東武線鐘淵から南に下って、路地から路地へ、そこは家内工業、はたまた中小企業というよりは小企業の街。歩いて歩いて歩き疲れて東向島駅へ向かう。東向島駅は1987年までは玉ノ井、すなわち「鳩の街」と呼ばれていた。永井荷風の「墨東奇譚」、滝田ゆう「寺島町奇譚」の街である。
その東向島へ向かう「いろは通商店街」、ここは昔の大正道路。関東大震災のときに浅草にあった飲食店などが移ってきたところ。そしてこの道がかの玉ノ井商店街であると思われる。すなわちこの南側にあったのが鳩の街ではないか? 夕闇迫り、下町を歩くにいちばんいい時間帯なのである。
この「いろは通商店街」で見つけたのが「興華楼」。何の変哲もない中華の店なのだが、店のサンプルの中にオムライスを発見する。ここは明らかに中華を中心とする「食堂」であろう。
入り口にアーチ型に丸く暖簾がかかっている。この手の暖簾がつとに目にしなくなってきている。入ると思ったよりも広い店内。店内では地元の方たちが明らかに夕食をとり、くつろいでいる。壁にものすごい量の品書き。中華の酢豚からレバニラ炒め、チャーハンに餃子、各種麺類。また居酒屋風にモツ煮込み、そして洋食系のカツライス、カレーライス、チキンライスにオムライス、ハンバーグもある。軽い空きっ腹であるのでここでラーメンにする。
これが絵に描いたような東京ラーメンなのである。鶏ガラスープは醤油味、麺は鹹水を感じるやや細い縮れ麺、そこにチャーシュー、メンマになると。まったく戦前もかくやと思えるラーメンなのである。今時の旨味の強いラーメンではなく中華料理店の一品としてのもの。ややもの足りないがまずくはない。
ここはあくまで食堂であって「ラーメン店ではない」というのを感じただけで店を後にする。
興華楼 東京都墨田区東向島5丁目28-2
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長野県大町市 河昌『おざんざ』