2006年8月 7日アーカイブ

oomuroyamise.jpg

 福島県浜通にある浪江町は小さいけどいい町であった。その夕暮れ時に入ったのが『大室屋』。なんといってもその無骨だが古めかしいツタの絡まる外観に惹かれた。このコンクリートなんだか木造なんだかわからない建物って、ボクの年頃には懐かしいな。
 丼と麺類だけの店で、入った途端に失敗したなと思ったのだが、2階からどかどかと下りてきた高校生達。その誰もがラーメン代金を支払っている。これ、懐かしい光景だ。高校時代に徳島本線、穴吹駅前の『穴吹食堂』と言うのがあって、お腹がすくと、ここでラーメンやカレーを食べた。こんな店はみな味がいいのだ。ボクが高校生でこの2階から下りてくるようなデジャビュを感じる。
 その『大室屋』、外観の古めかしさから思わず入ってしまったのだが、中に入った途端にその薄暗い古色をおびた店内にまた心がざわめく。1階は狭いテーブルが並ぶが2階があって、どうも宴会なども出来るのではないだろうか。その一人客としてボクの目の前のテレビは福島のローカルニュースが映し出されている。そこに場違いな刀剣が飾ってある。これは浜街道にあって会津を思わせる。まあそんな関係ではなくご主人の趣味の世界であるようだ。

 トイレに行きたくなって、とりあえず燗酒とおつまみの天ぷらを注文して、薄暗い店の奥に案内される。その奥への廊下が長い。廊下から垣間見える厨房も驚くほど古めかしく、なにかを揚げる音が響いてくる。トントントンと音がして揚げる音、これはどうも豚カツのようだ。しまったおつまみは豚カツにすればよかったんだ。でもこれは出前用のもの。テーブルにもどると精進揚げに海老天ぷら、そして燗酒が待ち受けていた。

oomuroyaten.jpg
こんな素朴な天ぷらが出てくるなんて、ここは大衆食堂なんだなと実感する

 そして肝心のラーメンだが、これがなんとも絶品だった。まず浮かんでいるのがなるとである。練り製品が使われているのは老舗の証拠。この店の開業は昭和なのか大正なのか? スープは昔ながらのしょうゆ味、鶏ガラスープに微かに魚貝の旨味。長方形の薄いチャーシューも豚の風味が生きていてうまい。そして麺だが、これが残念なことに茹ですぎ。これさえなかったら理想的なラーメンだったのに。でも食堂などで注文すると、こんなことはままあることではないか。偶然とはいえ、こんなうまいラーメンに出合えるなんて。福島県浪江町恐るべし。また行きたいと思っているのだ『大室屋』。

oomuroyarara.jpg

大室屋 浪江町権現堂字下続町7 0240-34-2052

 愛知県津島市に天王川公園という桜の名所がある。その前にあるのが吉川屋という食堂。ここはあきらかに食堂なんであってラーメン屋ではない。そんな食堂を見つけて、あまりの普通さ加減に惹かれてふらふらと入ってしまった。そこにいたのはかなり肥満気味の男性店員とかなりかなりお年を召している老婦人ふたりの客。目の前の天王川公園は桜が満開、しかも土曜日なのだ。公園の駐車場は満杯、公園の土手を行く人の多いこと。しかもクルマから見ても驚くほどに美しい桜花である。
 そんな喧噪どこ吹く風、ここには静寂さが沈殿している。この静かさに老婦人の箸の音さえ聞こえるのだ。注文を聞かれてしばし絶句。思い浮かばないので中華そばをお願いする。男性店員は不機嫌なのか、それとも無口なのか愛想がすこぶる悪い。
 そして、かなり待たされて出てきた中華そばにまたまた絶句してしまった。今までいちども見た覚えのないものなのだ。やや醤油色のスープが多すぎるのだろうか具も麺も丼深く沈んでいる。そこにポカリと浮かんでいるのが赤く紅で染めた麩。やや沈んでいるのが赤い蒲鉾、豚肉、ゆで卵。その下に麺が深く深く沈んでいてまったく見えない。「面白いなコレ」、割り箸を押っ取り刀で割り、深い沼の底に差し入れる。
 出てきたのはとてもラーメンではない、ソーメンである。そして一口すすると、ななななななんとスープだろうか、これはむしろうどんのつゆの塩分濃度の強いもの。スープを飲むほどに鶏ガラ風味旨味が感じられて、やはり中華そばなんだなと思い。ソーメンのようなラーメンをスープ共々すすり込むと、これがなかなかうまい。ここに練り物が入っていてうまいなと思うのはうどん汁に近いせいだ。豚肉もいいし、わけぎでも白ネギでもないネギも初めてであるが香りがある。ゆで卵もこの味わいにマッチしているからさあ大変だ。なんだこれは? 頭が混乱する内に中華そばを一滴のスープを残すことなく食べてしまったのだ。
 津島市で出会った不思議な中華そば、これは吉川屋だけのオリジナルだろうか? それとも津島市独特の「津島ラーメン」だろうか? 謎だ!

