ラーメン・つけめん図鑑: 2006年7月アーカイブ

 千葉県勝浦市にはもう20年以上前からなんども来ている。主にクロダイ釣りに来ていたのが、街自体が好きになって、朝市を見に来る方が多くなっている。
 そんな勝浦朝市を巡って、朝ご飯を食べるのが、下本町の『いしい』である。ここでシンプルな昔ながらの醤油味のラーメンを食べる。朝市で野菜や干物を見ていると、知らず知らずにかなりの距離を歩いている。そしてやっと一息ついて食べるラーメンが近年勝浦での楽しみのひとつとなっている。この『いしい』のラーメンは在り来たりなしょうゆラーメン。澄んだ鶏ガラスープに醤油味、メンマと海苔、チャーシューと具も少なく朝ご飯にピッタリである。きっと小津安二郎の『お茶漬けの味』で鶴田浩二がおいしそうに食べていたのもこんなラーメンだろう。
 その素直なラーメンの味がとてもいい。しょうゆ味のスープはうまいし、チャーシューもうまい。だいたいこの店に入ったのも朝市のオバサンがおいしそうなラーメンを食べていて、それで見つけたのだ。地元の人が昔から食べてきている味にまずいものがあるわけがない。

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中華の『いしい』は月の前半に朝市が開かれる下町にある。
勝浦の朝市に関しては
http://www.fonet.co.jp/YOU-katsuura/asaiti/

 前を通るたびに入ってみたかったのがこの店。3階建ての古めかしい外観。各層に緑色のタイル、そしてコンクリートの仕切、このビルの一番上部には青い丸瓦状のものが見える。このような形式の建物は他ではなかなか見ることが出来ない。
 日本橋本町は昔は古いビルが多くて歩いていても楽しいところであった。それが近年、どんどん取り壊されて高層ビルが目立ってきている。そんなとき『大勝軒』を見るとほっとする。ちなみにこの真ん前の鶏肉専門店とともに、なんとか後世に残せないものだろうか?
 さて、昼と夜の営業でなかなか入るに入れないでいた『大勝軒』。先週やっと夕ご飯をここで食べることが出来た。ラーメンも食べたいし、ご飯も食べたいと思ってメニューを見ると、驚いたことにカツ丼まである。中華にカツ丼あり、というのは意外に古い店に多いのだと思われる。それではカツ丼といきたいところを我慢してラーメンと小ライス、餃子の定食Bにする。これが850円。
 タンメンや餃子などの値段をみると、近年の神田、日本橋の相場からするとやや高め。これは老舗としては良識の線なんだろう。昔は明らかに安い店であったのが新興のチェーン店などがしきりにこのあたりで価格戦争をおっぱじめているのだ。そんなことどこ吹く風でいるのも良いのだろう。

 出てきた定食でまず目に飛び込んできたのがラーメンに入っているハム。ハムはチャーシューの代用なのかと思ったら、それもちゃーんと入っている。上品な醤油味のスープで程良い旨味がある、そして微かに香ばしいのは鶏ガラが主体であるようだ。そしてハムはともかくチャーシューがうまい。豚肉の味わいが残る淡い味つけで、これがいい。麺はかなり細く、これはもう少し太い方がいいと思うのだが全体に好きなタイプのラーメンである。

 ちょっと横道にそれるが最近、小津安二郎の『お茶漬けの味』で鶴田浩二演じる岡田がお代わりまでして食べていたラーメンがうまそうで、うまそうで仕方ない。『お茶漬けの味』はなんども見ているのだが、この場面がいちばん好きだというのもおかしな話だな。でも1952年以前のラーメンの味ってどんなものなのだろう。初めてラーメンを食べた記憶と共に昔のラーメンの味を想像するのだ。
 そして『大勝軒』なのだが、その古きラーメンの味わいに「やや近いものである」と思われる。でも本当に麺が細すぎるのが残念だ。
 餃子の味わいは在り来たりだが、うまい。ご飯がついて満足度もあり、ときどき『大勝軒』には立ち寄りたい。

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大勝軒 東京都中央区日本橋本町1丁目3-3

 最近のラーメン店というのがまったく理解できない。今回の「北かま」というのなど店の造りからしていやな感じだ。自己陶酔的というか見てくれの面白さを狙っているのだろうか? 作り手が劇画の世界の主人公を演じているように感じる。その上、スープや麺にもこだわっています、うまいものを作るために努力していますというようなことをわざわざ書いてある。どうもこのような恥ずかしい行為が今時のラーメンというか麺類の世界に横行しているのはオヤジとしてはいやだな。つけめんでもラーメンでも日常の普通の昼飯として食いたいので、若者の「遊び心」には同調できない。
 さて、その努力の結晶の「つけそば」750円であるが、このつゆは理解に苦しむ。濃厚なカツオの旨味はそうだ節を煮立てて、粉鰹で追いカツオをしたような味わい。それに豚骨かな。とにかくカツオ臭い。これはかつお節の出汁を日常に味わっていないために生まれるものではないか? これなど中野の「永楽」と比べるとわかるのだが、カツオのイノシンが強いほど塩分が感じられなくなる。味わいが鈍角的になる。とうぜんマッタリした味になるのだがボクはこの旨味の勝ちすぎた味わいが苦手だ。そばの味はとてもいい。これはさすがに努力して選んできたのだろう。
 この味わい、好き嫌いが出てきそうだ。そして残念ながらオヤジのボクにはうまいとは思えない。
 このような今時の店は10年後にも同じようなスタンスでやっていくのだろうか? それではその店の定番的な味わいが出来るのだろうか? この手の「遊び」には着いていけないな。

