洋食: 2006年7月アーカイブ

 今月初めだろうか仕事場で「あの白山通りに洋食屋ができてますよ。そして行列がすごい」という話を聞いたばかり。そんな夕暮れに、その「もとはサンドイッチ屋、それからカレー屋となって、こんどは洋食屋に変ぼうした」角の小さな店に入ってみた。
 神保町交差点からほんの少し水道橋方面に歩いたところ。入ってすぐにカウンターが奥に続き椅子が5つ6つ? 奥にはテーブルが見える。そして左手に厨房がある。ここでやや白っちゃけた髪の薄い神経質そうな男性がフライヤーにエビフライを入れている。この男、年齢不詳である。座席に着くと、神保町には不似合いなオバチャンにいきなり、「席を前に寄せてね」と注意される。このオバチャンはこの男性のお母さんであると見たが間違いだろうか? 午後7時前、席は7割方埋まっている。

 メニューを見てエビフライやコロッケときて「とんぷら定食」というのを見つけてお願いする。こ「豚」の「ぷら」だから豚肉の天ぷらだろう。そう言えば岩波書店の近くに『末広』というカウンターだけの名物食堂があって、ここでは「とん天」といっていた。あの味わいが懐かしい。
 注文して改めて店内を見回すと定食はすべて650円であるのが判明する。これはなかなか嬉しい値段である。

 そして待っているといろんなことが目に付いてくる。この男性、非常に不器用そうに見える。きっと開店したばかりで、勝手が悪いのかも知れないが、手順の狂いがはっきり見える。また、このオバチャンがぜんぜん客の順番や注文を覚えていない。見るともなく見ていると厚みのある豚肉に衣をつけて揚げているのだが、明らかに油から出すのが早い。当然火が通っていないわけで、サクサクっと包丁を入れたものをまた油に放す。この「とんぷら」が左の男性にいき、すぐにこちらにもきた。カウンターにはかなり待ちくたびれている人がいて、大丈夫かなと思っていたら、やはり順番を間違えていたようだ。

 この順番を違えた「とんぷら」であるが、なかなか味がいいのだ。しょうゆとソースが置かれていて、迷わずにソースをかける。これは西日本の生まれなのでいたしかたない選択。衣がフライに負けないくらいしっかりしていてやや香ばしい、厚めの豚肉も軟らかく揚がっている。下味のつけかたも適度だ。つけ合わせの野菜のバランスもほどほど。残念なのはご飯がやや軟らかく、そのクセふっくらとしていない。これは米自体(値段ではなく炊飯器との相性)から見直した方がいい。そして、ここに着いてくるのがコンソメ風味のスープなのだけど、みそ汁だったらいいな。

 この店主さん、どうも厨房の立ち居を見ているとかなり神経質であるようだ。肩の力がとれてうまくこの店の平面に慣れ調理の手順を会得し、少し年齢を重ねると神保町になくてはならぬ店になるかも。また、このオバチャンが、困った人ではあるがいいのである。できればずーっとこの不安感を残したまま店を続けて欲しい。ボクの年齢にはこんなこともとても楽しい。

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 いつものように、日本橋室町に散髪に行って、理髪店から出ると夕闇迫りくる時刻。いつも空きっ腹を抱えて地下鉄に下りるのだが、たまには日本橋で飯を食って帰ろうかと思い至る。懐にはちょっとした臨時収入がある。洋食がいいなと高島屋裏の「たいめいけん」を目差す。

 室町から昭和通方面に歩き、すぐに路地に曲がる。日本橋の通りには新しい無粋な建物がニョキニョキ建って町歩きの楽しさがどんどん失われている。でも、路地にはいると今でも古めかしくも懐かしい建物がそこここに残る。その本町の路地に入ろうとして目の前に現れたのがこの店。店の前にエビフライとカツ1450円、ハンバーグとイカのソテー850円とあって値段も高くない。しかも魚貝類を食べてカツ、もしくは大好きなハンバーグ。これはなかなか魅力的なのだ。

 この店で惹かれたのは外観のこぢんまりとして無駄な装飾が見られないこと。これが店内に入っても心やすい雰囲気で一人で入っても居心地がいい。
 席につくとすぐにスポーツ新聞がテーブルに置かれた。そして生ビールの小をとりあえず頼むとえびせんとピーナッツが小皿で出てきて、ここで思い出したのだが、この店、過去に入ったことがある。絶対にある。デジャビュではない。何時来たんだろう? まさかこの店、近くの大伝馬町でアルバイトをしていた30年近く前にもあたんだろうか?

