夕食を食べたいと思ってうまそうな店を探している。ここは亀戸駅前からほど近く。無駄歩きで亀戸天神まで行ってみるか? と駅を出ると驟雨沛然。これでは傘を差してもすぐにずぶ濡れである。今日は駅前だけ散策するかと、遅い昼ご飯を食べるべく駅から続く路地に入り込んだのだ。そんな矢先、白地に赤い字で「ぎょうざ」の文字を発見したのだ。あまりの空腹感にいきなり店に入ろうとしたら引き戸のところに数人がとりついているではないか。そのボクを中にいた白衣のオバサンが目ざとく見つけて「ひとりね。それじゃなんとかなるわ」と入り口近くの席を指さした。年の頃60あまり、この年頃のオカンには弱いので、ずるずると言われるままに席に着く。そしていきなり大量の辛子が塗りたくった小皿が飛んできて、「飲み物は?」と聞かれた。考えてみるとこの間10秒と経過していない。
とても品書きなど見る余裕はない。でも間髪入れずに聞かれたので「とりあえずビール」をお願いすると、なんと久しぶりに見る大瓶である。やっと落ち着いて周りを見る。すると驚いたことにはご飯もライスもなく、カウンターの上は餃子、そしてときどきビールくらい。皆が一様に餃子を食っているというのは意外に不思議な光景なんだと思った。
店内に入って楕円形のカウンター、それがほとんど満席で、外を見ると席が空くのを待って行列が出来ている。それが皆、数人のグループであり、そんなときに一人客のボクがするすると店内に横滑りしてしまったようだ。
待つほどのこともなく餃子が5つ乗せられた皿がくる。その餃子がどれもあらぬ方向に投げ出された馬券のように見える(競馬はやらないが)。その餃子の底に部分がしっかり焦げている。思わず何もつけないで食いつくと、その焦げているところがさくっととても香ばし〜い。そしてしっかりした焦げ板の上にはたぶん野菜と豚の脂が作り出す甘味を持った具、そして上部の蒸し上げられた皮が軟らかい。餃子はいくらでも食えるがビールの大瓶を持てあます。ボクは不思議なことに日本酒ならかなり飲める口だが、ビールはコップ3杯でもう辛いのである。これがために最初の5つで、かなり満腹になってしまっている。それでも餃子はうまい。
ちなみにここの餃子はニンニクを使ったいたって在り来たりなものだが、いたってできのいいものだと思える。それを出色のものに代えているのは入り口正面にいる餃子焼きマシンのお兄さんであるようだ。このお兄さんが餃子鍋3つと凄まじい格闘をしている。そして焼き上がった餃子にハイエナのように店のお姉さんがた3人が群がり取り合う。これは明らかに弱肉強食の争いであり、ボクの前の、ボクのために餃子を取るかかりのお姉さんが、この3人の中ではいちばん遅い。それでなかなかもう一枚が来ないのだ。
もう一皿がやっと来て、焼き上がった餃子のお運びが終わった隙を見て、店のシステムを聞いてみる。すると
「店にはいるとね餃子は2皿以上から、後は飲み物ね。餃子は1皿250円だから2皿で500円(当たり前だ)」
ご飯のことを聞こうとしたら、また忙しい波がきてしまった。店の隅から隅まで見て、食べ物は餃子しかないこと、と言うわけで席に着くと、とにもかくにも餃子が2皿間をあけてくる。追加は自由。後は飲み物でビール、五加皮、紹興酒など。驚いたことにこの店ではただただ餃子を食うというわけだ。
この店にはまた、ときどき立ち寄りたいものである。暇を見つけては江戸時代から昭和までを感じることが出来る場所を散策しているので亀戸天神巡りをしたら、ここで餃子を4皿くらいに紹興酒というのがいいかも。
亀戸餃子 東京都江東区亀戸5-3-3