豆腐図鑑: 2006年8月アーカイブ

 八王子の西にそびえるのが高尾山。国道20号線、現甲州街道から裏通りに入り、高尾山の北方、小仏まで抜ける道に入る、これが江戸時代からの甲州街道なのだ。ここには古い寺もあるし、当然ながら高尾山の動植物に出合える得難い地なのである。ただ、残念なのは未だに「人にも、未来にもちっとも役に立たない圏央道」の高尾山貫通という暴挙が進んでいて、最近この高尾山の大天狗様が困っているのだ。
 まあ話はそれすぎてしまいそうなので、峰尾豆腐店に話を移す。峰尾豆腐店は裏高尾の道を奥に奥に入って、摺差という不思議な部落にある。そのそっけない店舗と製造所で、この裏高尾の豊かな水を使って作られるのが「するさしの豆腐」である。豆腐は木綿豆腐(120円)の一種類というのもいい。それに寄せ豆腐(210円)とがんもどき(110円)や生揚げ(130円)、油揚げ、おからドーナッツ(5つ350円)。
 我が家がいつも買うのはボク用に木綿豆腐、家族は寄せ豆腐となる。この木綿豆腐がいかにも毎日でも食えそうな、淡麗でしかもそこそこに豆の甘味や旨味も堪能できる。これが「豆腐」だという本来の形なのがいい。
 帰りには、断りを入れて地下水もお土産にするといいい。これで「湯豆腐」というのが最高の贅沢となる。

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峰尾豆腐店
http://www.mineo-tofu.com/

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 大磯にある「真壁豆腐店」は関東にあってもっとも好きな豆腐店である。もともと大磯は相模湾を臨む一漁村であった。これを国民健康のために海水浴を取り入れようとした松本良順が、日本初の海水浴場を開いたのが明治18年。以後、伊藤博文など政府高官の別荘地として発展してきた。明治39年創業という「真壁豆腐店」もそんな別荘族のために出来た大磯の老舗群のひとつだろう。
 今でも近所には敷居の高そうな蒲鉾屋や和菓子屋などがあるがここはいたって庶民的な店。この店に吉田健一の父であり、元首相の吉田茂が豆腐を求めていたのは有名な話だが、店内に入ってもそんなこと気振にも感じない。ちなみに吉田茂が買っていたのは、この店のもっとも値段の安い木綿豆腐。これだけでこの気骨がありしかも今時の政治家に微塵も存在しないリベラルな考え方を多大にもった政治家であったというのがわかる。ついでにボクもいたってリベラルで人道的、しかも平和主義者なので買って帰ってくるのは普通の木綿豆腐。これはお金がないからでは、ぜんぜんなくないが、ほとんどない。

 伊豆や小田原まで行くと、帰りは料金の高すぎる小田原厚木道路で厚木に出るのが早い。それを遠回りして1号線を信号機につかまりながら、しかも時々渋滞に悩まされて、大磯にたどり着く。
 いつも買うのは木綿豆腐1丁140円と辛子豆腐180円、油揚げ120円(2枚入り)である。「笹のつゆ」という高い豆腐もあるのだが、これがうまいにはうまいが、その旨さが酒を引き立たせない。そう言えば、ボクが普通の木綿豆腐を好きなのも日本酒好きだからかも知れない。日本酒に珍味佳肴をなんて言う人がいるが、これがまったくわからない。おかしいと思っている。また辛子豆腐は家人の好物でボクが自分にもと3つも買ってひとつだけ下さいな、といってもなかなか分けてくれない。しかし軟らかい、きめの細かい、微かな苦みと甘味のある豆腐にすかっと辛いあんこを入れるなんて誰が考え出したものだろう。ボクならノーベル豆腐賞をあげる。
 この主役である普通の豆腐のうまさは、まさに水が大豆と仲良く混ざり合ったうまさだ。微かな苦汁や大豆から出てくる苦み、そして大豆の香り、甘味があって、それが全部ほどほどなのが良い。そう言えば今時の高い豆腐ばかり作っているヤカラはどうもこのような普通の豆腐の真味がわかっていない。そこに岐阜県の「三千盛」でもクイっといくと、もう極楽浄土(ボクは死んでしまう)なのだ。

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 初めて真壁の豆腐を知ってから、もうかれこれ20年以上が立つが、未だに伊豆・小田原などに行くと手が勝手に大磯を目差す。立ち寄れないと、なんだかもの足りない。関係ないけど釣り師としては真壁豆腐店に立ち寄るために無理矢理「アジ釣り」に出かけたことがある。面白いのは大磯での釣り船の名が「とうふや丸」。なんでだろうな?

