2006年11月アーカイブ

touge0611.jpg

 日比谷線三ノ輪橋駅、明治通と昭和通から日光街道に名を変える大通りの交差点にある。これだけ大きな通りの交差するところなのにまことに薄暗く寂しいところである。この三ノ輪橋の隣が根岸。確か日暮れ里と呼ばれていて、江戸時代には日本橋など大店の療(別荘)のあったところ。とにかく夕暮れ灯ともし頃の似合う地域である。
 そこに素っ気ない建物であるのが「峠のそば」。あまりにも実用本位の経費節約型の外観ながら、夕暮れに煌々と光る灯りは魅力大。自動ドアではない引き戸をあけて入り、食券を買う。いつもなら定番のかき揚げそばを選ぶのだが、同じ紫のボタンに「ソーセージ天」というのを見つけた。ソーセージというとウインナーだろうか、それとも豚肉の長いもの? 魚肉なら日本的で面白いなと思って350円を入れる。
 四つ角の角にあり、店舗は三角形であるようだ、それで店内も三角形で厨房を仕切るのも三角形の底辺にある。そこにはさみしそうな30代らしき男性がいてさみしそうにそばを温めてる。
 食券を出すと「茹でていますので待ってください」と言われてカウンターで待っている。驚いたことには立ち食いそば屋でいちゃついているカップルがいる。そばを食べ終えているようなのになかなか出ていかない。よく見ると彼女のほうがざるに一本のうどんを残している。彼が彼女のウエストに手を回すのだが、これがなかなかゴッツイのである。ふと琴桜と鷲羽山の取り組みと見ているような思いにさせられたのだがよく見ると二人の顔が似ているのだ。だいたいこのような状況は山の手には絶対にありえないこと。あまりに珍しいのでついつい目がいってしまう。まさか貧しいので本日は立ち食いそば屋で済まそうという合理的な夫婦にも見えない。だいたい夫婦にしてはあまりに仲がいいではないか? でも「どうして立ち食いそば屋でいちゃつくの。近所には薄暗い公園がいっぱいあるのに」というのは古くさいオヤジの考えることだろうか。でも二人ともえらくダサイね。
 そしてかなり待たされて出てきたのが「ギョギョっとする」雰囲気のそば。なんだかソーセージの天ぷらが生々しく、そして不気味だ。食べてみると魚肉なんだか、豚肉のソーセージなのかわからない。何しろソーセージ天が熱をもって「アチッチ」なのである。汁はカツオ節だろうか香りがある。そして味もいい。その上、そばの風味も感じられるのだからいいんだろうね。でもソーセージの天ぷらがちっともうまくない。またワカメを入れているのは失格、その上、汁の塩分濃度とそばの味わいがバランスを得ていない。でも350円でよくこれほどの味わいを作り出すものである。偉いね!
 近年の立ち食いそばの新顔はデキ過ぎかも知れない。でも立ち食いそばで不細工なカップルがいちゃつくのは禁止だね。

touge1122.jpg

 大月は山国らしいこぢんまりした懐かしい雰囲気の町だ。その一角に「スーパー公正屋」を見つけて入ってみた。これは明らかに地元系のスーパーである。山梨の地卵を売っているのもありがたいし、また生鮮品の品揃えもがんばっている。
 そこに見つけたのが地納豆の「富士納豆」。このパッケージが素晴らしい。正面に富士山、手前に川が流れて橋が架かる。この川はなんだろね、また手前には満開の桜。この絵柄を見るだけでも千金の値あり。
 納豆も突出した味わいではないが「大月」の地納豆としてはいい味わいだ。ワシは大好きだぞ、「富士納豆」。 

ofujina0611.jpg

 我が記事に対して「P」さんから以下の情報を頂きました。
「大月ICのすぐ近くにある藍屋の隣にわらぶき屋根の大きな民家(重要文化財)の建物があるんですが、そこが製造元です。本陣跡で、明治天皇もここに泊まったそうです。その記念碑の隣にある記念碑は『瓔珞みがく』(ようらくみがく)の歌碑です。これは先々代の社長置塩奇(おしおくすし)氏が「少年よ大志を抱け」のクラークで有名な北海道大学OBで北大の有名な寮歌「瓔珞みがく」を作ったこと記念して建てられました。これはレプリカで本物は札幌の北大植物園内にあります。置塩氏は長く日本納豆協会の会長をしておられたそうです。富士納豆。大粒で大豆の味を楽しめますね。私も大好きです。」

