カレー図鑑: 2006年7月アーカイブ

 とても腹減りで中央線に乗らなければならない、時間がないお金もないというときに入るのが「アルプス」である。だいたいここに来店している客をみても同様の状態に陥っているとしか思えない連中ばかりだ。いい年をしたオヤジなど、ここで慌ただしくカレーなどを食べているとそこはかとなく悲哀を感じるのではないか。とにかく値段の安いのと味がほどほどにいいこと。また席が多く、待たなくても食べられることがいい。
 カレーにコロッケやカツをのせても500円でおつりが来る。また大盛りにしても500円台で済むのでまことにありがたい。

alpsss.jpg

アルプス
http://www.yaechika.com/shop_detail/sp169/sp169.html

 沼津駅前で生まれ育った生粋の沼津っ子、飯塚栄一さんの今回のおすすめの店が『航』である。沼津駅南口からロータリーを左に沼津ホテルの並びにある。「洋食」という文字があるものの一見なんの店かわからない。こんな店は飯塚さんに案内されなければ見つけられない。この店の自慢がカレーとコーヒーである。
 まず出てきたコーヒーがなかなかいい。初っぱなからコーヒーというのは睡眠ゼロの強行軍できているための飯塚さんの配慮。そして出てきたのが静岡県特産の等牛山ポークを使ったカレーである。
 この丹念に作られたカレーの味わいは、残念ながらまだ発展途上の味わい、でも充分惹かれるところがある。イギリス風のカレーを目差しているのだろうか、スープに凝っていると思われる? ただ、これがご飯との相性に問題があるのだ。これなどは東京神田神保町の『ボンディー』のカレーなどで研究してみるといい。ご飯に合わせるとき、酸味よりもほろりとした甘みがメインでなければだめなのだ。そして後からかなり遅れてくる辛み。
 でも、この店のなんとも言えない好ましさは、「時々来てみたい」と思わせるに充分。沼津は、味どころでいい店が目白押しなのだが、ここも間違いなくおすすめできる。

kou.jpg

静岡県沼津市三枚橋町5の27
http://homepage2.nifty.com/e-clair/

 江戸川区の南小岩に暮らしていて、京王線府中に引っ越ししたのがもう、30年近く前のことになる。そして初めて府中に向かったときに食べたのが『C&C』のカレーなのだ。国鉄(当時)新宿駅西口から京王線に乗り替える通路にある立ち食いの店である。当然、値段も安くて当時300円ほどであったと思う。
 ここで注文するのはカツカレーかポークカレーと決まっていた。これは懐具合で決まっただけであるが、このポークカレーが充分満足のいく代物であった。なぜならば、カレールーの中に大きなジャガイモが置かれてあったからだ。しかもこの店がいいのは、味がいいからに他ならない。立ち食いとバカにしてはいけない。カレーはしっかり辛い、そしてスパイシーさも程良く、なんといってもとても典型的なカレーの味わいがする。
 現在もっぱらポークカレーを食べているのは揚げ物をセーブしなければならないため。これが380円で、肝心要のジャガイモがなくなったのはとにかく残念。それでも安くて味がいいのだから西口で買い物というときには昼食はここと決めている。

cckare.jpg

http://www.gnavi.co.jp/c&c/

 この店、少々苦手なんだよな。なぜかって黒のユニフォームを着た店員がカウンターの前に立ち、水は入れてくれるは、礼儀正しいは、でなんだか駅めしとしては敷居が高い。だいたい福神漬けや漬物も自由にとるにとれないのだ。そして値段も高い。今回のは黒カレーにハンバーグをのせて800円台。当然、この店に入るのは「仕方なしに」といったときだけ。
 考えてみると東京駅には安くてうまい立ち食いそばもないし、どちらかというと駅として一段上であるとJRの経営者は思っているんだろうか? まあ確かに地方から出てくると「おら、東京さきただ」なんて思うんだけど、毎日利用するベトベトの東京人としてはありがたくもなんともない。だいたい東京駅はトイレの数も少なく、この前なんて危うく●●しそうになった。まあそんなことどうでもいいか。

