初めて入ったのはボクがまだお茶の水の学校に入学したばかりの頃。だから30年以上も前のことになるのだ。でもそれ以来、『さぶちゃん』にはとんと縁がなかった。たぶん暖簾をくぐった回数は数えるほどである。だいたい昼飯時には行列を覚悟しなければならない。どうしても『さぶちゃん』で食べたいという知り合いと一度並んだことがあるが、もう二度といやだと思ったものだ。古参の神保町族のボクとしては、この『さぶちゃん』で半ちゃんラーメンを食べるなら夕方がお勧めだ。
赤い暖簾をくぐると、まことに店内は狭いのだ。狭いL字型のカウンターで仕切られた真四角な厨房。椅子に座ると神保町強面三兄弟のひとりとここで顔つき合わすことになる。神保町族なら誰でも知っていることだが隣の『近江屋』、『グラン』とは三兄弟で営むそれこそ兄弟店なのである。そう言えば最近『グラン』が開いていない。店内に改装がはいったようでもあるし、なにやら貼り紙もあった。そのやや薄暗く狭苦しい空間は、建物がきれいに建てかわってからもぜんぜん変化していない。その昔々からの薄暗くて古ぼけた雰囲気のままなのである。
半ちゃんラーメンをお願いすると、使用している麺が細いのであっという間にラーメンがくる。へたにチャーハンを待っていると、早く食べなよと睨まれる。そこに作り置きしたチャーハンがぽんと来るのだ。
さて、大振りで厚みのあるチャーシュー、煮染めたシナチク、細くて黄色い麺に醤油味のスープ。このラーメンは、間違いなく、「いい味わい」であると思う。スープに甘味があるのは、タレに多少、チャーシューを作るときの煮汁が入っているんだろう。このあたりまったくラーメン通ではないのでわからない。でもこのスープ、日常的に胃がただれているオヤジにはなんとも優しいものだ。食い過ぎると胃がもたれてしまうのも忘れて、どんどん大急ぎですすり込んでしまう。
そこに続いてくるのが半ちゃん、すなわちほとんど一人前のチャーハンである。実を言うと過去に一度も半ちゃんを頼んだことはない。なぜなら外食で滅多にうまいチャーハンというのに出くわさないからだ。だから『さぶちゃん』でも単品でラーメンというのを通してきた。そして初めての『さぶちゃん』でのチャーハンはやっぱり「やめとけばよかった」というもの。しっとりとべったりと、口に含むと重い。
さて、今回でやっと10回くらいの『さぶちゃん』。やっぱり神保町名物なんだから一度くらいは“半ちゃんラーメン”という意味合いでわざわざ夕方に店を訪れた。そこで改めて思ったのは“半ちゃんラーメン”と言えば『伊峡』という選択もあるということ。我が神保町仲間によると“半ちゃんラーメン”では『伊峡』の方が先であるという。また『さぶちゃん』は『伊峡』で修業したのだという未確認情報もある。とにかく神保町で“半ちゃんラーメン”と言えば両店しか思い浮かばない。そして“半ちゃんラーメン”を注文するなら『伊峡』の方が半ちゃんがさっぱりしていていい。でもラーメンなら断然、『さぶちゃん』なのである。ここのラーメンは毎日食べても飽きないものだろう。やっぱり行列してまでは食べたいとは思わないが!?