富士納豆製造所 山梨県大月市大月町花咲93

 大手の納豆を我がブログから排除して地納豆だけを取り上げることにした。そんなことで都内で納豆を買うのはもっぱら豆腐屋となる。この納豆も亀戸の「小川屋」で購入した。
 パッケージが非常に今風なのでてっきり大手だろうと勘違いする。それほど製品名も地納豆らしくない。きっと地納豆ながら企業努力をして大手に負けるまいとしているのだろう。
「大平納豆」の名は墨田区大平の地名からくる。これなど四つ目通りにあって「四つ目納豆」というのと同じで非常に惹かれるところ大。これでパッケージが昔ながらのものだったらよかったのに。
 味わいはなかなかよろしい。

oohira0611.jpg

太平納豆株式会社 東京都墨田区太平2丁目16-5 03-3622-5608

siihasi0611.jpg

 夜はほとんど糖質を酒以外からはとらない。これが朝ご飯をおいしく食べるコツだと思っているのだ。こうすると朝、7時前後にいちばん腹が減るのだ。それでも今日はそうも行かないだろう。初めての足立市場に来ている。少し歩いてうまそうな店でも探すべきだろうし、またそんな店があるとは限らない。
 と、午前7時過ぎに市場に入った途端目の前にあったのが数件の食堂だ。
 そこに一際目立つ、しかもほどよく昔風の『椎橋食堂』と染められた暖簾が目に飛び込む。とりあえず、腹の虫を抑えるのもいいだろうと入ってみた。入って左の6人がけのテーブル2つ、奥に4人がけが1つ。入って右が厨房で厨房の入り口に向かって小さなカウンターがある。ここには4〜5人座れそう。
 先客はカウンターと大テーブルにひとりずつ。奥の4人がきに座り、壁のメニューを見る。「舌代」というのがなんとも市場らしくていい。そして見つけたのが「あいかけ」というメニュー。築地で「あいがけ」というとヤハシとカレーに決まっている。ここでもそうなんだろうか? と聞いてみると牛煮込みとカレーだという。これは珍しい。
 注文してほどなく出てきたのが、右にカレー、左にコンニャクたっぷりの煮込み。端っこに真っ赤な福神漬けとせん切りキャベツというのが可愛らしい。そして煮込みより少し大目の、このカレーがうまい。そして煮込みだが、こちらは残念。味わいが薄い。この薄いのは多すぎるコンニャクのせいだ。食感としては面白いのだが、睡眠不足、しかも慢性疲労の身には塩分が足りない。
 これでは腹ぺこの早朝には寂しい。これなら単純にカレーが良かったんだと後悔する。またお勧めのメニューがあって、これが煮込みや塩焼きで魅力的、他には鮪の刺身定食もあったわけだ。
 この『椎橋食堂』の「あいかけ」だがどうも好き嫌いがでそうだ。パキっとしっかりした味つけを早く起きて遠出した身には欲しいところ。そうなると煮込みの味わいが中途半端に感じられる。
 味わいからすると少々落胆を感じたが、これはとにかく足立市場にこなくては食べられない? せっかく千住まで来たのだから、そこにしかないものをというなら、この珍品はお勧め。ちなみにこの「あいかけ」はカレーの一変種と考えた。