真壁豆腐店
http://www.makabenotofu.jp/index.html

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 埼玉県飯能市「とんき食品」で見つけたのが真四角のさいころ型の豆腐で、これに少なからず衝撃を思えたことを書いた。では飯能の他の豆腐店はどうだろう? と改めて探したのだが当日はあいにく夏祭りの最中。うるさい姫を連れてはあっちこっち動き回るわけにもいかない。そんな祭で露店が並ぶ大通りで見つけたのが「問屋豆腐店」なのである。
 通りから10メートル近くあけて古いモルタル造りの建物がある。その建物に「問屋」とあり、上に「豆腐・雑穀・食用油」の文字。どこにも屋号がなく、店の奥で老婦人がふたりおしゃべりをしている。そこに姫を連れて入っていく。

「あの、夏だから豆腐を買って帰ると言うわけにもいかないんですが、ここではどんな豆腐を作っています」
 まったく変な客なのである。
「どんなって大きいよ。こんなに大きいの。ウチの豆腐は夏だって1時間や2時間じゃ腐らないよ」
 と出してきてくれたのが本当に大きな大きな「もめん豆腐」なのだ。
「じゃ1丁だけ買って帰ってみます」
 と、昔から真四角の豆腐を作っていたのか、飯能の豆腐はみんな真四角なのかを聞いてみた。
「ウチは四角いけどね」
「あの、飯能銀座に『とんき』って言う豆腐屋さんがあるでしょ。あそこが真四角なんです」
「あれはね、ここから出たの。ここの子供だよ」
 すると「問屋豆腐店」「とんき食品」の豆腐が真四角である起源はここであることになる。
「昔はね。ここは市場だったの。いろんな食料品を扱っていたわけ。今じゃ豆腐を作っているだけだけど、昔はそれは賑やかでね」
 東飯能からまっすぐ西に向かう「中央通り」は広小路から高麗横町と交差する「問屋豆腐店」のあるあたり、そして市立図書館までを「大通り商店街」という、この当たり昔は近隣からの産物を集めて市が立ち、飯能でももっとも賑やかなところであった。そんな大通りを歩く内に気が付いた。「問屋豆腐店」のように道から数メートルさがって立つ建物があって、これは昔市場が立っていた名残なのではないだろうか?
「問屋豆腐店」がその古くから続く食品加工の店であったのなら、飯能の本来の豆腐=「真四角」という
が確定的になる。ちなみにボクの豆腐屋めぐりで買い求めた「形」を検証すると神奈川は総て長方形、千葉も長方形なのである。そして埼玉では飯能で2軒、日高市で1軒が真四角である。
 さて、これから2,3時間もかけて家までたどり着く。そしてさっそく夕食にいただいたのだが、容器から取りだしてビックリした。なんと「問屋豆腐店」のもめんは「へそつき」である。これは徳島の豆腐とそっくりだ。また豆腐はまったく傷んでいなくて、晩酌のともとして全部いただきました。しかし食べ応えのあるでっかい豆腐なのだ。

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小川幸男 埼玉県飯能市仲町21-19

 これ八王子祭(毎年暑さに疲労困憊する)で疲れ果てて、夕べに豆腐でも食べたいな、と思いあまって八王子そごうの地下で買ったものだ。太郎が買っているそばから「うまい豆腐がいい」というのでなんと300円を超える大枚をはたいてしまった。はたしてこの豆腐に300円以上の価値があるか?
 ないのではないかと思う。なぜならば120円前後の神山豆腐店、峰尾豆腐店、日野の三河屋と比べてどうか? ぜんぜん傑出していないのだ。どうもこのように最初から高い材料を使い、凄いものを造ってやろうともくろむ人には庶民的な味わいの豆腐ではいいものが作れない。この値段で例えばこれも嫌いと言えば嫌いなタイプの三和豆友(「男前豆腐」、こちらの方が安い)と比べても味わいは劣るのではないか?
 確かに大豆の旨味を感じるし、甘味もあるだろう。でも味わいはいかにも平凡である。個人的にこの味わいで出せる限度額は200円以下である。ただし、この高い値段で儲けようとしているのではなく「国産大豆農家を助けたい」ということなら支払ってもいいかな300円以上を。
 またアメリカ産の大豆を使ってもうまい豆腐を造る店はあると思うので、個人的には「材料を誇る」ヤカラは嫌いだ。だいたい客から「どうしてこんなにうまいんでしょう?」と聞かれて初めて「うちでは国産の大豆を材料としています」と答えるくらいがすがすがしいな。格好いい!
 ただし、この値段には八王子そごうというデパートの上乗せがあるのだろうか? もしくは商売上の戦略かもしれない。面白いのは大阪のデパートでは「ただ高い」なんて商品は許されない。むしろデパートの方が安いということもある。ところが関東では未だにデパートでは高くてもいいと思っているようだ。
 最後にボクには微妙な味わいの違いはわからない。だいたいわからなくていいと思っている。ほんの微々たる違いには往々にして当人の美意識や思い入れなど無駄なものが上乗せされる。でも120円と300円以上の差は大きすぎる。大失敗であった。

