洋食の最近のブログ記事

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 日本橋人形町、両隣に「快生軒」、「玉ひで」という老舗がある。二階建てなのか三階建てなのかわからないが、正面は看板建築。ということは隠れているのは二階建ての日本家屋なのだろう。

 白いのれんをくぐるとなかにはお年を召した女性がひとり。ボクを見ると奥に行き、なんと緑茶を運んできてくれる。お水でないところが、おもしろいな。

 細長いテーブルに白い布をかぶせたイス。机の上にはガラスのソース入れ、ステンレスのナプキン立てが懐かしい。


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 洋食屋に入ったらほぼ100パーセント揚げ物をお願いするのだけれど、店内の古めかし懐かしい雰囲気に、これまた懐かしいオムライスをお願いする。

 お願いするとご飯を炒める音とケチャップなのだろうかトマトの香りが漂ってくる。卵をかき回す音がして、ほどなくオムライスが出てきた。


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 ケチャップライスに鶏肉が入っているのがわかるので、いたって普通のチキンライスを卵焼きでくるんだ、典型的なオムライスだ。上から見ると円に近い形。普通、この卵焼きにケチャップかドミグラスソースがかかるはずが、なぜか甘いあんがかかっている。

 あんというが鰹節だしではなく、ソース、もしくはケチャップをスープで溶き、あんにしたようなもの。かなり甘い。

 このオムライスの上に甘いケチャップ風味のあんというのも、ここの創業者が修業した店のやり方なのであろう。とすると戦前、昭和期に入ってすぐから営業していた創世記の洋食屋のやり方を今に残していることになる。

 味的には取り立てて書くほどのこともないが、間違いなくときどき無性に食べたくなるであろう、味だ。

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 浜田市紺屋町は古い家並みや商店が残っていて、なかなか魅力的なところだ。
 時間があれば一度じっくりと無駄歩きしてみたいと思っている。
 そんな紺屋町で見つけたのが『食堂 自由軒』である。
 店の表からは新しいのか古いのが判然としない。
 ただ「港町」、「自由」という文字から、明治2年に洋食の国内での始祖草野丈吉が大阪で開店した『自由亭』が思い浮かぶ。
 明治、大正、昭和と「自由」という言葉は至ってモダンであった。
 とすると創業は何年だろう。
 聞いてみると昭和8年と非常に古い。
 東京都内、例えば「煉瓦亭」や「たいめい軒」といった老舗と比べても、古さで負けていないだろう。
 島根県浜田市という鄙びた地方都市が昭和初期、モダンで先進的な土地であったことが、ここに想像できる。

 店の壁に大きな写真があってオムライスとカレーがある。
 その上の看板が変に小ぎれいで薄っぺらなのが気になる。
 この看板類は、せっかくの古い歴史を、隠すマイナスの結果となっている。

 この外から、中に入ったときのギャップが凄い。
 まずは店内が薄暗い。
 壁に打ち付けた合板の色合いが焦げ茶色で、細長い蛍光灯が並んでいるのだけど、晴天の外光に負けてしまって、照明器具としての勤めを果たしていない。

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 お客は老人がひとり。
 テレビを見ていて、そのニュースというのが隠岐水産高校の練習船が追突沈没したこと。
 ちょうど乗り合わせていた教官が、幼なじみの大谷一雄なので画面に見入ってしまう。

 さて、なににすべきかと悩みに悩み、結局表にあったオムライス650円に決める。
 ここで同行していたバシ君とダイコクさんが和定食750円を注文する。
 この約2名の「ものを考えない」資質に疑問を感じる。
 洋食屋に来たら洋食を食べるという良識のある選択、君たちには出来ないのかね?
 ちなみにやって来た和定食のうまそうであったこと。
 かなり悔しい思いをした。
 バシ君、特に君は弟子としては不貞だ。
 心のなかで頭を「バシバシ」してやる。

 ほどなくやって来たオムライスはいたって在り来たりのもの。
 出色ではないが玉子焼きが香ばしく、ケッチャップライスもほどよくうまい。
 残念なのはベチョベチョナポリタンとかポテトサラダがついていないこと。
 まあ、これはボクのあまりに個人的な好みなので、これ以上言うまい。

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 とにかく、なかなか満足至極のオムライスであった。
 これなら浜田の『自由軒』でオムライスも悪くない。
 次回、浜田のお昼はカレーライスにしようかな?