siihasi06112.jpg

 市場魚貝類図鑑周辺から発生する話題を取り上げているのが、「お魚三昧日記」「うまいもん日記」「酒日記」「本のページ」「まんじゅうこわい」「季節の野菜図鑑」の6つのブログである。これはあくまでデータベースを作る副産物であってブログのための文章ではない。またブログを見てもらうと市場魚貝類図鑑が単に水産物だけのデータベースではなく食とか歴史とか、地域情報とか多彩なものから出来ているのがわかってもらえるはずだと思う。
 それでブログはしばしば改訂、ページが移動する。「まんじゅうこわい」は甘味とお茶やパンなどのページなので他のブログにあるそれらは最終的にここに落ち着く。また市場でのご飯、「市場めし」では水産物を食べたときには「お魚三昧日記」、それ以外は「うまいもん日記」に区別することにした。
 専門家の方なら周知のことだと思うがデータベースは大きくなるほど区分が増え、またより細分化する。例えば魚貝類に関しては東京都に流通するほとんど総ての種を集めることが出来た。あとは欠落した種を埋め合わせていく作業を行っている。また値段の移り変わりも総て盛り込んでいこうとしているのだが、これも画像、文字での資料化が進んできている。この過程での周辺のデータをどう整理するかを早く考えなくてはいけない。
 我がデータベースもそろそろ「ギガ」ではなく「テラ」を1単位とすることになりそうで、一人っきりで整理する限界に近づきつつある。そんなことでブログはボクのデータ整理日記でもあるし、悪戦苦闘する日々の記録でもある。

 ボク一人だとまず買わないものに地域限定食品というのがある。静岡でいえば「おでん」なら疲れたお父さんにはもってこいの代物だが、カップラーメンに至っては普段でも滅多に口にしないし、買っても家族の要望に応える形である。そのために今回のカップラーメンも家人の買い求めたもの。場所は静岡県沼津市のサークルKというコンビニ。魚市場に向かう道すがらボクが梅のお握りを買っている間に既に家人はこれを6つ抱えてレジに並んでいた。
 その1個だけを分けていただき慌ただしい日のお昼ご飯に食べた。改めて考えてみると、この手の具材、スープ、チャーシューなどがバラバラに入っているなんて面倒なカップラーメンは嫌いなのであった。時間がないから食べているのに、まず麺以外のものを取りだして、具材、粉末スープを入れて熱湯をそそぐ、そして4分待ち、今度はもう一種類の液体スープを加えて、チャーシューをのせるなんて「やってられないのだ」。それでも我慢して出来上がったものは確かにカップヌードルよりはうまい。
 驚いたことにスープは下手な中華料理店よりうまいし、麺も鹹水少な目の白っぽいストレートなものでこれもいい。でも278円ってカップラーメンでは高くないだろうか? これなら八王子ラーメンの名店が400円なのだから無理しても自転車をこいで食いに行く方がいいな。
 と、改めて「どうしてこんなもの静岡で買ったんだろう?」と家人に聞いてみた。すると地域限定が好きなのもあるが、静岡で暮らしたことがあり、テレビ静岡が好きだったのだという。カップラーメンをテレビ局が作っているんだとビックリして、新しいカップラーメンを取りだしてみると。「くさデカ」というのはテレビ静岡の番組なのだ。そこで県内のラーメンランキングをつのりその一位になったのが浜松市の「ラーメン竜」と言う店。その店のラーメンを東洋水産、サークルKと組みカップラーメンで再現したものなのだという。
 これは面白い企画である。テレビ静岡がコンビニとコラボレーションするのも悪くはない。でもここでちょっとだけテレビ静岡にお願いしたいのは、できればコンビニではなく個人商店だけで売るとかして疲弊している街の活性に繋げたらもっとよかったと言うこと。今時、地域の商店を押し倒すように増殖しているコンビニと繋がっても「どこでもやっている在り来たりのこと」だろう。地方テレビ局ならもっと地域のことも考えろ! と言いたいね。

KUSADEKA.jpg

 本日は点描風に。

 八王子魚市場はあっさり見て歩いただけ。そのまま八王子綜合卸売センターに。相変わらず土曜の駐車場はスペース探しが大変だ。

 午後7時半近く、「光陽」。迷った挙げ句煮込み定食600円で朝ご飯。
「お母さん、やっぱり煮込みでご飯はいいな」
 このときNHKで「傾聴する」というニュースをやっている。人の話を聞く教室というのがあるらしい。バカみたいだ。
「お母さんなんて毎日、人の話を聞いて偉いね」
「そうだね。あんまり相手もしてらんないけど、ここに来て話をしていく人も多いね」

「光陽」の前があやしいディスカウントショップ「三恵包装」でお菓子、ラーメンなどを一杯に買い込む。貴ちゃん、今日の品揃えは凄いぞ!

