埼玉うどんの旅となった。

 ちょっと蛇足。今回の埼玉うどんとほとんど同じものを我が家では日常よく食べている。ただし、起源は埼玉にはない。始めたのは大阪に「肉すい」というのがある。これはうどんの汁に牛肉を入れて、驚くべきことに、うどんを抜いたもの。喜劇俳優の花紀京が馴染みのうどん屋に作らせたという曰くつきのものなのだ。これを豚肉に替えて、野菜をたっぷり加えて昼ご飯などで食べている。そして冷たいうどんにも、この汁を合わせているので、まるでうり二つの味わいである。どうも、うどんの食べ方で、これ以上に合理的で栄養面からいって優れた食べ方はないのではないか? そう思ってみるとたぶん埼玉以外にも同様な食べ方をしている地域がありそうで、これも楽しみだ。
●2006年3月17日記す

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うどんどころ埼玉

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 埼玉に興味を持ち始めたのは3年前にペヘレイという魚を見に大里村(現熊谷市)を訪ねて以来である。残念なことに長年東京都に住みながら、「まったくお隣の埼玉のことを知らないのだ」、とクルマで走っていても痛感した。大里村に行くにもまったく埼玉の地名、また町の位置などが頭に入っていない。
 映画や鋳物で有名な川口市、歴史的にも有名な「忍」行田市は、どのへんだっただろう。また高麗、高麗川、高梁、など朝鮮由来としか思いようのない地名がある。その上、埼玉は多摩地区と同じ武蔵野なのである。
 そして埼玉にとにもかくにも「行ってみる」というのを始めて目に付いたのが、「うどん専門店」である。どうしてうどん専門店がこんなに多いのか? 埼玉出身者に尋ねてみると「気がつかなかったが、そう言えば子供の頃からうどんは散々食べていたな。別に店に食いに行くことはなかったけど」。そしてこの食べ方がなかなか面白い。うどんは冷たくししてザルなどにとり、これを豚肉を入れたしょうゆ味の温かい汁につけて食べる。この汁には季節季節の野菜がたっぷり入っていて、これを昼や夕食に食べたという。婚礼の席を締めくくるのも、うどんであるというのは興味深い。「晴れ」の行事にも、「け(日常)」にも埼玉ではうどんなのだ。
 また、調べてみると埼玉は米の裏作に小麦を作る二毛作地帯。平野部の多い埼玉では豊富に小麦が収穫されていた。当然、うどんのみならず蒸し饅頭や、焼きまんじゅうという小麦粉食をとてもよく見かけるのだ。とくにみたらし団子のような甘い味噌あんをかけた小麦粉でつくった団子など、群馬県、埼玉県でしかお目にかかれぬものである。
 さて、淡水動物と歴史に、うどんも加えて今年も埼玉に通ってみるのだ。
●3月4日記す

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埼玉県飯能市で売られていた「飯能まんじゅう」。切り干し大根ニンジンにシイタケなどの炒め煮が入っている。このように様々な饅頭が埼玉の各地で売られている

 お馴染みの神保町も交差点から水道橋に向かうあたりは本屋がないのであまり足が向かない。唯一、そば屋の「吉風庵」というのがあり、食後、そこから白山通に出ようとして見つけたのが「ひまわり亭」である。
 ここは白山通にほぼ面していて、立地条件は最高にいい。ただし老舗の「さぶちゃんラーメン」、侮れない「梅本」、尾道ラーメンというのもあり、また激安のラーメンチェーンもある。
 そこに堂々開店。全体が黒っぽい壁に囲まれていかにも意味ありげ、しかも大きく「究極のスープをどうぞ」とあるではないか? これなどボクぐらいオヤジになると「バカみたい」に幼稚に見える。ただ、新しい店は見つけたらとりあえず入ってみる、ということで数日後怖々入店してみた。外面がいかめしい割に店内はいたって普通。なんの変哲もない。券売機にはそこそこにメニューが並んでいるが、初めてなのでスタンダードに醤油ラーメン500円。カウンターに座ると目の前に「高菜ごはん、味噌豚丼、カレーライス各150円」とある。「へ〜、がんばっているな」と思ってカレーも頼む。
「究極のスープ」なのに500円は弱気だ。また店主らしき男性も見たところ影が薄い。最近、やたらテレビに出ている格闘家まがいのラーメン店主からすると「大丈夫か?」と言いたくなる。
 出てきたのは、微かに濁りの出た豚骨とも鶏ガラともつかぬスープ、そこに豚バラ肉の軟らかそうなチャーシュー、メンマとネギという色味にかけるもの。さっそくだから「究極のスープ」をすする。これが残念ながらいたってありきたりなものだ。味のバランスはいいだろう。でも脂が浮かんでいるのだが、それがなんだかどんよりと重い。これは明らかにイノシン系の旨味が足りぬせいだ。そこに脂のまったりしたのが邪魔をして豚や鶏ガラから出ている旨味もぼやけている。麺はそこそこスープに合ったもの悪くない。そしてこの脂っぽいスープにチャーシューがまた輪をかけて脂っぽい。このチャーシュー味はいい。ただこれがが生きるのは反対にさっぱり系のスープではないか。この系統のスープを押し通すならチャーシューは肩ロースなど部位を変えて、また本来の「焼く」チャーシューにするといいだろう。
 また脇にあるのが、たぶんこれも自慢のカレーであろうが、中途半端に平凡すぎる。これは自家製のカレーなのだろうか? 味に奥深さというかスパイスの造り出す玄妙さが感じられない。ここまで在り来たりなら家庭的なカレーを提供したらもっとインパクトがある。
 さてそれでは「ひまわり亭」は総合的にどうなのか? というと、合格かな。考えてみると500円でラーメンを提供するというのは大変なことである。これが荻窪だったら瞬く間に消え去るだろうが、神保町の懐は深い。腹減り学生には650円でカレーまで食べられるが歓迎されそうだ。また若ものたちには外観と中身のギャップもまったく気にならないだろう。
 できればラーメン界の「まんてん」を目差せばいいのではないだろうか? 「ひまわり亭」は。

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