 この店には普通のカレーと黒カレーという2種がある。この普通のカレーは、あまりうまいともまずいとも言えないカレー界の「丸夫君」的な存在。もっと工夫が出来るだろうし、高い値を付けてるならご飯の量なんてサービスで大盛りというのもできないのだろうか? その点、黒カレーの方はルーも濃厚で辛く、やや出色。でも値段には見合わないな。

homenakare.jpg

東京駅構内

 東京神田の神保町は本屋ばかりの我がパラダイス。その昔には勧工場、東洋キネマや吉本興業などもあり、また武田百合子さんの努めていた「リオ」などもある。それが高度成長期からめっきり本屋と学生の街になったようだ。その真ん中を通るのが、すずらん通り。このやや西寄りに『キッチン南海』がある。
 初めて入ったのは大学一年のとき。お茶の水の学生となると必ずここでカツカレーを食うことに決まっているのだ。ああ、なんとあれから30年も通っている。若い頃はお金のことから月に一度だけだったけど、近頃は肥満と高血圧のために四季ごとに食べる程度になってしまった。
 すずらん通りは今を去ること30年以上前には、総て二階屋、それも独特のモルタル建築が軒を並べていた。それが近年、ビルが目立つようになってじょじょに神保町らしさが消え去ろうとしている。それなのにまるで変わらないのが『キッチン南海』なのだ。ここには未だに1970年代が残っている。

 さて、店内に入ろう。右手が厨房である。ここにコックが3人(?)、フライパンを動かしている音、カツを揚げる音、キャベツを切る音。そこにもやーっと立ち上るのは大量の油脂を含んだ煙である。この油脂が壁と言わず、床と言わず長い年月に染みこんでしまっている。そう言えば昔、ここで危うく転びそうになった。また学生の頃、ここで定食を食べてゼミにいったら、我が大学では貴重な女子が近づいてきて「『キッチン南海』に行ったでしょう?」とずばり当てられたのには驚きを禁じ得なかった。その厨房を取り囲むようにカウンターがあり、壁際と奥にテーブルがある。このテーブル席は一人で座っても、3人で座っても、どんどん合い席となるので、恥ずかしがり屋のボクは出来るだけ座らないようにしている。いちばん落ち着くのは奥の4人ほど座れるカウンターである。
 メニューは揚げ物を合わせた定食風(700円前後)のもの。これにカツやエビフライがある。まったくの単品はカレーのみである。注文されるのは揚げ物とショウガ焼きなどの盛り合わせ定食類、それにカツカレーが勢力を二分する。学生の頃はときどき定食を食べていた。さくっと揚がったカツにややもったり重いショウガ焼き、つけ合わせのスパゲッティがナポリタンに見えてそうではない。表面にべっとりついているのはいったいなんなんだろう。これが近年、やや持てあますものとなった。

kinrinnnanak.jpg

 そしてオヤジになってもやめられないのがカツカレーなのである。初めて食べたときはカツ抜きであった。その真っ黒なルーには驚いた。香ばしさ、また適度な辛さはあるものの、うまいのかまずいのか判然としないものであった。ただし翌週も食べに行っているのだから、中毒性があるに違いない。アルバイトでもして余裕があるときにはカツカレーとなる。この店に限ってはカツをのせるかいなかで味わいが驚天動地するほど違ってくる。揚げたてのカツは白いご飯を覆い隠すようである。そしてどう考えても不必要だとしか思えないキャベツのせん切りがある。一度キャベツ抜きでお願いしたいと思っているのだが面倒くさがり屋のボクはいちども言えないでいる。そこにかの漆黒のカレールーがドバーっと、ドバーっとかかるのだ。食おうとして顔を近づけるとメガネがこれまたドバーっと曇る。チルチル揚げたてのカツを真っ黒で香ばしいルーに浸して食う、そして食う。やっとここで白いご飯が登場して、これをルーの方にかき寄せて混ぜ合わせる。ここでやっと一息。できれば冷たい水を飲んで欲しい。濃厚な味わいのカツとカレールーの組み合わせに、ご飯とカレールーは不思議なことに安らぎと待てしばしの余裕をもたらし、じっくり味わっていこうじゃないか、という決意をさせてもくれるのだ。
 さてカツもご飯もあらかたなくなって最後に残ったのが継子のようなキャベツである。ボクはこれをルーで汚れないように気をつけて最後にレモンとソースをかけて単独で味わうことにしている。まあ口直しかな。
 さて『キッチン南海』には30年以上も通っていることになる。後何年通えるのかオヤジの心にはしみじみ悲しみが湧いてくるのだ。

