2006年10月 9日アーカイブ

埼玉県「入間の旅」

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 ぽつんと時間があいたときに、ほんの数時間の旅に出る。出来れば6時間以内、間違っても半日にならない旅。それで今日はなにもないと決まったら地図を見ることから始めるのだ。近年、通っているのが埼玉西部。我が家から1時間ほどでたどり着けて、あまり大きすぎない街。そんな条件で探し当てたのが埼玉県入間市。でも入間市の中心は入間駅周辺でいいんだろうか? この市は思った以上に広い。まあ市役所もあるし、市街地を示す色合いの地域も西武入間駅周辺にしか見あたらない。とにかく入間市役所を目差す。
 国道16号、11時を過ぎて右に見ているのはアメリカ空軍基地。昭島市を抜けるのに1時間以上かかったことになる。16号の反対側は雑貨店や格好いい飲食店が並んでいて違法駐車の多い地域だがさすがに道路交通法の改正のせいかクルマはまばら。

 入間市役所には正午過ぎに到着した。駐車場にクルマを入れて、4階の観光課で地図やパンフレットをもらう。使いづらいが飲食店の地図、観光ガイドなどが揃っている。ここで見つけた『71市町村のうまいもの ごちそう埼玉』は思わぬ拾いもの。お役所とJRが作った割に良くできている。
 ここで観光課の女性に「市役所の駐車場に2時間ほど止めさせていただけませんか?」という我が儘なお願いをする。「あの、駐車場は市役所を利用する方のために出来れば開けておきたいのですが」と奥に消えて上司らしき方と協議。止めてもいいとありがたいお言葉。お礼というわけではないが、入間市役所でもらってきた観光案内も、また教えてもらった情報も地方公共団体としては「上」の部類に入る。
 観光課のやさしくて可愛いお姉さんに教えてもらった古い商店街「町屋街道」に青い稲妻号を走らせる。ここもシャッター通りかと思ったらどうも水曜日が定休日であるようだ。ここでうまそうな洋食屋とコロッケの幟を立てた肉屋を発見。また古い街並みを撮影する。そして入間駅に向かう交差点に、驚いたことにお香の専門店を発見する。でも敷居は高そうだ。

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さかぐち屋は町屋通りと駅前の無味乾燥地帯との境の交差点に建つ。おもわず入ってみたいと思ったがボクのようなオヤジが入るには敷居が高い。香の店 さかぐち屋へhttp://sakaguchiya.jp/

 無味乾燥な駅周辺を抜けて長い下り道。国道16号を超えようとしたら横断歩道がない。その上、歩道橋には自転車用の平らな測板もないので階段を自転車を抱えて越える。そのまま小さな流れにかかる橋を過ぎて、正面に見えてきたのが「キッコーブ」繁田醤油である。この醸造所、門の横に大釜が置かれていて数年前大里村へ向かう途中で見つけていた。その広い敷地に入るが中は無人。やっと事務所を見つけて醤油と「なめもの(金山寺味噌)」を買う。この事務所の方に「近くにお昼ご飯を食べられるところはありませんか?」と聞くとわざわざ、近くのうどん屋さんまで案内してくれた。繁田醤油の方には感謝。

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入り口は長屋門、その脇に大釜、「キッコーブ」の文字は右から書かれている。このホーローカンバンいいな

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暗い倉庫の中で見た「キッコーブ」の一升瓶。なかなかデザインがいいのだ。今時のへたくそなラベルには絶対変えないで欲しい

 この住宅街にひっそりとある「つきじ」のうどんはうまかった。

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この店、有名なんだろうか? こんな住宅街にうまいうどん屋があるなんて

 ここからまた16号を超えて坂を上って入間駅まで行く。西武線なので駅にはペペがあり、見た目は非常に硬質。そこからマルヒロ百貨店、アイポットというマックが聞いたら怒りそうなビルまである。この街の特徴は露面店のないこと。あったとしても今時どこにでもあるチェーン店ばかり。非常にセンスのない街造りでこんなところで生活していたら子供の心も殺伐とするだろう。当然大人も癒されない。このようないかにも無味乾燥な街作りをする傾向は明らかにビルなどの設計士の能力欠如もあるだろうが、地方公共団体がなんら方向性をもっていないからだろう。駅前に古い家屋がぽつんと孤立。

