東京に出てきて、迂遠になったものがあって、それがお好み焼きである。
徳島県では、近所に必ずお好み焼き屋があって、備え付けの分厚い鉄板で、すぐにうまいのが食べられる。
ボクが子供の頃なんて、街角街角にお好み焼き屋があって、部落部落の子供達が縄張り的にひいきの店を持っていた。
子供達の社交の場であったし、「くらやみ五段」とか「おれはスカタン」なんて月刊漫画を読んでいたのも、お好み焼き屋だった。
大阪を中心に関西でも、これは当たり前だろう。
事ほど左様にお好み焼きには子供の頃から慣れ親しんできた。
今では外食ではなく、ときどきお昼なんかに作ることの多いお好み焼きであるが、我が家のは関西風というやつだろう。
小麦粉を水で溶く。
これを小丼などに入れ、キャベツ、イカ、天かす、卵を加えて、焼く直前にかき回す。
後は焼くだけで、ソースが徳島の加賀屋のものだという以外に何の変哲もない。
関西風があれば、もう一方に広島風がある。
これがどのようなものなのか、明白ではないのだ。
関東にも広島風お好み焼き屋はある。
なんどか食べたことがあるのだけど、印象に残っていないのだ。
と言うことで広島で時間が出来たので、お好み焼きを食べに市電に乗り込む。
観光案内所で「八丁堀でおりるとすぐですから」と聞いたのは「お好み村」である。
なにしろ時間がないので、本命中の本命を目差す。
八丁堀で降りて「ふくや」というデパートの裏当たり、別に探すこともなく、「お好み村」の看板に出くわしたのだ。
なんだか新宿歌舞伎町にありそうな雑居ビル。
2階から4階までにお好み焼き屋が入っている。
店舗数はあまり多くはないようだ。
とにかく4階まで。
エレベータを下りると、賑やかな声がするが、混んでいる店と、まったく客のいない店が極端。
ここですんなり店を決めるのもおかしいので、3階に降りてみる。
店舗は通路の片側に並んでいて、営業していないのが目立つ。
奥に行くと満員に近い店があって、それが「てつ平」。
その手前に母子であるらしいのが営業している、お客のいない店があって、面倒なのでここに決める。
この店の名が「たけのこ」である。
初めてなので、店のお母さんらしき人の薦めに従い。
スタンダードなお好み焼き750円にイカを加えたものにする。
そして生ビール。
注文と同時、熱い鉄板に溶かした小麦粉を丸く円を描いて伸ばしていく。
なかなか鮮やかな手並みである。
そこにせん切りキャベツ、もやしを乗せて、天かす、イカ、豚ロース肉を富士山のように高く積む。
そしていきなりひっくり返すのだ。
たぶん、底に豚肉、そしてイカ、もやし、キャベツの順で天に平たいお好み焼きの本体がのる。
なんと関西でお好み焼き本体と見受けられる部分は、ひらひらした菓子箱の紙ほどでしかない。
ここで暫し、焼くというよりも野菜部分は蒸されている状態にある。
ほどなく、お好み焼き本体の脇で目玉焼きを焼き始める。
目玉焼きだと思ったらいきなりグジャリとするする潰されたので玉子焼きだろうか?
かたわらではいつの間にか焼きそばが作られており、卵焼きの上にのせて、そこにどっこいしょと本体を乗せて、またまた暫し待つ。
最後にまた天地返しをして出来上がりだ。
目の前のあまりに大きなかたまりに、とても食べられそうにないと思った。
本日は、すでにいろいろ食べた後なのだ。
圧倒されつつ、コテを差してみる。
サクっと入る。
生地の部分は薄く、ほとんど野菜と肉イカ卵のミルフィーユなのだ。
おお、うまいではないか。
もやしも、キャベツ、焼きそばも生地も思った以上に一体感がある。
そこに香ばしい香りがあるのだけど、これは卵焼きから漂ってくるものらしい。
肉野菜イカいためを食べているような、焼きそばを食べているような、全体的にはお好み焼きなんだな、という不可思議な物体がソースの味わいでよくまとまっているのだ。
この「不可思議なまとまり感=広島風お好み焼き」らしい。
そう言えば、絶えてなかったことだけど、やっぱりお好み焼きは生ビールなんだな。
お母さんと、現首相が「いかに●●であるか」、また「近所のふくや」というデパートは原爆投下あとにもっとも早く営業を開始したのよ」、そして「戦後すぐのころから、このへんにお好み焼き屋さんが集まって来たのよ」なんてことを聞くともなく聞く。
テレビ画面には“七色仮面”が出ている。
何故だろう、なんて考えていたらとても物憂い気持ちにもなってきた。
お好み村
http://www.okonomimura.jp/
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