『まんてん』をどう表現したらいいのだろう。神保町の交差点から春日通を水道橋に歩き幾本か目の路地を右に曲がるとあるのだ。この路地の先には最たる目的となるところもなく、まったく取り残されてしまったような場所である。昔はここに恐いお婆のいるお好み焼き屋や小さな洋食屋もあった。それで、当時はいっぱしの食いもの屋街とも思えたのだ。それが現在はと言うと間口両手を広げたほどに足りぬ古本屋が一軒あるものの、なんだかそれなりに飲食店街を思わせた雰囲気はなくなってしまっている。そこまで寂れてもこの路地で活気を保っているのが『まんてん』なのである。
 この店、左右振り分けで2店舗あるかのごとくであるがまったく同じ店。右はカツやコロッケの定食。左はカレー屋なのである。そして問題なのは左のカレー屋である。ここのカレーがうまいのかうまくないのか、それは非常に難解な問題である。初めてここに入ったのはいつのことだろう。たぶんもう30年近く前のことだろう。値段の安さから普通盛りのカツカレーを注文して、そのあまりのまずさに二度と来るかと思って、その数日後にもう一度、それでいつの間にか常連となっていたのである。

 この店の特筆すべきはジャンボカレー(500円)である。これは学生時代はともかく、今となってはとても太刀打ちできない超大盛りカレーである。また上にのせるものは、カツ(乗せた普通盛りのカレーは550円)やコロッケ(同550円)、またこの店ならではの赤いウインナー(同550円)がある。ジャンボにも総てにこれを追加していくことも出来る。またジャンボにこの総ての「のっけもの」を、乗せてまるでエベレストのように盛り上げるのもアリなのだ。
 言って置くがこの店、普通のカレーでも盛りがいいのである。春先に神保町『まんてん』を知らない新入生が、ジャンボを前に「がんばれよ!」なんて言われているのを見かけるが、今のところ完食の瞬間は見ていない。また、短い余生を大切に思うなら、ある年齢を超えたら決してジャンボには手を出してはいけないのだ。またこの店の客はほとんどが若い学生やサラリーマンであるが、ときどきオジサンを見かける。その顔に遠い昔の青春の陰が見える。きっと若き日に神保町で学生時代を送ったのだろうね。

 さて、神保町で長年、人気を誇っている『まんてん』の秘密はなんなのだろう。どろどろのカレーの表面には白いぶつぶつが浮いている。これは小麦粉のだまなのだろうか? これを口に入れるとすぐには気づかないが鋭角的な辛さを感じる。この辛さが意外なことに心地よいものなのだ。カレーを考えるときに、この辛さをどう作り出すかが決め手となるのだと思うのだが、『まんてん』のカレーの辛さは絶妙な角度(舌にさす強さ)かも知れない。またここのルーはソースをかけると味わいが増すのだ。
 まあ、これを神保町名物というのもなんだが、ここを落とすとこの街は語れないのだ。

mantenn001.jpg
長すぎる神保町暮らしだけど、ときどき『まんてん』の路地が見つからないときがある。どうしてだろうね? ミステリーだ。

manten002.jpg

ウインナーカレー550円は、揚げた赤いウインナーが見秩序に3本。これにミニカップのコーヒー、そしてスプーンは水の入ってコップに入っている

このアーカイブについて

このページには、2006年7月以降に書かれたブログ記事のうちカレー図鑑カテゴリに属しているものが含まれています。

次のアーカイブはカレー図鑑: 2006年9月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。