sankei0611.jpg

 貴ちゃん、
「ほら喜多方ラーメン二人前で80円だよ。買ってってよ」
「ほいよ」
 と4パック買ってしまう。これじゃまるでサクラだ。

 魚屋「三倉」、その前がマグロ屋「礒辺」、見るものもなく通り過ぎて正面にあるのがモツや内臓肉を売っている「大虎」。「十一屋ジャパン」の漬物を見て、「やまぎし」の魚を見るが面白くない。その隣が「コリアフーズ」。

kotyu0611.jpg

コリアフーズではキムチ、ナムルなど総て自家製。韓国食材もあるんだと

 なにやらうまそうな臭いがする。しまった名物「コリアフーズ」のビビンバにすれば朝ご飯はただですんだのに。と、思っていたら新製品の「コチュジャン煮」をパック詰めの最中だったのだ。
「これ試食できるよね」
「まあせっかく通ったんだから奥へ入んなさいよ」
 と言うのでしっかりたっぷり試食する。これが「うまい」。ホロホロになるまで煮込んだ牛すじは良く脂分を取り除いている。それなのに味わいが深く旨味を感じるのはコチュジャンのお陰だろう。

 八王子総合卸売協同組合名物肉屋通りはすでに人がもみ合うようである。人混みは嫌いなので早々に「丸幸水産」をのぞく。クマゴロウは忙しそうだし、珍しいものはないようだし、すんなりと通り過ぎる。

marukou0611.jpg

「丸幸水産」はパック販売も豊富なので一般客が集まってきている

 その隣が米屋の「日本堂」。「市場寿司 たか」も我が家の米も総てここでお願いしている。銘柄は勝手に「日本堂」が選んでくれる。
 八王子綜合卸売センターは八王子総合卸売協同組合の真隣。数センチしか離れていないが一様八王子綜合卸売センターに戻って「平成食品」でイスに座り込む。
「今日も暇そうだな」
「そんなことないよ」
 一息置いて「総市」で魚を見るがやっぱり面白くない。「ユキ水産」を冷やかす。この店、社長をはじめ美人揃いなのが自慢。ウソだと思ったら行って確かめて欲しい。驚くぞ!

「市場寿司 たか」に来ると満席。この状態は7時過ぎから続いて8時になっても空席は見あたらない。たかさんご苦労様なのだ。

YYTTTTAKA0611.jpg

「市場寿司 たか」では早朝の営業だけで1本すし飯を使い果たした

 麺屋の「南京軒」を過ぎて冷凍食品の「プアカロ八王子」、その前が「カワベハム」。コマちゃんをはじめカメラにニッコリ。気持ち悪いぞ。そのまま前にあるのが「大商ミート」。ここも忙しそうだ。そしてお菓子の「藤原商店」。

purakaro0611.jpg

プラカロは冷凍食品の店。最近賢い主婦などがここでまとめ買いしている

komachan0611.jpg

カワベハムの自慢は上州牛。これが少々お高いが「うますぎる」肉なのだ。スーパーなどよりも格安なので牛なら「カワベハム」相模食肉なのだ。注/コマちゃんは決して一般人には刃物を向けません

daisho0611.jpg

「カワベハム」が牛なら、豚の味わいでは「大商ミート」が三多摩地区では最高。

fujiwara0611.jpg

ボクの憩いの店「藤原商店」。ボクはここで懐かしい菓子を買い。家人はここでチャコレートのまとめ買い。

sinyuu0611.jpg

「伸優」には千鳥酢や本味醂、備長炭などがある。また珍味も多いので主婦などものぞいていく

bikkuri0611.jpg

「ビックリや」はそれこそ野菜がビックリするくらいに安い

 食材屋の「伸優」をのぞき、そして八百屋の「ビックリ屋」。そば屋の「まつ浅」あさやんと釣りのことで立ち話していたら相模原橋本の「多子作」さんが顔を出す。多子作さんのトレードマークはツルツルにそり上げた頭の光沢。それがこのところ髪を伸ばしはじめているのだ。
「多子作さん、どうして頭剃らないのカッコ悪」
「そうかな。これがいいつう人もいるしな」
 あさやんが
「オレ、多子作さんて根っからのツルッパゲだと思ってた。これなら髪はあるほうだよ」

