旅・無駄歩き: 2007年4月アーカイブ

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 ボクの「魚貝類を探す旅」ではまず旅館やホテルに泊まるなんてことはない。
 クルマなら車中泊、電車・汽車ならその街の一番安いホテルにする。車中泊が多いので苦労するのがお風呂である。最近はどこにでもスーパー銭湯というのが出来ているが、ただお風呂に浸かるだけで1000円以上もかかってしまうのは困りもの。
 目的は魚貝類と街自体なのだから、まったくのんびりしたいとか、快適な時間が欲しいなんて夢にも思わない。ただただ最低限の疲れを取り清潔に保ちたい、トイレを確保したいだけのこと。そんなとき昔ながらの銭湯がいちばんありがたい。

 生粋の沼津っ子である甲殻類学者である飯塚栄一さんに「沼津って銭湯とかないのでしょうか?」と聞くと。「まだ二軒営業しています」という。そこでネット検索で位置を確認すると一軒目の朝日湯の方が駐車場に近い。また沼津の本来の中心は本町という地域らしく、朝日湯はそのやや南寄りにある。古い沼津の街並みと銭湯という取り合わせも魅力的ではないか。
 沼津魚市場から沼津駅に向かう道を愛車青い稲妻号を走らせる。途中、右手に永代橋を見ると、通りの右手が古くは魚市場のあった魚町、左手が本来の沼津の繁華街本町である。道を左に折れて本町の通りに入る。並ぶ商店は作りが古さびて、やや寂れた感じがする。その通りにぐっと引っ込んで、すぐに朝日湯を見つけることができた。
 路地を入って突き当たり。そこに間口二間ほどの入り口がある。面白いのはやっぱり「右側が男」「左が女」ということ。たぶん全国的にも、この形がいちばん多いはずだ。

 間口二間の入り口から、中の状況はまったく想像できない。わくわくしてドアを手前に引く。靴を脱いで、その置き場にとまどいを感じる。下駄箱に入れる、鍵があるのだが、掛け方がわからないのだ。普通、鍵はアルミの板状のものが差し込んであって、蓋を閉めて横手のレバーを押し込むとちょっと浮き上がり、鍵が掛かる。それがここのはアルミのプレートを外すだけで鍵がかかるのである。
 やや低い番台(女湯は覗いてないぞ)で入浴料360円を支払う。この料金も高くなったものだ。ボクが初めて上京しての、小岩の銭湯が確か120円くらいではないだろうか?(『値段の風俗史』朝日文庫でも120円となっている)
 そして脱衣所、脱衣所の右手に服をいれる棚があり、ここの鍵も下駄箱と同じ作りになっている。改めて浴場の方を見て、総て木造なのに感激する。浴場は手前が洗い場であり、奥に浴槽がある。この造りは関東のもので、関西の古い銭湯は中央に浴槽となっている。
 ケロリンの桶と腰掛けを持ち、いちばん浴槽側の並ぶ蛇口、シャワーに座る。ケロリン製薬の黄色い桶は懐かしい。見上げると天井は上に行くほど狭く、三角形の空間を広々と作っている。その斜面も木であり、やや水色のペンキがかなりはげてしまっている。これが現代建築の古さびると汚らしいのとは違って、どこか風雅なものを感じる。湯船の奥のペンキ絵は富士山ではなく、駿河湾と伊豆の山。
 湯の蛇口を幾ら押しても、冷たい水がでるだけ。仕方ないので低すぎる位置にあるシャワーをひねるとぬるいけれどお湯が出る。

 昨日は午後11時に自宅を出ている。戸田村には午前2時半到着。うつらうつら3時過ぎまで仮眠したものの。ほとんど睡眠ゼロのまま底引き網にのっているのだから、朝日湯の湯船につかる、このときが疲労の頂点である。湯船は2つに分かれていて、左手が深く、下からぶくぶくと泡が出ている。左手はタダのお湯。まずは右手でじっくり身体を温める。下町の銭湯に馴染んでいたので、ここのはややぬるめに思える。それでも体中にびりびりと湯の癒しが染みこんでくる。ほんの5分ほどだろうか、手がふやけて白くなっている。子供の頃、風呂にちゃんと入ったのを手の白くなったのを祖母に見せていたのを思い出す。そう言えば、こんなことも久しぶりだ。最近では日々忙しく、ゆっくり風呂に浸かることもなくなっている。
 右手の湯船は深く、足の裏をあぶくが刺激して、これもなかなかいい気持ちだ。そう言えば、火曜日の夕方だというのに、お客が少なくゆったりしている。ボクとしてはありがたいのだけれど、銭湯の経営は大丈夫だろうか? とても気に掛かる。
 沼津という街にこんな昔ながらの銭湯がある。それが新鮮に感じるし、また街の魅力を倍増してもいる。この朝日湯も長く続けて欲しいものだ。
 さて風呂上がりにはオレンジ牛乳かコーヒー牛乳と決まっている。またコカコーラという選択肢もある。そう言えば初めてコカコーラを飲んだのも故郷貞光町の南風呂だった。ボクのウチには内湯もあるのになぜか銭湯にいっていたのだ。ボクが生まれた1956年、街には北、中、南と三軒の銭湯があった。今も残っているのだろうか?
 自動販売機に向かおうとして、ふとどうせ焼鳥屋で生ビールを飲むのだから、我慢する。外に出ると四月だというのに風がなま暖かい。

朝日湯 静岡県沼津市下本町9

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