入間駅前で見るべき物はこの寂しい仕舞た屋だけだった

 この硬質な場所にも和菓子屋があり、なんと飯能で見たのと同じ「焼きまんじゅう」があった。
 水曜日のためかマルヒロ百貨店は休み、「エイムス」というスーパーに入って埼玉らしい食品を探すが皆無である。醤油も遠路はるばる流通してきたもの。納豆も大手のものですくいようがない。つまらない。いかにスーパーがものを動かすだけの流通業だとされていても少しは血の通った仕入れをして欲しい。

 また町屋通りを扇町へもどる。やはりお香の専門店は敷居が高い。家人が好きであるのはわかっているが通り過ぎる。この街の中ほどで見つけた洋食屋に入ってみる。さっきうどんを食べたばかりだが、さすがに炭水化物が主体で消化が早い。我がでかすぎる胃は隙間だらけだ。『手づくりハンバーグの店 タジマ』という店で、席に着くと可愛らしい女性がメニューを運んできてくれる。ボクはテーブルにメニューを置きっぱなしにするか、必要なときだけ持ってきてくれるか、このどちらも好きなのだけれど洋食屋さんの場合は後者の方が好きだ。ここでいちばんスタンダードなハンバーグ600円を注文。これにはご飯とみそ汁、もしくはスープが付いている。このハンバーグとても美味だ。『タジマ』の隣が肉屋の『まるしょう』。ここにコロッケの幟がはためいていて、すなおにコロッケ65円を5つ買うとハムカツをひとつオマケしてくれる。『まるしょう』さん、ありがとう。ちなみにこのコロッケもうまかった。

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『タジマ』のハンバーグは安くてうまい。しかもこのカンバンのイラスト、コックさんかな、顔がどことなく藤村有弘に似ている。またこの顔がなかったら『タジマ』の魅力は外見的には半減する

 無駄歩きは2時半過ぎまで、考えてみれば2時間近く自転車をこいでいたことになる。しかも入間は坂が多いのだ。町屋通りから裏通りに入って、坂道を市役所に向かうがペダルが重い。
 この裏通りにお茶の製造所・問屋が何軒か軒を並べている。後でわかったことだが、狭山茶の中心地は入間であり、本来の「狭山」というのは現在の入間市にあたる地域。隣の狭山市があるのが本来の「入間」の地だと言うから非常にややこしい。また狭山茶の本場はほとんどの人が狭山市が本場だと思うはずで、歴史的なことだとしても当時の「狭山市」を市政した人のなんといかがわしいことよ。まあ、狭山茶の本場は入間市なんだとわかったのも収穫だ。
 3時近くまで入間にいて、帰路16号は空いていて帰宅は4時過ぎ。思ったよりも収穫多い入間の旅であった。
●これは「お魚三昧日記」から移動したものです

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 いや、なんとも驚いたのは店の位地と造り、そしてこの店主親子である。真横にあるスーパー「高田屋」で「おいしい豆腐屋ありませんか?」と聞き、教えてもらって店の前に来たら、ちょうど出てきたのがしかめっ面のオヤジさんである。
「あの、豆腐を買いにきたんですが」
 外観のいかにも仕舞た屋風なのに気後れしておずおずお願いしたのだ。
「うちの豆腐はうまくないよ。やめた方がいい」
 いきなりこんなことを言われたのは初めてである。では強面なのかというと別に真顔に見える。
「どこまで持って帰るの。東京、うまくないからやめといた方がいいな」
 そこに娘さんまで登場して
「そうそう」

 オヤジさんが脇の部屋にいなくなったかと思っていたら、
「うちじゃね、これがちょっとはいいかな」
 皿に厚揚げをのせて持ってきてくれる。
 この一枚を食べて驚いた。表面の香ばしさはもとより地の豆腐がいいのだ。

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「あの厚揚げと豆腐を下さい」
 お願いすると、娘さん。
「厚揚げはだめだよ」
 なにがダメなんだろう。
「厚揚げはね。持って帰っている間に水が出るの。だからうまくない」
 それではと豆腐だけ1丁買って帰る。この豆腐が渡された途端に持ち重りがする。
「ありがとうございました」
 と支払ったものの幾らだったのだか忘れてしまった。でも非常に安かったのだ。
 帰り着いて酒の肴はこのドデカイ木綿豆腐である。確かに今時の甘味のある豆腐よりも、豆腐屋さんが昔から造ってきている淡麗な味わいの豆腐だが、水がいいのだろうかこの大きな豆腐を平らげても飽きが来ない。残念なことに当日は富士も隠れていたことだし、また河口湖町へ、そしてまたまたあのオヤジさんに会いに行こうかな? 