yosikawaya061.jpg

yosikawaya062.jpg

愛知県津島市橋詰町2 天王川公園北 吉川屋 ラーメン450円

 甲州街道を山梨にむかって高尾駅を過ぎると斜めに中央線の線路が横切る。そしてすぐまた右斜めに入る道があり奥へ奥へと行くと美しい火の見櫓がある。そのまま奥へ奥へと行くと峰尾豆腐店、そこからまたまた奥へ行くと『ふじだな』という店に行き当たった。正面には大きな桂の木の林、そして高尾山がある。
 この店の前に「本日のコーヒー200円」という文字があって喫茶店かなと思って入ったのだが、どうもコーヒー豆の店らしい。この店のコーヒーがうまい。あまりコーヒーを飲まないのだが、それでもうまいものはうまいのだ。
 またこんなところに美人はいないだろうと思っていたら、先客はきれいな方ばかり。その美人さん達に聞くところによると、ここは高尾山への登山口に当たるのだという。今や国土交通省と道路公団のために破壊の危険にさらされている、高尾山。ここに来てうまいコーヒーでも飲んで「圏央道より高尾山の自然が大切だ」と知るべし。
 閑話休題。
 さて、ここで「ふじだなブレンド」というコーヒーを買い求めてきた。コーヒー好きの知人によると、この味わいで480円は安いという。またクッキーや地元の野菜を売っているのもいい。

fujidana067.jpg

fujidana0672.jpg

八王子市裏高尾町1254番地
TEL0426-61-0798

 この店には学生の時にはあまり縁がなく初めてはいったのは大学卒業を前にした頃である。それでも25年以上前になる。お茶の水・神保町で昼ご飯を食べるというと店は決まっていて、その基準はただただ値段であった。
 お茶の水駅から駿河台を下ってきて明大を通り過ぎて斜め右手の通りにはいる。そして住友銀行をすぎて靖国通りを渡ると神保町の古本屋街となる。この横断歩道を渡ったところに画材屋がありとても目を引く人物像が飾ってあった。そのバストアップの絵が今では思い出せない。そこからすずらん通りに抜けるのだが、三省堂は当時は確か3階建ての古めかしい建物で中にはいると迷路のようであった。

 そのすずらん通りに「ス井ート ポーヅ」が開店したのはいつの頃なのだろう。神保町界隈で生まれた友に聞くと「戦前、中国から引き上げてきて、たぶん戦後すぐからここにあったんじゃないかな」と言う。昭和30年代くらいまでは白山通りを隔てた、さくら通りには東洋キネマがあり(この建物はバブル期までは確かに残っていたのだ)、今で言うところの新宿のような賑わいが神保町界隈にあったようだ。そこに満州から引き上げてきて餃子(ポーヅ)の店を開店した。これも調べてみると面白そうだ。

 1970年代後半、すずらん通りに出ると、そこはまさに古色をおびた古本屋、楽器店、画材屋、紙屋などが並んでいた。そこを白山通りに向かい左手にひっそりとあるのが「ス井ート ポーヅ」なのだ。記憶からしても店はまったく当時と変わらない。でも昔はサッシではなく、木のガラス扉だったろうか。
 ここでは苦い経験がある。友人に「ここは神保町でも有名な店だから卒業前に入ろうよ」と誘われた。そして優柔不断に注文して出てきたのが今で言う「餃子定食」。それはなかなかうまいものではあったが、値段が貧乏極まりない卒業前の身には応えたのだ。
 それが仕事で神保町に通うようになると、年に4,5回は食べに行くようになる。ここには餃子小皿8個483円(税込みだから細かい)、中皿12個724円、大皿16個966円というのがあり大方の客はこれを定食にするかビールを飲む。ほかに水餃子10個840円、店の由来になった天津包子5個787円もある。残念ながらここで注文するのはいつも中皿定食ばかり。これで1007円だから今でも決して安くない。
 さて、この店の餃子の形は変わっている。見たところ春巻きの巻きの不完全なもの、その底が平たく焦げ目がついている。といった風情。でもこの皮の味わいは明らかに小麦粉の甘味を感じるもので、うまいのか、うまくないのか、いつも答えが出ない。そして具は白菜なのだろうか豚の挽肉に混ぜ込んであり、ほんの少しだけニラが入っている。これを醤油と酢、そして練り辛子をつけて食べる。ボクとしてはなんだかもの足りない味わいなのだが、店はいつも満席に近く、我が神保町仲間にも通う人多しなのだ。
 ここに赤みそ仕立てのワカメにみそ汁、ご飯、キャベツの細かく切った漬け物がつく。このみそ汁も漬物もぜんぜんうまいものではなく、次回からは定食ではなく餃子ライスでいいのではと思いながら、また忘れて定食を注文しそうだ。

sui-to068.jpg

ス井ート ポーヅ 千代田区神田神保町1の13

このアーカイブについて

このページには、2006年8月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2006年8月 6日です。

次のアーカイブは2006年8月 8日です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。