神田神保町『魚玉』の定食700円

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 貧乏学生であったので、その昔、この店とは無縁であった。初めて入ったのは仕事を始めてから。当時は夜も昼も朝もなく、という状態だったので、少しでもまともな飯が食いたいと『魚玉』『亀半』『末広』『近江屋』なんかで定食を食っていたのだ。ほかには『キッチン山田(ヤマダ? 忘れてしまった)』というのもあったが、とにかく今に残るのは『近江屋』とこの『魚玉』だけとなっている。ともにめったに足を運ばない。なぜなら生活がやや普通になってしまったからだ。とすると昼飯にこのような「焼き魚」を中心とする店に入る気がしないのである。あえて言うと中途半端な夜に利用するだけ。

 さて、『魚玉』の引き戸をあけるとカウンターが奥に続く。いちばん奥には1個だけテーブルがある。その左手が厨房なのだが、そこで目立つのが発泡の白い箱。席に着くと、オヤジさんが来て「サンマにサバ、ニシンの塩焼き、サワラの粕漬け、ブリの照り焼き。お刺身もあります」なんて唄う。それに圧倒されてゆっくり選べないのが、この店の嫌なところ。でもこれも珍しいし、懐かしい、好ましいと思う人も多いだろう。

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 この店のいちばんのお勧めは鉄火丼であった。でも久しぶりに来店して、なぜだかニシンが食べたくなったのだ。そのニシンは白い発泡にすでに焼いて入っている。それを出すだけだから、来るまでに数十秒、ときに1,2,の3で来たりする。この早さがうれしいのだ。
 でも言っておきたいのは、けっしてこの素早くくる焼き魚がうまいもんじゃない、ということ。ここはあくまで「投げるタイミングのいい好投手」のようではあっても、「打ち安くはない」という代物で、「店としては至って優秀」だが「満足度は低い」のである。この日のニシンもやや焼いてから時間が経ち、ぱさついている。そこにうまい白飯があってはじめて許される程度のもの。こんなところがこの店のあらましなのだ。

 このような店がある意味、神保町らしいものの代表だと思う。例えば築地の食い物屋の多くが期待はずれなのが、それはあくまで質実であるのを尊ぶからであるのと同じ。この店を利用する常連というと、授業を前にした助教授あたり、はたまた胃袋にたまにはまともな食事を入れたい本屋の店員、編集者などだろう。当然、時間に余裕があるはずもない。そこに「ニシンね」、「あと冷や奴に、お浸しも」ときて「そら!」とくる手早さが捨てがたい魅力となる。その最後の店が『魚玉』である。

魚玉 千代田区神田神保町1の32


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このページは、管理人が2007年4月 8日 09:20に書いたブログ記事です。

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