中村豆腐店 山梨県南都留郡富士河口湖町船津3850-4

 惣菜塩干物を売る仲卸をのぞくのが大好きなのだ。気が知れた店ならどんどん箱を開けて掘り出し物を探していく、そこで「変なもの」を発見したときのうれしさは例えようがない。「変」と言っても「一興に値する」とか「興味深い」、「思わず買ってしまう」と表現を置き換えてもらうともっとわかりやすいかな。そんな日々に八王子綜合卸売センター「フレッシュフード福泉」で見つけたのが不思議なパッケージに入っていた「牛すじ煮込み」なのだ。
 このパッケージが面白い。煮豆や佃煮が入っている袋なのだがぽっこりメタボリック症候群のオヤジのように前が膨らんでいる。そこに見えるのは醤油味の煮込みである。コンニャク、里芋、大根に牛すじ。

「福泉」の店頭で見ているとボクと同世代から上の商店主がどんどん仕入れていく。
 そのひとりをつかまえて聞いてみると
「なんだか文字にひかれるのよ。『牛すじ』てのがいい」
 絶対に売れるよ、と言い残して一箱持って帰る。
 確かにボク以上の年齢のお父さんにはたまらん響きなのだ「牛すじ煮込み」というのが。そしてこのまま鍋で簡単に温められるというのも魅力的だ。だいたい最近、お父さんが遅く帰ってきても誰も相手にしてくれない。酒の肴だって自分で用意するのが「当たり前よ」と言われているのだ。そんなときにコイツは偉い。「一正」も偉い。

 いかん、味わいを書くのを忘れていた。汁はやや甘口で濃厚な醤油味。真冬などしみじみ心も体も温めてくれそうだ。そして何より牛すじがコリコリとうまい。
 寂しいお父さんには絶対に必須アイテムである。

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一正蒲鉾 新潟県新潟市津島屋7丁目77番地
http://www.ichimasa.co.jp/

 旅先でもついつい買って帰ってくるのが、納豆。納豆というのは高いものでも200円くらいだから、納豆フェチがお土産に買って帰っても、安心、お安い趣味なのだ。
 そして長野への旅で見つけたのが「川中島納豆」なのである。いかにも武田信玄、上杉謙信の両雄が真正面からぶつかり合った川中島の合戦にあやかったがごとくであるが合戦場に近い上に、その名に恥じぬ味わいであるのが偉い。またパッケージに川中島の合戦をイメージしたイラストがあり、これも「お土産物」として使える要素となる。

 話はそれるが1553年から始まる数度の川中島の合戦、早い時期に雌雄が決していたら歴史は変わっていただろうか? 桶狭間は1560年であり、織田信長はこの時期、清洲に城を移したばかり。でもボクの歴史認識からしたら武田、上杉では天下はとれそうに思えない。どう考えてもこの両雄は古い(日本では中世)室町大名の延長線上にあったとしか思えない。絶対に不可能であったとは思うが仮に全国支配が果たせたとしても、足利幕府同様脆弱で不安定な政権となっただろう。

 さて閑話休題。
 今回の川中島納豆は食べていて頬がゆるむほどの逸品。大粒大豆の風味、納豆菌のノビノビした健やかさ、そこから生まれてくる旨味、これらすべてよく、毎朝食べてもいい。

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増屋納豆店 長野市篠ノ井布施高田

 騒がしい街、お茶の水にあって唯一オヤジのくつろぎの場所として残っていたのが『味一番』であった。それがなくなってからもうどれくらいたつだろう。ボクが理想とするレバニラ炒めを出す店であり、ときにみそラーメンもうまかった。そのいかにも肩の張らない「街の中華料理屋」といった店は近年どんどんなくなっているような気がするのだ。
 それに店の入り口のレジからお客をしっかり見守っていてくれたお婆ちゃんとももう会えないな。残念でならないけどその山盛りレバニラ炒めとみそラーメンをここに掲載しておきたい。

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