この春に、なんどか芝、新橋に行く機会があった。当然、あたりを散々無駄歩き。そんな昼時に見つけたのがこの店。この外観を見て通り過ぎることが出来るのははっきり言ってオヤジではない。まさに昭和の香り、なかから森繁久弥が出てきそうだ。
思わず店に入って「しまった」と思う。なぜならヒレカツ、ロースカツも総て2千円以上する。これは貧乏なお父さんには辛いな。でもよく見ると「ランチ」というのがあり、これならなんとかなる。
注文を受けるとすぐに天ぷら用の低い銅製らしい鍋に、トンカツを泳がせる。揚げている音はパチパチと8分音符である。そしてしばし待ち、出てきたものにはちょいとがっかりした、荒く刻んだキャベツが皿からはみ出している。ご飯は茶碗ではなく皿にのる。しかもみそ汁が豚汁なのである。豚汁は好きだがトンカツに豚汁は合わないと思う。この点では神保町界隈の「いもや」のシジミのみそ汁の方が上だ。
この失望はトンカツを一口食べるやすぐに解消する。なぜならサクリとあがった衣の中の豚肉が柔らかく、そして味がある。「ええ、え!」と外見の平凡さとの違いに驚くのである。しかしこのトンカツはうまい。これでもしも定食のロースをお願いしたらいかなることになるのだろう。この「カツランチ」、豚汁がシジミ汁だったらまさにパーフェクトだ。
店内が1時をとうに過ぎて満席である。どうもこの店はかなりの有名店らしい。ガイドブックのたぐいを持たない、読まない主義であるし、あえて言うと今風に言うところのグルメではないので、いい店に出合うのは一入うれしい。
燕楽 住所:東京都港区新橋6-22-7