2006年8月18日アーカイブ

 この永谷園の「お吸いもの」だが発売当初は「松茸の味お吸いもの」であったことを今回初めて知る。昭和39年というからボクが8歳のとき、この頃、それまで加工食品で全国的なものは少なく、またテレビという媒体もこの頃から主役化している。そんなときに発売と同時に我が四国の片田舎にも入ってきている。確か、旧徳島県美馬郡貞光町で初めてのスーパー「マルサン」が出来たのもこの頃のこと。なぜだか青空に煙火が上がり、その落ちてくるパラシュートを子供ながらに街中走り回って拾おうとしたのを覚えている。あのパラシュート誰が拾ったんでしょうね?

「ありゃな、松茸と書いてあるけんど、ウソじゃ」
 何がウソかというと、ボクの同級生でいつも辛辣なことを言うヤツが
「中には松茸がはいっとらんのでよ」
 こんなことを宣うのだ。このとき少々驚きを感じたはずだ。確かにテレビなどで松茸は高いものだと知っていた。でも秋になると松茸はどこからともなく来て、父などが食べていたけれど、それをうまいなんて思ったこともない。むしろその頃、父の実家からシイタケが生で来て、その方が豚のまめ(腎臓)などとともに焼いてうまいものだと子供心に思っていたのだ。

 その永谷園の「お吸いもの」だがもっと驚いたのは高校生になって修学旅行で東京の旅館だか、旅行の移動中のお昼ご飯かに一袋置かれていたことである。これをお椀に入れて、お湯を注いでくれる。そのとき初めてじっくり味わったはずだ。
 それが全然うまくもなんともない。だいたい徳島でのお吸いものというとゆで卵がごろんと一個入っている。それだからこそうまいのであって、この庄内麩だろうかそんながらんとしたものはつまらなかった。

「面白いよね。これはね、今でもコンスタントに売れているんだよね。これが切れると文句がでる」
 八王子のこんな加工食品を売る、商社ではそんなことを言うのだ。

 余談だが子供心に松茸は嫌いであった。これが好きになったのは大人になってから。思い出したのは今はなき兄と山間部に雑貨品を配達に行ったとき。貞光の町中から端山に向かい山に入り、目もくらむような山の細道。軽四輪で行っても行ってもその家が見つからない。やっと畑の脇に表札があって、そこから荷物を背負って届けるのだが、そこからも20分くらい、しかも2往復もしたのだ。帰りにお土産をもらってそれが肥料袋いっぱいの松茸。
 これほどの松茸、為すすべもなくほとんどを腐らせて捨ててしまったのだ。もったいないのは今の感覚であり、若い身空ではそんなものどうでも良かったのだ。

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永谷園
http://www.nagatanien.co.jp/

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 大磯にある「真壁豆腐店」は関東にあってもっとも好きな豆腐店である。もともと大磯は相模湾を臨む一漁村であった。これを国民健康のために海水浴を取り入れようとした松本良順が、日本初の海水浴場を開いたのが明治18年。以後、伊藤博文など政府高官の別荘地として発展してきた。明治39年創業という「真壁豆腐店」もそんな別荘族のために出来た大磯の老舗群のひとつだろう。
 今でも近所には敷居の高そうな蒲鉾屋や和菓子屋などがあるがここはいたって庶民的な店。この店に吉田健一の父であり、元首相の吉田茂が豆腐を求めていたのは有名な話だが、店内に入ってもそんなこと気振にも感じない。ちなみに吉田茂が買っていたのは、この店のもっとも値段の安い木綿豆腐。これだけでこの気骨がありしかも今時の政治家に微塵も存在しないリベラルな考え方を多大にもった政治家であったというのがわかる。ついでにボクもいたってリベラルで人道的、しかも平和主義者なので買って帰ってくるのは普通の木綿豆腐。これはお金がないからでは、ぜんぜんなくないが、ほとんどない。

 伊豆や小田原まで行くと、帰りは料金の高すぎる小田原厚木道路で厚木に出るのが早い。それを遠回りして1号線を信号機につかまりながら、しかも時々渋滞に悩まされて、大磯にたどり着く。
 いつも買うのは木綿豆腐1丁140円と辛子豆腐180円、油揚げ120円(2枚入り)である。「笹のつゆ」という高い豆腐もあるのだが、これがうまいにはうまいが、その旨さが酒を引き立たせない。そう言えば、ボクが普通の木綿豆腐を好きなのも日本酒好きだからかも知れない。日本酒に珍味佳肴をなんて言う人がいるが、これがまったくわからない。おかしいと思っている。また辛子豆腐は家人の好物でボクが自分にもと3つも買ってひとつだけ下さいな、といってもなかなか分けてくれない。しかし軟らかい、きめの細かい、微かな苦みと甘味のある豆腐にすかっと辛いあんこを入れるなんて誰が考え出したものだろう。ボクならノーベル豆腐賞をあげる。
 この主役である普通の豆腐のうまさは、まさに水が大豆と仲良く混ざり合ったうまさだ。微かな苦汁や大豆から出てくる苦み、そして大豆の香り、甘味があって、それが全部ほどほどなのが良い。そう言えば今時の高い豆腐ばかり作っているヤカラはどうもこのような普通の豆腐の真味がわかっていない。そこに岐阜県の「三千盛」でもクイっといくと、もう極楽浄土(ボクは死んでしまう)なのだ。

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 初めて真壁の豆腐を知ってから、もうかれこれ20年以上が立つが、未だに伊豆・小田原などに行くと手が勝手に大磯を目差す。立ち寄れないと、なんだかもの足りない。関係ないけど釣り師としては真壁豆腐店に立ち寄るために無理矢理「アジ釣り」に出かけたことがある。面白いのは大磯での釣り船の名が「とうふや丸」。なんでだろうな?