taosaku0611.jpg

 これはほめ言葉か?
相模原橋本「多子作」へは
http://www.tagosaku.com/

 考えた末に「ビックリ屋」でキノコとレンコン。
 後は一目散に帰宅する。

八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html

nao06111.jpg

 八王子駅中央線上りホーム。階段の下にひっそりあるのが『直久』である。(注/私が上りホームでしか見ていないだけの可能性大)
 店先に「醤油らーめん」とデカイ文字があるので素直に380円で食券を買う。出てきたのは醤油の味わいが濃厚ないたって普通のラーメン。これがなかなかうまい。実を言うと醤油と鶏ガラなどのスープを合わせてバランスを取るのは非常に難しい。多くのラーメン店で「まずいな」と感じるのは醤油の香りやアミノ酸と塩分のバランスがとれてないためだ。その伝で言うとまったく問題のないもの。麺も食感味わいともにいい。
 これが380円なら駅ラーメンとしては最高の部類だと思う。ラーメン事情にには暗いが「直久」というのはチェーン店なのだろうか? もしくはどこかの支店? まあどうでもいいことだが、駅を運営する責任者とはどのような御仁だろう。駅の立ち食いの店や食堂で大手チェーン店だったりJRの系列会社であったりするだけでまずくて無意味な店舗を多々見かける。そんなまずい店を駅に置いておくのは迷惑極まりない。その点「直久」は合格点を超えている。八王子駅は偉い。ただし階上のあの店はいけませんな!

nao06112.jpg

http://www.naokyu.com/1160572323288

itino06110.jpg

 川越は都心からも近く、しかも小江戸などとして観光客にも人気がある。ただし恵まれていると言っても、同じくらいの都市は多いわけで、「恵まれている」だけじゃなく「観光都市として努力している」街なのだろう? そして観光という面から鑑みると、当然古きよき街並みが最大の目玉で、とうぜんその努力は連休初日に歩いていても、そこここに感じられた。また商店街が元気に営業していなくてはいけない。つまりシャッター通りでは、ダメだということ。その点でも川越の街は楽しいのだ。そしてそこにプラスするのが「うまいもん」である。
 私が旅をするに必ず押さえる「うまいもん」の要は豆腐である。うまい豆腐屋があれば、その街は間違いなく文化的にも、また観光的にも上質である。と、川越で見つけたのだ「うまい豆腐」。これが半端なうまさではない。関東でも随一のうまさかもしれない。

 川越に喜多院という古刹がある。その古刹の脇道を通り、大通りに出る手前に古めかしい豆腐屋を見つけた。それが「市野豆腐店」である。最初入ったら男性がひとり店番をしていて、「豆腐もって帰れますかね」と聞くと、帰宅までの時間を聞き、買うのは帰りにするように言ってくれる。「氷は用意しますけどね」とのこと。
 そしてさんざん歩き回って、もういちど店に入ると、こんどは女性がひとり。値段表を見て「ごま入り飛龍頭」(700円)と「もめん豆腐」(たぶん140円)2丁を購入した。そしてそのとき「辛子いりますか?」と聞かれたのだ。

「川越では豆腐に辛子なんでしょうか?」
「そうですね。辛子をつけますね。よそはわかりませんが、冷たい豆腐には辛子なんです」
「驚きましたね。埼玉では辛子をつかうんですね」
「いえいえ、川越だけかも知れません」
 当然、辛子もいただいた。

 帰宅して、風呂上がり、半丁食べた冷や奴。これが絶品、うまい。大豆から出てきたのだろうか甘味があり、トロっと口の中でつぶれたときに旨味が浮き、広がる。これはすごい豆腐である。京都でもこれほどの豆腐は少ないだろう。しかも値段からして特別に造った高すぎるもの(近年やたらに高くて御託の多い不愉快な豆腐が多くてこまる)ではなく普段着の豆腐。これが100円代で手にはいるなんて川越人の幸せなことよ。うらやましいな。
 なにもつけないで一口、しょうゆをつけて一口、そして辛子をつけて一口。個人的には「市野豆腐店」のものならしょうゆだけでいい。でもショウガがあってもいいのだが、辛子をつけてうまいとは思わなかった。
 よく考えてみると、たとえば江戸時代に豆腐をしょうがで食べるなんて難しいのではないか? ショウガは秋に種ショウガをうめて、初夏に新ショウガを取り、秋には根ショウガを収穫する。それを乾かして貯蔵してもかなり高いものではなかったか? これからすると粉に出来る辛子は使いやすい。これは調べてみなくては。