 支払いに立つと、この店のレジスターに目が釘付けになる。
 まことに古めかしいもので、これは「レジ」ではなく明らかに「レジスター」なのである。
 ガチャチンと支払いを済ませて、大急ぎでクルマに戻る。
 浜田市での自由な時間はあっという間に過ぎていく。
 思うに公務員のお昼時間、短か過ぎないだろうか?
 公務員だって人間なんだ、昼飯ぐらいゆっくり食わしてやれよ、なんて思う。

 急ぎ、帰る道すがら、『自由軒』のお隣にあった『くずの花』(ここが当初の目的だった)という食堂が気になってくる。
 まことに浜田市には面白い飯屋が目白押しなのだ。

島根県浜田市『自由軒」
http://www2.crosstalk.or.jp/jiyu/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 バーニャカウダはイタリア北部ピエモンテ州の料理だという。実を言うといちども食べていないのである。それをjasminさんのレシピだけを頼りに作ってみる。
材料
オリーブオイル  ひとり50mlていど
アンチョビ    ひとり1枚
バター      75g
ニンニク     人数+1片
くるみ      2個~3個
牛乳       少々
(予め断って置くがボクは一度も分量を量ったことがない)

1 ニンニクは皮を剥き芯を取り除く。
  (ニンニクは好きなのでたっぷり使う)
2 アンチョビーは塩漬けの場合流水に数分さらし塩抜きしておき、その後 よく水分をふく。
 オイル漬けはオイルをキッチンペーパーなどで拭き取るだけ。
 (自家製のアンチョビーが切れているのでオイルサーディンを使う)
3 好きな野菜を食べやすい大きさにカットして皿に奇麗に盛りつける。
調 理
1 小鍋にニンニク・クルミを入れて被る程度の水を入れ、弱火でニンニクが柔らかくなる程度まで煮る
  (クルミは大好きなのでたっぷり使った)
2 さらに、材料が被る程度の牛乳を注ぎ弱火る。
  沸騰させないように。
3 アンチョビーを加え中身を、ヘラかフォークの背で潰し、良く練り合わせる。
 しばらく、弱火で焦げ付かないように滑らかなペースト状にします。ミキサーにかけるか、すり鉢を使うほうが簡単に上手く滑らかになります。

 出来上がったのはかなりどろどろの胡麻味噌状のものである。これがクルミの風味にニンニクの微かな臭み、そして甘味が加わった不思議なもの。これを自宅にある限りの野菜につけつけ食べるに「かなりうまいのだが、これが本当にバーニャカウダというものかわからない」と言った代物。
 次回にはアンチョビーを用意してクルミと牛乳を少なくしてやってみるつもりだ。

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 ボクの無駄歩き1時間コースに「京橋、INAXブックギャラリー→沖縄物産館→有楽町交通会館→JR有楽町駅」というのがある。そのときくぐるのが高速道路下の銀座というのは名ばかりのインズという不思議な商店街。3つのフロアに分かれるがなかでもいちばん東側にあるインズ3が1970年の香りが残っていて「時代に取り残され加減」が大なのだ。
 ボクはこのインズ3を通る理由もなく通るのだが、そこにあるのが『ジャポネ』というスパゲッティ屋である。カウンターだけの店で中にフライパンを振るふたりの男が、そしてレジらしきところにまた無骨な感じの男がいる。この店はいつ通っても丸い座席が7割方埋まっている。
 このインズ3を通り抜けるのは何十回、そろそろ百回になるかも知れない。そのたびに一度食べてみたいと思いながら、そのカウンターの上に並ぶメニューの多さに、圧倒され断念してきた。でも今回はそこに「ジャポネ」というものを見つけて初めてカウンターに座る。すなわち『ジャポネ』で「ジャポネ」を注文するという大義名分が出来たというわけだ。

 実をいうとカウンターでスパゲッティ、しかも茹で置いたのを炒めて出すという店に通っていたことがある。それはかれこれ30年も前のことで、新宿紀伊國屋書店の地下にあった。店の名は「オーマイ」だったか「ママー」だったか忘れたがスパゲッティの銘柄と同じ。ここで毎日のように「シシリアン」というのを食べていたことがある。注文するとレバーを炒める。そこになにやら油のような水のようなものを振り入れ、あっというまに出来上がるのだ。店は品のいい女性がしきっていた。「シシリアン」がくると粉チーズとタバスコをたっぷりかけて食べる。ナポリタンもタラコもあったと思うのだが、その時期、むきになって「シシリアン」だった。
 その店を思い出して、席についたものの、カウンターの向こうは新宿の店の数倍荒っぽい。強火のガス台は燃えっぱなし、大きなフライパンにどんどん茹でスパゲッティを放り込んで具になる肉や野菜をこれまた放り込む。その間にも客は絶えず「ジャリコ」だの「チャイナ」だのスパゲッティの範疇を飛び出した名の注文が飛ぶ。