真壁豆腐店
http://www.makabenotofu.jp/index.html

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 夕食を食べたいと思ってうまそうな店を探している。ここは亀戸駅前からほど近く。無駄歩きで亀戸天神まで行ってみるか? と駅を出ると驟雨沛然。これでは傘を差してもすぐにずぶ濡れである。今日は駅前だけ散策するかと、遅い昼ご飯を食べるべく駅から続く路地に入り込んだのだ。そんな矢先、白地に赤い字で「ぎょうざ」の文字を発見したのだ。あまりの空腹感にいきなり店に入ろうとしたら引き戸のところに数人がとりついているではないか。そのボクを中にいた白衣のオバサンが目ざとく見つけて「ひとりね。それじゃなんとかなるわ」と入り口近くの席を指さした。年の頃60あまり、この年頃のオカンには弱いので、ずるずると言われるままに席に着く。そしていきなり大量の辛子が塗りたくった小皿が飛んできて、「飲み物は?」と聞かれた。考えてみるとこの間10秒と経過していない。
 とても品書きなど見る余裕はない。でも間髪入れずに聞かれたので「とりあえずビール」をお願いすると、なんと久しぶりに見る大瓶である。やっと落ち着いて周りを見る。すると驚いたことにはご飯もライスもなく、カウンターの上は餃子、そしてときどきビールくらい。皆が一様に餃子を食っているというのは意外に不思議な光景なんだと思った。
 店内に入って楕円形のカウンター、それがほとんど満席で、外を見ると席が空くのを待って行列が出来ている。それが皆、数人のグループであり、そんなときに一人客のボクがするすると店内に横滑りしてしまったようだ。
 待つほどのこともなく餃子が5つ乗せられた皿がくる。その餃子がどれもあらぬ方向に投げ出された馬券のように見える(競馬はやらないが)。その餃子の底に部分がしっかり焦げている。思わず何もつけないで食いつくと、その焦げているところがさくっととても香ばし〜い。そしてしっかりした焦げ板の上にはたぶん野菜と豚の脂が作り出す甘味を持った具、そして上部の蒸し上げられた皮が軟らかい。餃子はいくらでも食えるがビールの大瓶を持てあます。ボクは不思議なことに日本酒ならかなり飲める口だが、ビールはコップ3杯でもう辛いのである。これがために最初の5つで、かなり満腹になってしまっている。それでも餃子はうまい。

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 ちなみにここの餃子はニンニクを使ったいたって在り来たりなものだが、いたってできのいいものだと思える。それを出色のものに代えているのは入り口正面にいる餃子焼きマシンのお兄さんであるようだ。このお兄さんが餃子鍋3つと凄まじい格闘をしている。そして焼き上がった餃子にハイエナのように店のお姉さんがた3人が群がり取り合う。これは明らかに弱肉強食の争いであり、ボクの前の、ボクのために餃子を取るかかりのお姉さんが、この3人の中ではいちばん遅い。それでなかなかもう一枚が来ないのだ。

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 もう一皿がやっと来て、焼き上がった餃子のお運びが終わった隙を見て、店のシステムを聞いてみる。すると
「店にはいるとね餃子は2皿以上から、後は飲み物ね。餃子は1皿250円だから2皿で500円(当たり前だ)」
 ご飯のことを聞こうとしたら、また忙しい波がきてしまった。店の隅から隅まで見て、食べ物は餃子しかないこと、と言うわけで席に着くと、とにもかくにも餃子が2皿間をあけてくる。追加は自由。後は飲み物でビール、五加皮、紹興酒など。驚いたことにこの店ではただただ餃子を食うというわけだ。
 この店にはまた、ときどき立ち寄りたいものである。暇を見つけては江戸時代から昭和までを感じることが出来る場所を散策しているので亀戸天神巡りをしたら、ここで餃子を4皿くらいに紹興酒というのがいいかも。

亀戸餃子 東京都江東区亀戸5-3-3

 いまではあきる野市となってしまった五日市の醤油「キッコーゴ」。これが我が家の日常使うものである。キッコーゴというのは「亀甲五」のこと、野田のキッコーマンとの繋がりがあるのだろうか? この醸造元の由来もわからずあまりにコストパフォーマンスが高いので使っている。
 この醤油と出合ったのは15年ほど前。五日市から秋山村までの旅をしていて偶然渋滞に巻き揉まれたのが「近藤醸造」の前という奇縁からである。醤油を見つけたら絶対総て買ってしまうということで、思い切って1升瓶で持ち帰った。
 これが素晴らしいものだった。醸造過程で生み出された適度な甘み旨味が最初に来て、ほどよい塩分で辛すぎない、その上、味わいに切れがあるのだからすごい。また生でも熱を通しても味も風味もだれないというのがいい。よく高級な醤油で醸造香が高く、なめても旨味の強いものがあるが、じっくり味わってみると後口が悪かったり、また熱を通すとダメダメというのが見受けられる。そんなものからすると遙か上を行くのがキッコーゴなのだ。
 我が家では刺身にも、煮物にもこれななくして成り立たない状況にある。

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●多摩地区では取り扱っている店も少なくはない。また八王子総合卸売協同組合、十一屋ジャパンには、ぼうずコンニャクが頼み込んで置いてもらっている
近藤醸造 東京都あきる野市山田733
http://www.bekkoame.ne.jp/i/kondou/

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