 蛇足で「スーパーイシカワ」石川栄二さんの名言を
「どっちの料理ショーだけはゆるせないな。いっぱい金かけて、日本中飛び回って、なにが料理だっての。こっちはいろいろ考えて仕入れして、出来るだけうまいもんを安く売るのに毎日苦しんでるだろ。あんなのおかしい」
 ちなみに「スーパーイシカワ」は八王子でももっとも安くうまい刺身を売る魚屋である。

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豆匠たかち「一丁庵」
http://www.icchoan.co.jp/

 日高市の農産物直売所で見つけたもの。これがまさに真四角の木綿豆腐。大きい、重い、そして安いの三拍子揃った優れものの普通の豆腐。この日高市というのは「高麗」すなわち奈良時代の高麗郡の置かれたところ。当然、飯能も高麗郡の一部なのだ。高麗郡というのは関東周辺の7カ国から高麗人(朝鮮渡来人)を集めてきて一郡としたところなのだ。それと豆腐が真四角であるのが関係あるんだろうか? ないだろうな?

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むつみや食品 日高市大字台122番地1

 埼玉県の豆腐は真四角か長方形か? これは問題だぞ? そして今回は埼玉県にあって長方形の豆腐を紹介する。
 東松山の「江野豆腐店」を見つけたのはさんざん市内を自転車で走ったあとであった。この東松山駅周辺であるがなんにもない。夕方なら名物の焼きトンもあるだろうけど、駅周辺の寂しいこと。
 あまりの無駄歩き振りにうまそうな豆腐屋を見つけてときにはほっとしたのだ。それでいそいそと木綿豆腐と湯葉を買ってくる。これはなかなかうまい豆腐である。大豆の香りも高く、また甘味も感じられる。湯葉もまあまあのラインを確保している。
 でもどうして真四角じゃないんだろう。長方形と言うには控えめなのだが、やはり「長方形」なのである、真四角ではない。

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江野豆腐店
http://www.saitama-j.or.jp/~syougyou/genki/shop/w014_tohu.html

 埼玉県飯能市への冬の旅はもうひとつ収穫に欠けるものだった。購入した日本酒ははずれ、期待したうどんは食べられない。そんななかで大発見をしてしまったかも知れないのだ。
 それは飯能銀座商店街の「とんき食品」で買った木綿豆腐、これが真四角なのだ。関東のとうふは長方形だと思いこんでいたのでビックリ。今考えると油揚げを買ってこなかったのは今回最大の失敗かも(後にいなり寿司を見て俵型なのを知る)。これで油揚げが四角なら、いなりずしの形はどうなうのだろう?
 考えてみるといなりずしも買う必要があったのだ。豆腐の形がいなりずしの形を決めてしまうのは当然のこと。だから関西や四国の、きつねずし(いなりずし)はずきん型なのだ。それが関東の豆腐は長方形ゆえに油揚げも長方形、それで、いなりずしは俵型となる。
 ひょっとして埼玉の豆腐は真四角なのだろうか? もしくは「とんき食品」だけが真四角? これでまた飯能に行かなければならなくなったわけである(問屋という屋号の豆腐も真四角なのだが、それが飯能の豆腐の一系統である)。
 さて、忘れてならないのが「とんき食品」の豆腐の味わい。やや平凡ではあるが丁寧に作られた、うまいものだった。

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飯能銀座商店街
http://www.hanno-ginza.com/

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