 結局わけがわからず、目の前に来たのは醤油味、玉ねぎ、小松菜、豚肉入りの炒めスパゲッティ。「まーあ、このお皿見てくださいね。ハイハイハイ」なんて淀川長治が目に浮かんでくる。どっどっどっと70年代そのもののサイケな文様の長楕円形プラスチック皿。これって万博や「帰ってきたヨッパライ」なんて時代を思い出すよな。
 ちょっと驚きつつ、フォークでクルクル、フォーククルセイダーズなんて言いながら、一口食べてみると、醤油の香ばしさ塩辛さがほどよく、なかなかうまい。生っぽい小松菜の辛さもいい。しかも食べていて軽い。粉チーズのボウルとタバスコもあって、これもドバドバかけてクルクルクルクル、なくなるのはあっという間だった。しまったー。画像のものがレギュラーなんだけど、この上にジャンボ、横綱という大盛りサイズがある。ジャンボでも良かったのである。

 横綱はともかく、このジャンボというのも、今では忘れられているだろうが1970年前後に日本航空がボーイング747を導入するときに流行った言葉なのだ。だいたいプロレスラーでも1960年代にはジャイアント馬場であり、1970年代にはジャンボ鶴田だった。また日本航空が初めてジャンボジェットを導入するというのにからませた筋書きの田宮二郎主演の『白い滑走路』というドラマも1970年代であったと記憶する。

 いかんいかん、どんどん『ジャポネ』から話がずれていく。ずれていくついでに、この店のオヤジ度はすごいのである。そのときの女性客はひとりだけ。主にサラリーマンの窓際族に違いない系オヤジと、大食い系30代むさい系男、このカウンターに座っているのは、そんな軌道をずれていそうな人々ばかりである。ということはボクなど『ジャポネ』に座って絵になる男の一人ではないか。

銀座インズ
http://www.ginza-inz.co.jp/

『さぶちゃん』『近江や』『キッチングラン』は3兄弟である。そのなかでもっとも利用回数が少ないのが『キッチングラン』だと思う。だいたい学生時代には一度も入っていない。お茶も水界隈には明治、専修、中央、東京電気、それに大原簿記学校、アテネフランセ、文化学院、お茶美、など数知れずの学校があって、それぞれに微妙な縄張りがあったように思う。この靖国通りから白山通りを水道橋方面に曲がるというのが、ボク達の学校からすると、やけに遠く感じた。

 初めて入ったのは仕事を始めて数年経ってからである。知り合いの古本屋店主が夕ご飯を食べに行くというので、のこのこついていった。そこで食べたのがメンチカツだったが、やや量的にももの足りなかった。知り合いの古本屋が注文したのはセットメニューというやつで、「さすがは常連」だと感心する。それから10年単位で2回、3回食べに行く程度。忘れた頃に入る店というのが『キッチングラン』なのである。だから神保町怖い顔三兄弟でも、この店のオヤジだけ顔が浮かばない。

 今回、夕食を食べる気になったのは、この店が長い間しまっていたためだ。それにかれこれ10年近く店に入っていない。その素っ気ないサッシのスイングドアを久しぶりに入っても、初めて入った気分である。厨房には三兄弟にしては若すぎる男性。どうもこの店は代替わりしてしまったようだ。

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 今回初めてハンバーグ、そしてショウガ焼きセットにする。これがちょっと失敗であった。記憶が正しければメンチの味はいいのである。それがハンバーグは焼き置きしたものであるようで、味は悪くないが、からめたドミグラスソースもなんだかうまいものではない。ついでにショウガ焼きも平凡だ。ただしつけ合わせのせん切りキャベツ、ヘナっとした酸味の薄いナポリタン、こう言うのが大好きなので、この定食の評価は低くはない。そう言えばナポリタンは茹ですぎて冷めてヘナっとしたのがいい。田舎の国道沿いの喫茶店なんかでエイヤ! と真面目に作ったのが出てくるとがっかりする。ナポリタンを神保町・お茶の水族が一品として注文するのは『さぼーる2』だけだ。

