飯能祭のときに見つけた小さなてんぷら屋さんである。飯能大通りは昔、定期的に近隣から産物が持ち寄られて市の立ったところ。古き良き家並みが残っているのだが、飯能夏祭りの日で、それはたくさんの騒がしい露店の奥に隠れている。そんな一角にまだ真新しい、とてもこぎれいな店があり、そのガラス窓の向こうに、ご夫婦で天ぷらを揚げているのを見つけた。そのにこやかに、てんぷらを揚げている女性の優しそうな雰囲気がとてもいい。
店内をのぞいてもテーブルも座席もないので持ち帰り専門であるようだ。
ついふらふらっと店内におじゃま虫。姫と一緒にあろうことか、ここでてんぷらを食べさせてもらう。これがいい味なんである。てんぷらの衣自体にも味つけがされているらしく、まずいただいたイカてんが、それだけ食べてもうまい。衣のさくっとしたのとイカの適度な柔らかさ、「ここに生ビールがあったら最高なのに!」と改めて買ってきてしまいそうになる。このイカてんをあっという間に平らげてもうひとつ。
「なにかお勧めなのありますか?」
ワクワクしながら聞くと、お二人はにこやかにあれやこれや考えて、
「かき揚げかな。これはねイカ、サクラエビに玉ねぎといろんな野菜が入っているんだ。まあこれだけ入ってるのは珍しいと思うよ」
さっそく、かき揚げをむしゃむしゃ。姫はチョコバナナに夢中で「くれ」とは言わない。多種類の具のせいだろうか? 味わいにふくらみがある。その全体をまとめているのが玉ねぎであるようだ。
さて、真夏ではなく、また祭の日ではなく、クルマで来ているときのお土産は「小川」でかき揚げと決めてお店を後にした。
ボクは町の良さは、風景の一部となりきっている個人経営の小売店が並んでいることだと思っている。この「てんぷら 小川」などご夫婦共々、飯能の街並みになくてはならないものであると、よそ者のボクでも思う。こんなことを同じように思っている小学生や中学生は多いのではないだろうか。ボクの幼い日にそんな思いで通り過ぎていた店は、今でも瞼の裏に焼き付いている。
それとこれは「飯能の豆腐は真四角なのだ」の続きなのだが、この大通りの一角に「問屋」という昔は食料品の市場を運営していた豆腐屋さんがある。そこが小川さんなのであるが、この「てんぷら 小川」さんが「問屋」からの分家、また真四角な豆腐を作っている「とんき食品」も分家なのだ。この「問屋」さんが市場を運営していたときというのはどのようなものだったのだろう。例えば個人経営の市場は各地にあり、例えば八王子綜合卸売センター、八王子総合卸売協同組合なども「公設」ではない。「公設」ほどの規模はなく、小さな地域の流通の要としての市場ってどんなものなんだろう?