itino06111.jpg

川越のれん會
http://www.koedo-noren.com/month-shop/

 田んぼと畑のなかにポツンポツンと家が建ち、四つ角などに商店がある。そして食堂があるというのが川島町の風景なのだ。鴻巣市、東松山市、川越市などの中堅都市の間にあってこのあたりは真空地帯のようになにもない。
 ここでやっと見つけたのが中華料理店の「ますや」。まあ中華とはあっても食堂なのであり、ラーメンを注文するのは危険かな? と危ぶみながらも肌寒いので冒険に踏み切る。そして出てきてみるとやはり中華料理店の中華スープを使ったありふれた味のラーメン。なるとがないところなど「中華料理店の一メニュー」らしい。思いっきりがっかりもしない代わりにうまくもない。でもあっという間にスープまですすりこんで平らげたのは腹減りのなせる技。
 どうもこの店は飯ものを注文する方が正解のようである。

masuya0611.jpg

ますや 埼玉県比企郡川島町大字正直746-7

 沼津魚市場の関連棟に納豆や惣菜を売る店があり、そこを通り過ぎようとしていたらウチの母ちゃん(妻である)から
「父ちゃん(とうちゃん)、変なものがある」
 そんな一声があって立ち止まったら、確かにそこにあったものは変なものであった。

 話はかなり遠く離れるが若い頃に
「ボクは子供が出来たら『父ちゃん(とうちゃん)』と呼ばれたい」
 そんな話をしたことがある。すると聞いていた仕事の先輩格にあたる人が
「それはおかしいだろ。下品だろ」
 と言ったのだ。
 仕事では凄い人だと思っていたのが人格的にまったく疑問符のつく人になった。ボクは人間は総てに対してリベラルでありたい。言葉に対してもである。ボクなど子供の頃、父親のことは「父ちゃん」なのだ。だからボクの息子や娘、総勢5人に対しても「父ちゃん」と呼べと言っている。(工藤孝浩さんちもそうであった。工藤さんの素晴らしい業績もそうだが「父ちゃん」同士として親近感を覚える)それを下品とは無知蒙昧、アホだろうとこの人を見る目が数百段さがってしまった。この方、普段から東京生まれ、東京育ちを端々に出していたが半分冗談であると理解していた。まさかそんなものマジで振りかざすとはね、愚かなり。だいたい今の東京での言葉は本来の江戸の言葉ではない。所謂山の手、旗本やご家人の使っていた方言を薩摩藩などが適当に使いやすく当たり障りのないものに作り替えた味も素っ気もないものだ。そんなものに価値観を見いだしておきながら、ときどき江戸の庶民の土着的な「御御御付け(おみおつけ)」、「おむすび」なんて言葉を使う。なにしろ言葉は多様でなければいけない。四国の人はどもまでも四国人の痕跡を残せ、また九州でも東北でもそうだ。

 いかんいかん閑話休題。
 見るからに真っ黒でまん丸くて「それはなんだろう」という代物。まじまじと見ていたらそこに仕入れ(市場だから食料品店。もしくは魚屋の店主)に来ていた人が、
「これは昔からあるもので沼津じゃ珍しくはないね」
 と、店主を呼んでくれた。そこで「柿田川納豆」とともに買ったのだ。
 だいたい静岡の食べ物でイルカの「たれ」、静岡おでんなど真っ黒なものは多いのだ。だいたい「黒はんぺん」なんてものもある。

 そして帰宅して食べたのだが
「これはお菓子じゃないの」
 というのは子供達の感想。見つけた家人さえ
「半分でいいかな」
 なんて言うのだ。
 でもボクはこの甘〜くて“カフッカフッ”な食感になぜか惹かれるのだ。そして今緑茶の友として食べている。言うなれば茶菓子ですな。それがなんだかいける。
 これって静岡ならではの味なんだろうか?

ajiganmo0611.jpg

伊藤食品 静岡県沼津市平沼554-2

このアーカイブについて

このページには、2006年11月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2006年10月です。

次のアーカイブは2006年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。