 今回改めて思ったことだけど、この店のよさは、この平凡さにあるようだ。ちなみにボクの知り合いには幾人もの、この店の常連がいる。考えてみると彼らからも特別この店の味の話が出たことがないのだ。これなど須田町の『松栄亭』とは対照的だし、また『キッチン南海』のカツカレーのような特筆すべきメニューもない。この店にあるのはいたって普通の昔ながらの洋食屋然としたところ。そこが多くの常連を惹きつけている。そんな気がするのだ。

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 浅草、千束と無駄歩きして馬道通のあまりの喧噪にはっきりいって嫌になってしまった。そこで唯一、へんてこりんな、そして味があるなと思ったのが「洋食 大木」である。
 出来れば日本堤の天ぷら屋で遅い昼食を食べたいと思っていたのが、あいにく定休日。それで北に歩き、南千住まで足を伸ばすのか、南に下がって、すぐ帰ってしまうのか、考えあぐねて結局浅草までもどることにした。
 遅い昼食は帰り道の「大木」でとることにする。店の前に来る。この真正面からの店の佇まいがなんともいい。臙脂と白の日よけ、その下に鉄の棒が半円を作り、そこに白に黒文字の短い暖簾。「大」の文字がまっぷたつに割れてしまっている。

 脇にある品書きも手頃である。とんかつ定食850円というのを見て、引き戸をあける。あけた途端に目に飛び込んできたのが立川談志の色紙。よく見ると談志一門の写真、野末珍平も見える。紙焼きの写真があちらこちらにあって、とにかく立川談志、立川談志が並んでいる。

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 中に立川談志の短冊があって
「豚カツは薄くないと不可ない」
 と読めるんだけどどういう意味なんだろう。
「豚かつは薄くないとうまかない」と読むべきか。
 店を見回しているうちに「とんかつ定食」じゃなくて、オムライスが食べたくなってきた。

 と、そのときテーブルに大判写真がどさりと置かれて、オヤジさんが唐突にいろいろ説明を始めてくれる。なんとかオムライスを注文するが
「これが聖天様」だとか「小石川植物園の雪吊り」だとか写真の説明をしていたいらしい。

 そして出てきたのがいかにも不思議なケチャップ模様のオムライス。ケチャップのどろどろ感が不気味であるがポテトサラダが脇について懐かしい雰囲気を漂わせている。

 まあ味の話は置いておくけど、親子丼にカツ丼、カレーライスにラーメンもある昔ながらの食堂で、昭和にもどってしまうのも楽しいだろう。

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東京都台東区浅草5-45-13

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 下町には洋食屋が似合う。これはボクの勝手な思い込みかも知れないが、無駄歩きのついでに洋食とビールというのが本当に楽しいのだ。そう言えば何でもありの「食堂」というのにも“洋食系”と“中華系”があって、ボクは洋食メニューの多い方が好きだ。
 すでにあたりは暗闇となった錦糸町、駅がすぐそこという所にきて見つけたのが「洋食 斉藤」である。外見はなんとなく暗いイメージ。その店頭にあるご託宣の多さが少々気に掛かる。また値段は1000円前後と高めでもある。でも最近はほとんど昼食抜きなので、思わず入り口のドアを押してしまった。あまりの空腹に理性が失われているのである。
 入った店内が思わず後ずさりするほど整然としている。そして女将さんらしき人の雰囲気がやたらに硬く感じられるのだ。入って正面左に厨房とカウンター、右にテーブルがある。そしてこの店が外見からすると意外なくらいに奥行きがない、細長い。カウンター奥の席に着くと、厨房の店主らしき人がいかにも洋食屋然としている。なんだか神経質そうである。そして水を持ってきた女将さんがいきなりライスは別ですからと、とってつけたようなことを言うのだ。
 初めて入った店なので無難にメンチカツ950円とライス200円。注文を受けると、なにやら店主はメンチカツの中身をこねているような。そしてなかなか揚げようとしない。ボクの後に続くように一人二人とお客が入ってくる。気がかりなのはカウンターの出口あたりに巨大な女性が座ってしまって、どうも出られそうにない。その二人が注文したのが“ハンバーグシチュー”というもの。どうもこれがこの店の名物らしい。
 メンチカツはなかなか来ない。空腹感を我慢しながら厨房を見ると、店主が神経質そうにメンチを揚げ始める。そして刻んでいるのはキャベツだろうか? なんだか繊細な動きだな。
 そして女将さんがメンチを持ってきて、「ご飯は左ですよ」と言って置いていったのだ。これには驚いたなモー。この店、ひょっとして逆に置くとレッドカード退場なんてこともあるんだろうか?(レッドカードが退場だっけ、それともイエローカードが退場かも。間違ってたらご免の助)
 まあ、女将さんの態度は気にしないことにしてと、このメンチがこれ以上ないというほど端正なのである。つけ合わせの野菜も美しい。しかも、その見た目通りにメンチもうまい。ご飯もみそ汁もいい味で完璧ではないだろうか。
 でもその喜びはお隣に“ハンバーグシチュー”が来たことで総て消えてしまった。それがあまりにうまそうだったからだ。