 メニューを見て、やはりセットでと「ハンバーグとイカ」を注文すると今日は終わっていますとのこと。セットで残っているのは「エビフライとカツ」。ちょっと贅沢だが「えいや!」と注文する。逢魔が時の生ビールがうまい。ほどなく出てきたのがデカいエビフライとカツ。エビフライにはタルタルソース。カツにはドミグラスソースがかかっている。つけ合わせの野菜もたっぷりで見た目は見事だ。
 ただ、好みの問題だがエビフライに「頭はいらない」と思う。例えばエビの頭部はコライユだけ取り除き、これをソースに使うとか、別途考えて欲しい。見た目だけ優先して頭をつけて揚げているのだろうが、ステンレスのオーバルの上でも邪魔で仕方がない。
 また食事をするとして、ご飯を選んだときにカツにドミグラスというのが好きではない。ここにウスターソースがあったらいいなと切に思う。こんなとき近くの「たいめいけん」ならツバメソースがちゃんと置かれているのがありがたい。
 カツも見てくれの大きいエビフライも思ったほどに満足感のないもの。これはどうもメニュー選びを間違ってしまったようだ。
 帰りは日本橋を渡り、東京駅まで歩く。

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レストラン桂 日本橋本町2-8-7

 ぜひともこんな店が近くに欲しいと痛切に感じたのが入間市の「タジマ」である。なんとなく小腹が空いて入って、いちばん値段の安いハンバーグを注文したらこれがまことに素直にうまいものであったのだ。しかもご飯、みそ汁かスープがついて600円。
 平日の午後、店内には暇そうな主婦達。そこにどのテーブルに座ろうかとデカイ腹のオヤジが入ってくる。そういえば店のカンバンには藤村有弘というかドンガバチョにそっくりなイラスト。やはりハンバーグときたらデブオヤジなのである。
 窓際の席を見つけて外を見るとこきたない中華料理屋「十八番」が見える。ここも外見のすごさに違わずうまそうではあるが、レストランの雰囲気からするに落差を感じる。ここにメニューと水を持ってきたのがほどよい存在感の娘さん。なかなか可愛らしく、それでいて清楚な感じがする。
 それほど飢餓の状態にはないのでハンバーグと生ビール小。「ハンバーグにはご飯の他にスープかみそ汁がつきますが?」と聞かれたが水分はビールで充分なのでお断りする。かっこいい!
 ほどなく生ビール。これがうまいのだ。いったいどこのメーカーなのか? 聞こうと思ったらじゅうじゅうと音を立ててハンバーグが到来。これがなかなかうまいのである。うまくてご飯の存在を忘れてしまう。結局ご飯は鉄皿に残るドミグラスで食べる。カッコ悪!
 鉄板に焼けこげるドミグラスソースが香り、それだけで我を忘れてしまうのだ。ハンバーグはやや平凡ながら「本当にこれが600円なのか」と言う驚きはある。
 ここならジャンボハンバーグを食べてみたいものだと、清楚な娘さんに料金を支払いかっこよく入間を後にしたのだ。

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ハンバーグの店「タジマ」 埼玉県入間市扇町屋2丁目2-1

 暮れなずむ新大橋通に煌々とともる灯。それが「きっちん さち」である。見たところカウンターだけのいかにも下町然とした洋食屋である。一目見て惹かれるところ大。よく見ると店の隣のイラストカンバンにも「下町洋食」とある。

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 サッシの引き戸が入り口であり、そこがくの字のカウンター。中にはイラストのおじさんと、女将さん。入った途端にいい店だなとしみじみ思わせる何かがある。先客はカウンターに3人、奥にもテーブルがあるがそちらにはお客はいないようだ。この3人、どうも常連さんである様子。
 常連さんとオヤジさんの会話がいい。
「できてどれぐらい経つのかな」
「そうね今年で30年目くらいかな。はやいね」

「お客さん、なんにしますか?」
「なんかおすすめってあります」
「うちはどれもうまいんで、これといってないんです。」

 ここで迷った末にロースカツ定食850円を注文する。これは『とんかつの誕生』(岡田哲 講談社)を読んでいることもあって、洋食屋にはいったらどうしても「とんかつ」となるのだ。この本によると「とんかつ」の原型は明治28年に銀座の『煉瓦亭』で生まれた。ただしこの「豚肉のカツレツ」はあくまで西洋料理コートレットもしくはカットレットの豚肉版でしかない。パンにやや多めの油とバターを入れて焼くようにフライにする。これを上野の『ポンチ軒』で今のようにやや厚切りにした豚肉をたっぷりの脂の中で泳がせるように揚げる工夫をして「とんかつ」の誕生となる。

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 こんなことを考えていると、テンポ良くうまそうなロースカツが出来上がってきた。粗挽きのパン粉でをつけてあげられたロースはさっくっとして、なかの肉はジューシーである。つけ合わせの野菜もたっぷり。ご飯は、これが普通盛り? まさかボクの体形を見て大盛りにしたんじゃないよね。そして自家製だろうかお新香。カツを味わってみそ汁を飲んで驚いた。かなり濃度の高い辛口のみそ汁であるが、出汁のうまみが感じられること。そしてそんな濃厚なものなのに吸い口がさっぱりしている。
「うまいですね。みそ汁」
「ロースもうまいでしょ」
 これは女将さん。
「そうでしょ。みそ汁にはゆずを絞り込んでるの。うまいでしょ」
 ご夫婦の対応がいたって気持ちのいいもの。こんな店は絶対に多摩地区、新興住宅街にはない。

 そう言えば昔、「ありがとう」というテレビドラマがあって、これは下町から新興住宅地のあたらしく出来た商店街に越してきた魚屋の話だったように記憶する。そんな下町の近郊住宅地への移入なんてこと本当にあったんだろうか?

 さてさて江東区住吉の夜は更けていく。そして現(うつつ)の西に向かうのだ。

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