徳島中央卸売市場はまことに魅力的な市場なのだ。
魚貝類だけでなく、阿波名産のスダチ、レンコン、山桃があるし、関連の店には、これまた阿波名物の「かつ」、「竹ちくわ」がある。
当然、魚貝類は瀬戸内海、太平洋両方の多種多様なのがピチピチはねている。
四国有数の大河である吉野川には天然アユ、ヤマトシジミ、スッポン。
さて、それではきっと市場の食堂でもうまい魚を食わせるのだろうね。
と思ったら大間違いなのだ。
至って在り来たりの、だけど良心的な食堂が並ぶ。
間違っても築地の新興店舗のような「海鮮丼」などは食べられない。
言うなれば「市場人の市場人のための食堂」しかない。
東京を前夜9時に出て淡路島に着いたのが、午前6時前のこと。
今回は姫とふたりっきりの帰郷。
サービスエリアには彼のドーナッツ屋があって、姫は朝っぱらからいろいろ買い込んで、これが朝食。
市場でご飯はボク一人。
だから思い切って初めての店に入る。
なんども通り過ぎた『サッポロ』はいつもお客で満員。
やっと空いたのを見越して、引き戸をあける。
正面が厨房で真四角にカウンターが囲む。
厨房には団塊世代くらいの男性がいて、オバチャン、お姉さんがお茶などを出している。
引き戸の手前におかずの皿、それに丼物、ラーメンにうどん、焼き魚、いろいろあって迷ってしまう。
ふとカウンターの上を見ると、カタクチイワシの煮つけがある。
これが実にうまそうだ。
加うるに冷や奴、釜揚げしらすの小皿、シジミのみそ汁。
何と言っても注目してもらいたいのは奴の皿にスダチがあること。
豆腐でも漬物でも、しらす干しでも、“なんにでもスダチ”というのが徳島ならでは。
たっぷりスダチを絞りかけた豆腐が昔ながらの硬いものでうまい。
スダチをかけた豆腐の味が懐かしい。
「この辺で、このイワシのことなんといいますか」
「ええ、ただイワシいうけんどな。魚は地方によって名前が変わるだろ、ここではイワシとしか言わんだろ」
このカタクチイワシが軟らかくたき上がっている。
甘さ控えめで、徳島ならではの醤油の丸い味付けがご飯に合う。
「冷や酒があったら最高だろうな」
シジミのみそ汁は徳島ならではの御膳みそ。
シジミの身がふっくらして甘い。
おかずたっぷりの朝ご飯、味にも満足して幸せな気分になる。
食べ終わって、店名の『サッポロ』というのが気になってくる。
880円を支払い、聞いてみようか迷った末に諦めた。
今回は野菜も魚もあまり見ないままに市場を後にする。
ボクの田舎までは、ここからまだ長々と吉野川を遡る。
徳島中央卸売市場
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