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 我ながらつくずく勘の悪いヤツよと嘆く。それは今更、後悔しても後悔しきれるものでもない。仕方がない、改めてここに来るしかないのである。そして寂しく店を出ようとしたら、やはりカウンター出口の女性は大きすぎた。そのこには負けるが、ボクだって誰が見てもデブなんである。店から出るのに悪戦苦闘数分。まるで虎の穴から脱出するようだった。


洋食 斉藤 東京都墨田区錦糸2-5-7

 愛知から持ち帰った2種類の「ミラカン」、もしくは「あんかけスパゲッティ」の作り方に「太麺(2.2ミリ)のスパゲッティがピッタリ」と書かれている。
 それで「オーギ亭チャオ オリジナルソース」、「ヨコイのソース」を食べるにあたって、その2.2ミリのスパゲッティというのを食材屋【調味料、乾麺、油などを専門に売る】に探した。八王子の市場には8軒の食材屋があるのだけれど、どこにも2.2ミリがないのだ。
「スパゲッティというのはね、2ミリが標準だったの。喫茶店のナポリタンね、あれは2ミリに決まっていたわけ。それが最近細くなって1.6ミリなんかがいちばん売れるんだよね。2ミリだってうちに置いてあるのは『昭和スパゲッティ』の4キロだけ、2.2ミリなんてどこにもないよ」
 これは知り合いの食材屋から聞いた話。
 とすると、愛知には2.2ミリのスパゲッティを売っていたんだろうか?
 この2種類のソースを食べてみると、確かに1.6ミリで作ると「あん(ソース)」がからみすぎてうまくない。それで2ミリで試すとやはり「太い方がいいんだな」と得心がいくのだ。
 しかし、これを早く気づくべきだった。ひょっとして愛知のスーパーに2,2ミリのスパゲッティがあるとしたら、それも「愛知ならでは」のもの。残念!

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右に見えるのが昭和スパゲッティの2ミリ。他の太さのものはいくつかのメーカーが揃えているのに、2ミリはたった1種類だけ

「コーヒーと洋食の店」とあるので「入るべきかやめるべきか」考えてしまった。外見からするととても「入りたい」店なのだ。内海隆一郎の小説にでも出てきそうな、こぎれいで情緒に富んだ店の趣。しかもかなり空き腹である。これは近年昼食をほとんど食べなくなったせいだ。食べても軽く一膳、しかもお茶漬けだけだったり、お菓子でごまかしたり。
 そんな空腹で森下町交差点そばの「鍵」の前に立っているのだ。結局空腹に押されて店内に入る。テレビの前の席に老人が座っていて、入るや否や席を立ち、奥に消えた。どうもこの店の方らしい。そしてその奥さんだろうか出てきてメニューと水、おしぼりを置く。店内はチョコレート色の腰板、そしてテーブル、テーブルの表が白いだけで壁は沈んだ濃いベージュである。その壁にはメニューも、ポスターも貼っていない。なんとも清潔で静かな店内である。
 メニューを見るとハンバーグやカツ、オムライスなど。お勧めを聞くとハンバーグであるというので、それを注文。ライスは別であり、ハンバーグとビールもいいな。でも考えた末にビールではなくライスを注文する。合計850円。学生街から高額な都営地下鉄に乗り、森下町で下りる。学生街ならハンバーグライスが650円で食べられるが、下町にきて850円というのは、ちょっと贅沢なのだ、貧乏なオヤジには。でもでも、この「鍵」での一時がよかった。
 後からご婦人が来店してきた。この女性の座った席が奥に近いところ。100円玉をコロコロと置くと、この屋の老婦人が自然と前に座って、旅行や会の話を始めた。そしてコーヒーが来て。またご婦人方は話し始める。その話しぶりが、とてもいいのだ。浅草などでやたらに目立つオバサンに出くわし、堂々と大声で個人的、あまりに個人的な話をしているのに出くわす、また学生街では若者がそのようなことをしでかす。でも、ここでの話はつましく、しかも自然でふたりのご婦人、そして店主らしき老人も含めて適度な友好が見られてとてもいい。こんな些細なことから、ついつい森下町にたった一人で住んでみたくなる。いいな森下町とも思う。
 まあ、そんな一時があってハンバーグが到着。これがとても端正な昔ながらのもの。ハンバーグ自体は平凡だが、そのソースがとてもうまい。個人的には上質のドミグラスは味気なくもの足りないと思っているが、ここのはそんなもんではなく、ちょっと酸味があってしかも明確な味わい。ご飯に合う。
 食べ終わるのはあっという間だった。時計を見てコーヒーで長居したいのを我慢する。そして近所にスーパーがないか聞くと、「フジマート」までの道を懇切丁寧に教えてくれた。本当にいい気分で歩く、森下町であった。

