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昨年からなんど伯備線に乗っただろう。
1度、2度、これが3度目かな。
昼間走る伯備線の車窓から見える景色にはだれだって、感激するだろう。
その山里の、そして山の斜面の、川の流れのなんと美しきことよ。
対照的に、夜はなんとも寂しく、誰もいなくなった銀河鉄道を思わせる。
特急やくもの不思議な、左右前後の揺れ、ククウウク、ククウウク、クウククという不気味な音。
この揺れもインドコテリウムの鳴き声ののごとき雑音も夜の方が大きい。
今回は午後一番の特急やくも、なんだか旅情を感じて、思わずホームで駅弁を買う。
残念だったのが、伯備線ホームには大関しかワンカップのないことだ。
JR西日本さんよ、できたら地酒のワンカップおいてくれないかね。
大関じゃ、せっかく湧いてきた旅情が急激にしぼんでしまう。
結局スーパードライを一缶。
伯備線は倉敷、備中高梁をすぎて、急激に山間のなかに入っていく。
左に川が見えるのだけど、なんともきれいだ。
備中高梁といえば、赤穂浪士の大石内蔵助が城の開城を担当したところだったはず。
いや違うな、豊臣秀吉(このときは羽柴秀吉)が水攻めをやったところだった。
この戦を切り抜けて、秀吉は天王山へ大返しをやったんだ。
備中高梁をすぎて「味折小町」をあける。
そう言えば、これは伯備線ホームでたった一個だけ残っていた幕の内なのだ。
駅弁売りのオバサンに「幕の内ありますか」というと「祭寿司だけなんです。でも、ちょっと待ってくださいね」、といってもう一人いた駅弁売りのオジサンのところに走り、これこそ伯備線ホームに最後に残った幕の内弁当が買えたのだ。
紙の蓋をとったとたんに典型的な幕の内が出てきた。
多種多彩なおかず(肴)に木型で型押ししたご飯。
白いご飯に黒ごまという幕の内の基本形がここにある。
赤魚粕漬け、高野豆腐煮、鶏肉南蛮漬け、卵焼き、肉団子に牛肉しぐれ煮、海老天ぷら、菜の花チキンくらげ和え、なす天ぷら、小松菜お浸し、きんぴらごぼう、椎茸煮、人参煮、ほたてチリソース和え、鶏肉そぼろあん、大根漬け、そら豆塩ゆで、ポテトフライ、大根生酢、梅干し、枝豆塩ゆで、と並んで900円は安いのではないか。
さてどうして幕の内はこれほどおかずが多彩なのか、というと、おかずが酒の肴でもあるからだ。
だからおかずの3分の2ほどで酒を飲み、残りでご飯を食べる。
それなのに缶ビールとは情けない。
この幕の内なかなか味がいい。
おかずもご飯も合格点。
こんなときに限って酒がないのだ。
吉田健一なら思わず、電車から飛び出しただろう。
山口瞳なら、ボクどうようにひとり情けない思いにかられたに違いない。
幕の内は酒を飲むためにあるのであって、ビールを飲むためのものではないのだ。
さてさて岡山から伯備線に乗り込むなら、改札を通る前に近くのデパートなどでうまい日本酒を買い、伯備線ホームで、決して祭寿司ではなく、幕の内を買うのが最上の選択である。
ぼんやり外を眺めながら、なんとなく物思いに耽っていたら、右手に大山が見えてきた。
そして山間部から平野部になり、なんだか急に景色が明るくなったのである。
米子は近い。
米子まで来たら、松江まではもう一息なのだ。
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