定食・食堂・料理屋: 2007年6月アーカイブ

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 八王子市には「八王子魚市場」「八王子綜合卸売センター」「八王子総合卸売協同組合」と3つの卸売り市場がある。それぞれに食堂や喫茶店があり、市場人でもそれぞれ通い詰める店を異にしている。
 毎日立ち寄る『源七』、そこにあきる野市の魚屋『スーパー小山』さん、通称小山のとっつぁんがいて、「腹減ったな。飯食いに行ってくる」と片手を揚げている。
「どこへいくの」
「むにゅむにゅ食いに『まつえ』よ」

 この日はほとんど睡眠ゼロで起き抜けには朝ご飯が食べられなかった。そしてやや腹空き加減になったので着いていくことにする。ボクがときどき市場飯を食べるとしたら八王子綜合卸売センター『市場寿司 たか』、八王子総合卸売協同組合『光陽』と決めてしまっていて、こんなことでもなければ初めての店に入る気がしない。
 八王子魚市場の関連棟(食堂)まではほんの一分足らず。ここは道路に面して喫茶店、ラーメン屋などがあって一般客も利用しやすくなっている。そのいちばん西側にあるのが『まつえ食堂』。
 入ると思ったよりも広い。しかも中にいるのは顔見知りばかりだ。こんなところで話すのは「昔は魚がよく売れたよ」とか「そういやぁー、●●さん死んじゃったってね」とか意外に暗い話が多いのである。

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 店の奥に厨房、しきりにカウンターがあり、おかずがいっぱい並んでいる。そして手前に机と、小上がりがある。このカウンターとのしきりにあるおかずがみな魅力的だ。ガス台からじゅううじゅう、ときどき火が上がり、焼けているのは鮭らしい。この匂いにいっぺんに腹の虫が目覚める。奥の壁にはラーメンや丼物、野菜炒めや、カツなどの食堂定番メニューも目白押しである。

 ここで小山のとっつぁんが注文したのが「むにゅむにゅ」。
 なぜ「むにゅむにゅ」なのか? どうやら『源七』の若だんなが、「豚肉と玉ねぎを炒めて、甘辛い醤油味にしてくれー」とわがままな注文をしたのが、名前がつかぬままに提供されているものと言う。
「名前がないというのは違うな」『源七』の若だんなが真相をあばく。「一度は名前がついたのに年のせいで小山のとっつぁんには覚えられない」だけだったのだ。

 生姜焼き用より厚みのあるロース肉の焼き加減が柔らかくちょうどいい。そこにからんでいるのは、味醂などを加えた醤油だろう。このタレが甘くなく、辛くなく、強い火力で炒めて、微かに焦がされて、香ばしくて味わい深い。この香ばしく醤油辛く、そして豚肉のうまいのとでとてもご飯に合う。きっとビールにも合うだろうな。またボクは個人的に玉ねぎの炒めたものは、あんまり好きではないのだが、これもまた甘味が醤油味とあいまっていいのである。
 その上、『まつえ食堂』の大振り茶碗で供されるご飯がうまい、みそ汁の具がアサリだ。
「朝飯は『まつえ』だな」という八王子市場人が多いのも大いにうなずける。

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 前を見ると年寄りのクセに小山のとっつぁんが豚肉をうまそうにむしゃむしゃ、ニコニコ食っている。
「もう年寄りなんだから、朝はそばとかうどんとかにしなさいよ」
 大きなお世話かもしらないけど、心配して言うと
「大丈夫だ。オレはまだ70前だよ」
 こういう爺様を見るとボクの未来の展望が開けてくるから不思議だなー。

まつえ食堂 東京都八王子市北野町588-1
●八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html

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