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北かま 東京都千代田区神田神保町1丁目24-5

中野「永楽」

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 この中野でアルバイトをしていたのが今をさること30年も昔のこと。当時の中野といえばブロードウェーこそ賑やかだが早稲田通りにでると途端に住宅地となり、また小さな工場もあるといった静かなところであった。その中野通りと早稲田通りの交差点近くにあるのが「永楽」である。
 この店、30年前、外見的にはいたって普通の一戸建ての中華料理の店。あまりきれいとは思えなかったので、その時点で開店からかなりの月日が流れていたのだろう。それがビルに入って少し狭くなっているように思える。メニューも当時は確か餃子や炒飯もあって、そこにうまい「つけそば」があるといったものだった。味がいいのは界隈でも有名であったようで昼時は並んだものだ。また並ぶにしても周辺の工場で働く人たちやサラリーマンといった客層がほとんどだった。今ではカンバンに「和風つけめん 永楽」とある。並ぶのもいかにも有名店を食べ歩いているといった若者たちばかりだ。
 当時から注文されるほとんどは「つけそば」であった。考えてみると、ここではほかのメニューをたのんだことがない。そして30年振り、やっぱり「つけそば大」を注文する。
 出てくると、まず驚くのが麺の太さと盛り加減。そこに平凡などんぶりに汁が入っている。まず、旨さの秘訣は汁にありと思う。醤油色の汁にメンマやなるとを刻んだもの、チャーシューに海苔がかかっている。この具をかき分けて口に入れるとすぐに酸味が感じられるがこれは酢ではないような。旨味というかイノシンからくるものだろうか、もしくは少ないながら酢も使っているのだろうか。当然イノシンなのだからかつお節風味である。そしてかなり塩分濃度が強く、しょうゆ味で鋭角的な味わいとなっている。その強い味わいだからこそ太い麺が来ても負けないのだ。
 久しぶりに対面する大盛り過ぎる麺が最後まで飽きないで食べ終えることができた。これは麺の旨さとともに汁の力である。
 初めて食べたときから病みつきになり、毎日毎日欠かさず通ってきた。それが、まさか30年も途絶えるとは思ってもみなかった。今回入店して、店自体は変ぼうしているが厨房の雰囲気は変わっていないのに気づく。それ以上に味も変わっていないのに驚いた。麺を食べ終えたら汁のどんぶりを厨房に持っていく、するとスープを加えて返してくれる。これがまた絶品である。フワンと立ち上るのはカツオ節の風味、そこにプラスの旨味があってこれは鶏ガラだろう。またどうしてもわからないのが酸味。当然、明日も来てやると思いながら店を後にする。
 でも次は何年後にくるのだろう?

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 お馴染みの神保町も交差点から水道橋に向かうあたりは本屋がないのであまり足が向かない。唯一、そば屋の「吉風庵」というのがあり、食後、そこから白山通に出ようとして見つけたのが「ひまわり亭」である。
 ここは白山通にほぼ面していて、立地条件は最高にいい。ただし老舗の「さぶちゃんラーメン」、侮れない「梅本」、尾道ラーメンというのもあり、また激安のラーメンチェーンもある。
 そこに堂々開店。全体が黒っぽい壁に囲まれていかにも意味ありげ、しかも大きく「究極のスープをどうぞ」とあるではないか? これなどボクぐらいオヤジになると「バカみたい」に幼稚に見える。ただ、新しい店は見つけたらとりあえず入ってみる、ということで数日後怖々入店してみた。外面がいかめしい割に店内はいたって普通。なんの変哲もない。券売機にはそこそこにメニューが並んでいるが、初めてなのでスタンダードに醤油ラーメン500円。カウンターに座ると目の前に「高菜ごはん、味噌豚丼、カレーライス各150円」とある。「へ〜、がんばっているな」と思ってカレーも頼む。
「究極のスープ」なのに500円は弱気だ。また店主らしき男性も見たところ影が薄い。最近、やたらテレビに出ている格闘家まがいのラーメン店主からすると「大丈夫か?」と言いたくなる。
 出てきたのは、微かに濁りの出た豚骨とも鶏ガラともつかぬスープ、そこに豚バラ肉の軟らかそうなチャーシュー、メンマとネギという色味にかけるもの。さっそくだから「究極のスープ」をすする。これが残念ながらいたってありきたりなものだ。味のバランスはいいだろう。でも脂が浮かんでいるのだが、それがなんだかどんよりと重い。これは明らかにイノシン系の旨味が足りぬせいだ。そこに脂のまったりしたのが邪魔をして豚や鶏ガラから出ている旨味もぼやけている。麺はそこそこスープに合ったもの悪くない。そしてこの脂っぽいスープにチャーシューがまた輪をかけて脂っぽい。このチャーシュー味はいい。ただこれがが生きるのは反対にさっぱり系のスープではないか。この系統のスープを押し通すならチャーシューは肩ロースなど部位を変えて、また本来の「焼く」チャーシューにするといいだろう。
 また脇にあるのが、たぶんこれも自慢のカレーであろうが、中途半端に平凡すぎる。これは自家製のカレーなのだろうか? 味に奥深さというかスパイスの造り出す玄妙さが感じられない。ここまで在り来たりなら家庭的なカレーを提供したらもっとインパクトがある。
 さてそれでは「ひまわり亭」は総合的にどうなのか? というと、合格かな。考えてみると500円でラーメンを提供するというのは大変なことである。これが荻窪だったら瞬く間に消え去るだろうが、神保町の懐は深い。腹減り学生には650円でカレーまで食べられるが歓迎されそうだ。また若ものたちには外観と中身のギャップもまったく気にならないだろう。
 できればラーメン界の「まんてん」を目差せばいいのではないだろうか? 「ひまわり亭」は。

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