「鍵」は新大橋通、馬肉の「みの屋」のそばにある。

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 今月初めだろうか仕事場で「あの白山通りに洋食屋ができてますよ。そして行列がすごい」という話を聞いたばかり。そんな夕暮れに、その「もとはサンドイッチ屋、それからカレー屋となって、こんどは洋食屋に変ぼうした」角の小さな店に入ってみた。
 神保町交差点からほんの少し水道橋方面に歩いたところ。入ってすぐにカウンターが奥に続き椅子が5つ6つ? 奥にはテーブルが見える。そして左手に厨房がある。ここでやや白っちゃけた髪の薄い神経質そうな男性がフライヤーにエビフライを入れている。この男、年齢不詳である。座席に着くと、神保町には不似合いなオバチャンにいきなり、「席を前に寄せてね」と注意される。このオバチャンはこの男性のお母さんであると見たが間違いだろうか? 午後7時前、席は7割方埋まっている。

 メニューを見てエビフライやコロッケときて「とんぷら定食」というのを見つけてお願いする。こ「豚」の「ぷら」だから豚肉の天ぷらだろう。そう言えば岩波書店の近くに『末広』というカウンターだけの名物食堂があって、ここでは「とん天」といっていた。あの味わいが懐かしい。
 注文して改めて店内を見回すと定食はすべて650円であるのが判明する。これはなかなか嬉しい値段である。

 そして待っているといろんなことが目に付いてくる。この男性、非常に不器用そうに見える。きっと開店したばかりで、勝手が悪いのかも知れないが、手順の狂いがはっきり見える。また、このオバチャンがぜんぜん客の順番や注文を覚えていない。見るともなく見ていると厚みのある豚肉に衣をつけて揚げているのだが、明らかに油から出すのが早い。当然火が通っていないわけで、サクサクっと包丁を入れたものをまた油に放す。この「とんぷら」が左の男性にいき、すぐにこちらにもきた。カウンターにはかなり待ちくたびれている人がいて、大丈夫かなと思っていたら、やはり順番を間違えていたようだ。

 この順番を違えた「とんぷら」であるが、なかなか味がいいのだ。しょうゆとソースが置かれていて、迷わずにソースをかける。これは西日本の生まれなのでいたしかたない選択。衣がフライに負けないくらいしっかりしていてやや香ばしい、厚めの豚肉も軟らかく揚がっている。下味のつけかたも適度だ。つけ合わせの野菜のバランスもほどほど。残念なのはご飯がやや軟らかく、そのクセふっくらとしていない。これは米自体(値段ではなく炊飯器との相性)から見直した方がいい。そして、ここに着いてくるのがコンソメ風味のスープなのだけど、みそ汁だったらいいな。

 この店主さん、どうも厨房の立ち居を見ているとかなり神経質であるようだ。肩の力がとれてうまくこの店の平面に慣れ調理の手順を会得し、少し年齢を重ねると神保町になくてはならぬ店になるかも。また、このオバチャンが、困った人ではあるがいいのである。できればずーっとこの不安感を残したまま店を続けて欲しい。ボクの年齢にはこんなこともとても楽しい。

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